【研究成果のポイント】
全国の診療データベースを用いた解析により、2010-2019 年度に日本で注意欠如・多動症(ADHD)と新規に診断された人数を調べ、大人も子どもも新規診断数が増加したことを明らかにしました。とくに 2012 年から 2017 年にかけて大人の新規診断数が大幅に増えたことがわかりました。
【概要】
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室・精神医学教室の篠山大明准教授、本田秀夫教授らの研究グループは、全国の診療データベース(National Database [NDB])を用いて、日本における ADHD の新規診断数を調査しました。その結果、ADHD の年間発生率は、2010-2019年度の間に 0-6 歳の子どもで 2.7 倍、7-19 歳で 2.5 倍、20 歳以上で 21.1 倍に増加したことを明らかにしました。とくに、2012 年度から 2017 年度にかけての大人の ADHD の発生率の増加が最も顕著でした。
この研究成果は 2022 年 9 月 30 日付で JAMA Network Open に掲載されました。
【背景】
ADHD は子どもで最も頻度が高い神経発達症の一つであり、半数近くは成人後も診断が持続します。しかし、大人の障害としての認知度が不十分であるためにしばしば過少診断されることがあります。本研究では日本における ADHD 診断の実態を調査するため、全国の医療データを集約した NDB を用いて、子どもと大人の ADHD の全国的な新規診断数の調査を行いました。
【研究手法・成果】
2009-2019 年度に新たに ADHD と診断された人の性別と診断時の年齢グループを NDB から抽出し、2010-2019 年度の各年度について、ADHD の新規診断数を対象の年齢グループの総人口で割ることによって、各年度の発生率を計算しました。
その結果、2010-2019 年度に 838,265 名が日本で ADHD と新規に診断されたことが明らかになりました。0-6 歳の子どもでは女児 23,292 名、男児 97,986 名、7-19 歳では女性 91,891 名、男性 289,862 名、20 歳以上では女性 160,239 名、男性 174,995 名でした。ADHD の年間発生率は、2010-2019 年度の間に 0-6 歳の子どもで 2.7 倍(女児 2.9 倍、男児 2.7 倍)、7-19 歳で 2.5倍(女性 3.7 倍、男性 2.2 倍)、20 歳以上で 21.1 倍(女性 22.3 倍、男性 20.0 倍)に増加していました。とくに、2012 年度から 2017 年度にかけての大人の ADHD の発生率の増加が最も顕著で、2018 年度にピークとなりました。
【波及効果・今後の予定】
本研究は、日本における ADHD の診断率が増加していることを報告しました。とくに成人での大幅な増加には、大人の ADHD の認知度の高まりが影響していると考えられます。
ADHD 治療薬が 2012 年に日本で初めて成人へ使用が承認されたことも大人の ADHD の認知度の高まりに貢献したと推測できますが、本研究では増加の要因については調査していないため、今後の研究で検討する必要があります。ADHD の頻度の変化を正確に捉えることは、有効な支援体制の実現のためにも、ADHD の危険因子や病因を研究する上でも重要なことです。今後も ADHD の発生率の動向調査が引き続き行われる予定です。
【論文タイトルと著者】
タイトル:Trends in Diagnosed Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Among Children,Adolescents, and Adults in Japan From April 2010 to March 2020
著者:Daimei Sasayama· Rie Kuge · Yuki Toibana· Hideo Honda
掲載誌:JAMA Network Open
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2796857
詳細▶︎https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/topics/2022/10/13169850.php
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。