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超高齢化社会における心不全治療薬の退院時投与と一年予後の関連~リアルワールド診療データ解析~

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国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)のオープンイノベーションセンター情報利用促進部の中井陸運室長・岩永善高部長と奈良県立医科大学・大阪大学の研究チームは、厚生労働省が保有するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database、以下NDB)を用いて、心不全患者を対象として、β遮断薬・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ACEI/ARB)が良好な予後と関連するも、そこには年齢が関与している事を明らかにしました。 

本研究成果は、オープンアクセス査読付き科学雑誌「Biomedicine & Pharmacotherapy」にて2022年10月3日にオンライン公開されました。

■背景と方法

心不全においては、高齢患者が中心を占め、多併存疾患や多剤併用が問題になっているが、高齢者における心不全薬と予後との関連を見た研究は乏しい。本研究では、我が国最大のリアルワールド診療データであるNDBデータを用いて、退院時の心不全治療薬と一年予後との関連を解析致しました。 

2013年度から2018年度までの6年間において、急性心不全入院患者をNDBデータベースより抽出しました。その内、急性冠症候群が合併している患者・院内死亡した患者・退院時処方に心不全治療薬を1つも投与されていない患者を除外した、4,351病院325,263名を解析対象としました。アウトカムについては一年以内の総死亡、再入院、および心不全再入院としました。

■結果

急性心不全初回入院患者において232,886名(71.6%)が75歳以上であり、85歳以上は130,230名(40.0%)でした。また、総死亡のほとんどが75歳以上を占めており、心不全再入院の47%が退院後2か月以内でした(図1)。退院時心不全薬として、利尿薬が277,516名(85.3%)と最も多く、β遮断薬は54.3%、ACEI/ARBは54.4%、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)では43.7%に投与されており、この3剤は高齢になるにつれ、投与率が低くなる傾向がありました。さらに、多変量生存解析における死亡リスクは、β遮断薬投与群で16%減少、ACEI/ARB投与群で27%減少している結果となり、心不全再入院でも、β遮断薬投与群で2%減少、ACEI/ARB投与群で11%減少している結果となりました。MRA投与群では、死亡リスク減少は認めなかったものの心不全再入院リスクは17%の減少を認めました。85歳以上の超高齢者を対象としても、死亡リスクが、β遮断薬投与群で9%減少、ACEI/ARB投与群で23%減少する結果となりました。年齢による層別解析では、β遮断薬あるいはACEI/ARB投与群では年齢依存性にその有効性は減少し、特にβ遮断薬について、80歳以上では心不全再入院リスク減少効果が消失していました。一方MRA投与群では、高齢によって有効性が減少することはありませんでした。(図2)

■今後の展望

超高齢者化社会である我が国のリアルワールド診療データベースにおいて、心不全患者におけるβ遮断薬とACEI/ARBの有効性が示されました。ただそこには年齢依存性の関係があることも示されました。本研究結果は、リアルワールドエビデンスとして、今後、超高齢者における薬物治療の改善と多剤併用のリスク回避に寄与することが期待されます。

■発表論文情報

筆者:Michikazu Nakai, Yoshitaka Iwanaga, Koshiro Kanaoka, et al.

題名:Age-dependent Association of Discharge Heart-Failure Medications with Clinical Outcomesin a Super-aged Society

掲載誌:Biomedicine & Pharmacotherapy

DOI: https://doi.org/10.1016/j.biopha.2022.113761

■謝辞

本研究は厚生労働科学研究補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「循環器病の医療体制構築に資する自治体が利活用可能な指標等を作成するための研究」、「循環器病に係る急性期から回復期・慢性期へのシームレスな医療提供体制の構築のための研究」より資金的支援を受け実施されました。

ハザード比は、相対的な危険度を客観的に比較する方法です。今回の研究で調べた薬(β遮断薬、ACEI/ARB、MRA)がそれぞれ投与した場合と投与していない場合を比べたとき、ハザード比が1であれば死亡率や再入院率に差はなく、ハザード比が1より小さい場合には投与した方が死亡率や再入院率が低く、その数値が小さいほど有効であるとされます。逆にハザード比が1より大きい場合には死亡率や再入院率が高いということになります。このグラフでは、性別,強心剤の使用,人工呼吸器の使用,心臓リハビリテーションの有無,輸血の有無,退院時のその他の心血管系薬剤,病因・合併症を組み込んで調整した調整ハザード比を95%信頼区間(95%以上正しいと考えられる範囲)とともに示しています。

詳細▶︎https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_34735/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

超高齢化社会における心不全治療薬の退院時投与と一年予後の関連~リアルワールド診療データ解析~

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