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感覚運動レベルにおける行為主体感の頑健性

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行為/運動主体感(sense of agency:SoA)とは「このボールを蹴っているのは私だ」とか「このお皿を割ったのは私だ」など、日常生活で起こる行為の結果を自分に帰属させる主観的な意識のことです。感覚・運動に障害が生じると予測と実際の感覚が一致しないことがあり、それにより行為時の快適さが失われ不快感を訴えるケースがみられます。これは後遺症によって生涯にわたって頑健(つまり「適応できない」)に継続するのかは不明でした。畿央大学健康科学部理学療法学科4回生 三嶋 瑞穂さん、森岡 周教授、ニューロリハビリテーション研究センター 林田 一輝客員研究員らは、東京大学大学院人工物研究センター 温 文特任准教授と共同で、実験的に感覚予測と結果を一致あるいは不一致させる群を設け、一定の期間それに暴露させることで行為主体感が変化するかを調べました。その結果、短期間では行為主体感は変化しない、すなわち頑健であることが明らかになりました。この研究成果はBehavioral Sciences誌(Adaptability of the Sense of Agency in Healthy Young Adults in Sensorimotor Tasks for a Short Term)に掲載されています。

 

研究概要

行為/運動主体感(sense of agency)とは「ある運動・出来事を引き起こしている、生み出しているのは自分自身である」という主観的な制御の感覚・意識のことです。行為主体感は感覚予測と実際の感覚結果が一致すれば起こり、それらが一致しなければ低下あるいは喪失すると考えられています。例えば、神経疾患、統合失調症、自閉症スペクトラム障害では行為主体感の低下や喪失が報告されています。こうしたケースは、行為のたびに予測と結果に不一致が生じ、自らの行為への不快感につながることが示唆されます。脳卒中後の運動障害は残りやすく、行為に対する不快感が頑健(すなわち「非適応的」)に継続する可能性が考えられます。しかしながら、一定の期間、感覚予測と実際の感覚結果の不一致に暴露されることによって、行為主体感が適応的に変化するか否かは不明でした。また、行為主体感に影響する抑うつ傾向、統合失調症傾向、感覚過敏などの心理状態の個人差がその適応性に影響するかは不明でした。そこで畿央大学健康科学部理学療法学科4年生 三嶋 瑞穂さん、森岡 周教授、ニューロリハビリテーション研究センター 林田 一輝客員研究員らは、東京大学大学院人工物研究センター 温 文特任准教授が開発した実験課題(PCカーソルの自己制御比を実験的に操作することで行為主体感の変化を検出するもの)を用いて、一定期間、感覚予測と実際の感覚結果の一致(一致群)あるいは不一致(不一致群)の暴露による行為主体感の変化を捉えました。その結果、一致群と不一致群の行為主体感の変化に有意な差はみられず、行為主体感が適応的でなく頑健である可能性を示しました。また一致群のみ、暴露前後の行為主体感の変化が抑うつ傾向と関係することがわかりました。

 

本研究のポイント

○感覚予測-結果の不一致への暴露によって行為主体感は適応的に変化するかを調べた。

○その結果、感覚運動水準においては、行為主体感は適応的でない(頑健)であることがわかった。

 

研究内容

33名の健康な実験参加者を感覚予測と実際の感覚結果の一致群(一致群)と不一致群に分けました。MATLABとPsychtoolbox (MathWorks, USA) を使用して、行為主体感を検出する課題を作成しました。参加者はタッチパッドを使用してPC画面上のドットを4秒以内に自由に操作するように指示されました。なお、ドットの動きを自分の操作0~100%の中で10%ごとにランダムに反映させました。試行数は1試行4秒間の操作を計110試行(0~100%を10%ごとに各10回)とし、「“ドットの動きに違和感があっても”自分が動かしていると感じれば Yes と答える」よう参加者に要求し、個人の行為主体感の閾値を算出しました。図1は実験課題の例ですが、タッチパッドを使用して画面上のドットを操作した際、そのドットが自分によってコントロールできていると感じているかどうかが評価されました(図は100%または50%コントロールの例)。不一致群では算出した個人の閾値より10%低い値を100試行、一致群では完全に自分の動きで100試行実施させました。

 

図1.行為主体感を捉える実験課題

参加者はタッチパッドを使用して PC 画面上のドットを操作し、4 秒以内にドットを自由に操作するように指示されました。そのドットをコントロールできていると感じるかどうかで行為主体感が評価されました。図は100%または50%コントロールの例を示しています。

 

行為主体感の曖昧さの指標である傾きと50%の確率で「Yes」と回答する主観的等価点(Point of Subjective Equality:PSE)をロジスティック回帰曲線を使用して算出しました。また、参加者の抑うつ傾向、統合失調症傾向、感覚過敏を各種質問紙を用いて調べました。行為主体感を表すロジスティック回帰曲線の傾き、PSEに群間差はありませんでした(図2)。つまり感覚予測と感覚結果の不一致への非適応性が示され、感覚運動課題を用いた感覚運動レベルにおいては、不一致を受け入れることが難しいことが示唆されました。一方で、一致群のみで暴露前後の行為主体感の変化が抑うつ傾向と有意な相関関係を示しました。この結果は、抑うつ傾向の場合、感覚予測と結果の一致経験によって行為主体感を向上させる可能性が示唆されました。しかし、長期にわたる感覚予測と結果の不一致の暴露の影響は不明なままです。今後は、長期間の暴露による思考の変化といった認知レベルが感覚予測と結果の不一致といった感覚運動レベルにどのように影響するかを調べる必要があります。

 

図2.行為主体感の変化

行為主体感の指標であるロジスティック回帰曲線の勾配 ( A ) とPSE ( B ) の群別の結果(平均 ± 標準偏差)を表します。検定の結果、交互作用と主効果はどちらも有意ではありませんでした。Congruent group(一致群)、Incongruent group(不一致群)

 

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究における感覚予測と結果の不一致の暴露プロセスは、脳卒中後の片麻痺プロセスを想定しており、学習された不使用の原因に接近する可能性があると予想しています。一方、感覚予測と結果が一致する課題は抑うつ傾向を改善させる選択肢となる可能性が示唆されました。今後は、感覚運動水準の課題に文脈や思考など認知水準の手続きを加え、柔軟に適応できるかどうかを調べる必要があります。

 

論文情報

Mizuho Mishima, Kazuki Hayashida, Yoshiki Fukasaku, Rento Ogata, Kazuki Ohsawa, Ken Iwai, Wen Wen, Shu Morioka

Adaptability of the Sense of Agency in Healthy Young Adults in Sensorimotor Tasks for a Short Term

Behavioral Sciences, 2023

 

詳細▶︎https://www.kio.ac.jp/topics_press/78478/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

感覚運動レベルにおける行為主体感の頑健性

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