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家族介護者にもさまざまな専門職からのケアが必要 〜適切なセルフメディケーションに向けて〜

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慢性の病気の患者を介護する家族(家族介護者)の健康状態は、被介護者の介護を継続していく上で、重要な要素です。家族介護者の健康⾏動の⼀つとして、セルフメディケーションがありますが、その実態はほとんどわかっていませんでした。セルフメディケーションは、市販薬などで⾃らの健康問題に対応することを指し、軽い症状での不要な医療機関の受診を抑制し、医療費の削減にもつながるため、政策的にも推進されている⼀⽅で、誤った使⽤や乱⽤などによる有害事象や処⽅薬との相互作⽤といったリスクも指摘されています。しかし、これまで、セルフメディケーションに関して、家族介護者に焦点を当てた調査は限られていました。

本研究では、家族介護者に対するアンケート調査を⾏い、被介護者(患者)に関わる医療や介護のさまざまな専⾨職から介護者⾃⾝が受けるケアの経験と、セルフメディケーションの実態を評価し、その関連を分析しました。その結果、約 1/3 の家族介護者がセルフメディケーションを⾏っており、さまざまな専⾨職からのケアを受けた経験をより⾼く評価している家族介護者は、セルフメディケーションを⾏わない傾向にあることが⽰唆されました。

本研究結果から、医療・介護専⾨職は、患者の健康状態のみならず、家族介護者の健康にも⽬を向け、セルフメディケーションに関する適切な助⾔を⾏うべきであると考えられます。

 

研究代表者

筑波⼤学 医学医療系

⾇本 祥⼀ 講師

 

研究の背景

我が国では⾼齢化に伴い、慢性の病気の患者を介護する家族(家族介護者)の数も増加しています。これに伴い、家族介護者⾃⾝の健康状態が介護の継続に影響を与えることが分かっていますが、これまでの報告では、家族介護者は介護に追われる中で、⾃らの健康管理をおろそかにしがちとされています。多くの介護者は患者の介護に対して、ストレスや負担を経験しており、介護負担は⾝体的、精神的、⼼理社会的にも⼤きな影響を及ぼします。また、介護者⾃⾝も⾼齢化し、慢性の病気を抱えながら介護しているケースも増加しています。

⼀⽅、セルフメディケーション注 1 は、⽇常の健康問題を管理する上で、⼀つの有効な⼿段ですが、医療従事者への相談を経ずに利⽤できることから、薬剤の誤った使⽤や乱⽤、予期しない有害な事象や薬剤同⼠の相互作⽤のリスクもあります。しかしながら、セルフメディケーションに関するこれまでの研究は、患者⾃⾝の健康問題に関する調査が多く、家族介護者についての実態は分かっていません。また、家族介護者のセルフメディケーション利⽤に対しては、患者に対してケアを提供している医療や介護の専⾨職の認識も不⼗分と考えられます。

在宅で療養する慢性の病気を患う患者は、医師、看護師、リハビリテーション職、薬剤師やケアマネージャーなど複数の専⾨職から治療・ケア・⽀援などを受けており、家族介護者も患者の介護を通して、しばしばそれらの専⾨職とコミュニケーションをとっています。このことに基づき、本研究グループは、「家族介護者のセルフメディケーション利⽤は、こうしたさまざまな専⾨職から提供されるケアの経験と関連するのではないか」、と仮説を⽴てました。医療や介護の専⾨職は、患者の健康問題のみに⽬がいきがちですが、介護者⾃⾝の健康問題やそれに対するセルフメディケーションの実態を知ることは、介護者の⽀援を考える上で重要であると考えられます。

そこで本研究では、慢性の病気を介護する家族介護者に対して、介護者⾃⾝が医療や介護の専⾨職から受けたケアの経験、セルフメディケーションの実態、その関連性などを評価しました。

 

研究内容と成果

本研究では、茨城県内の 3 ⾃治体に居住する、慢性疾患で⾃宅療養を⾏う患者の家族介護者を対象として、2020 年 11 ⽉から 12 ⽉にかけて無記名の郵送アンケート調査を実施しました。

このアンケートでは、J-IEXPAC CAREGIVERS 注 2という尺度を⽤いて、介護者⾃⾝が医療や介護の専⾨職から受けたケアの経験と、セルフメディケーションの実態を調査しました。介護者のセルフメディケーションについては、過去 14 ⽇間に OTC 医薬品注 3、サプリメント、健康⾷品などを使⽤したかどうかを尋ねました。

その結果、887 名から回答があり、⽋損データがあった対象者などを除いた 750 名のデータを解析しました。回答者の平均年齢は 61.4 歳、性別は⼥性が 74.3%であり、家族介護者の過去 2 週間以内のセルフメディケーションの利⽤は、全体の 34.4%という結果でした。また、年齢・性別・学歴・収⼊・介護者⾃⾝の主観的健康感といった要因の影響を取り除いた解析を⾏ったところ、J-IEXPAC CAREGIVERS の上昇(専⾨職から提供される⽀援、気遣い、助⾔といった患者や介護者へのケアをより良好と感じていること)は、介護者がセルフメディケーションを利⽤しないことと関連があるという結果でした。

今回の調査の結果から、家族介護者の 1/3 がセルフメディケーションを⾏っていることが分かりました。また、さまざまな専⾨職からより良いケアを受けていると評価している家族介護者は、セルフメディケーションを⾏わない傾向にあることが⽰唆されました。その背景として、家族介護者が患者のケアに関与する専⾨職と良い関係を築けていると感じられる場合には、介護者⾃⾝のことについても専⾨職に助⾔を求めたり、医療機関を受診しやすいのではないかと考えられました(図1)。

 

今後の展開

本研究は、家族介護者のセルフメディケーションの実態について報告した、世界的にも初めての研究であり、そこに患者のケアに当たる専⾨職との関わりが影響を与えていることを⽰唆する貴重な知⾒です。患者にケアを提供する専⾨職が家族介護者のことまで気にしなければいけないのか、という議論もありますが、少なくとも介護者の健康状態を意識し、セルフメディケーションを含めた健康⾏動について適切な助⾔を⾏うことは、医療・介護従事者の役割だと考えられます。

コロナ禍においては、セルフメディケーションの役割も⼤きくなっており、今後、介護者が適切なセルフメディケーションを⾏うために必要な⽀援について、検討する必要があります。

 

参考図

図1 家族介護者におけるさまざまな専⾨職からのケアの経験に対する評価とセルフメディケーション利⽤との関連性

 

⽤語解説

注1) セルフメディケーション

「⾃分⾃⾝の健康に責任を持ち、軽度な⾝体の不調は⾃分で⼿当てすること」と定義され、具体的には、市販薬などで⾃らの健康問題に対応することを指す。

注2) J-IEXPAC CAREGIVERS

IEXPAC CAREGIVERS は、慢性の病気を抱える⼈とその家族介護者に対して提供される専⾨職ケアのプロセスを家族介護者の視点で評価する尺度。本研究で⽤いた⽇本語版(J-IEXPAC CAREGIVERS)は、本研究グループの中⼭らが作成したものである。

注 3) OTC(Over The Counter)医薬品

医師に処⽅してもらう医療⽤医薬品ではなく、薬局やドラッグストアなどで⾃分で選んで買える⼀般⽤医薬品と要指導医薬品のことで、⼀般的には市販薬とも呼ばれる。

 

研究資⾦

本研究は、科研費の⼀環として実施されました。

 

掲載論⽂

【題 名】 Association between experience of interprofessional care and self-medication amongfamily caregivers: A cross-sectional study(家族介護者における多職種ケアの経験とセルフメディケーションの関連性)

【著者名】 Shoichi Masumoto, Gen Nakayama, Junji Haruta, Tetsuhiro Maeno

【掲載誌】 Research in Social and Administrative Pharmacy

【掲載⽇】 2023 年 1 ⽉ 10 ⽇(オンライン先⾏公開)

【DOI】 10.1016/j.sapharm.2023.01.005

 

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230123140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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