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頸椎変性疾患術後に起こる嚥下障害の要因を検討―頸椎疾患に対する前方・後方アプローチ術前後の嚥下動態解析―

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【ポイント】

・頸椎変性疾患患者を対象に、手術前後の嚥下動態と嚥下障害の有無を調べました。

・手術(前方/後方アプローチ)後の舌骨運動は、前方への移動量が減少していました。

・前方アプローチの手術部位、時間そして出血量は、術後嚥下障害に強く関わります。

・さらに、後方アプローチ術前後の嚥下動態を報告したのは本研究が初めてです。

 

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、中川量晴准教授、吉見佳那子特任助教、吉澤彰大学院生、同大学整形外科学分野 大川淳教授、吉井俊貴准教授、平井高志講師、橋本泉智大学院生の研究グループは、頸椎変性疾患の患者を対象に、手術(前方/後方アプローチ)と嚥下動態および機能の関連を検討しました。その結果、各アプローチ術後の嚥下障害はともに前方舌骨運動量の制限が関わり、前方アプローチ術後の嚥下障害は、手術部位、手術時間そして出血量が関連することを示しました。この研究成果は、国際科学誌 The Spine Journal に、2022 年 12 月 17 日にオンライン版で発表されました。

 

【研究の背景】

頸椎変性疾患は、頸髄などの頸椎の周りにある神経が圧迫されることにより、頸部や四肢に痛み、痺れなどの症状を生じます。頸椎変性疾患の手術は、頸椎の前方または後方からアプローチをし(図)、神経を圧迫している部分を除去または圧迫を緩和しますが、手術後に嚥下障害が一定数生じることが知られています。

今まで発表されている術後嚥下障害の発生頻度は、前方からアプローチする手術(前方アプローチ)で 1.7-60.0%、後方からアプローチする手術(後方アプローチ)で 9.4-21.0%と言われ、頻度に偏りがありました。また、嚥下障害を起こすメカニズムについても詳細に報告されていません。今回、当大学整形外科と摂食嚥下リハビリテーション科が連携を取り、頸椎疾患術後の嚥下障害の要因を明らかにすることを目的としました。

 

 

【研究成果の概要】

対象者は、当大学病院整形外科で頸椎変性疾患に対して、前方アプローチおよび後方アプローチを受けた方でした。年齢、性別、原疾患、Functional Oral Intake Scale(FOIS)※1、手術方法、術野、手術時間、出血量を調査しました。また、手術前日、術後 2 週以内に嚥下造影検査(VF)※2で Dysphagia Severity Scale(DSS)※3を評価し、とろみ水 4ml を嚥下した時の舌骨前方/上方運動量、Upper Esophageal Sphincter(UES)最大開大量※4、咽頭通過時間、咽頭残留量※5、嚥下回数、咽頭後壁の最大距離を測定しました。次いで、各アプローチの術後嚥下障害(誤嚥※6あり)があった対象者とそれ以外の対象者の2群に分けて比較しました。最後に、前方アプローチ術後の嚥下障害のオッズ※7を算出しました。

解析の結果、41 名の前方アプローチ術後のうち、26 名(63.4%)が食事形態の調整を要し、12 名(29.3%)に誤嚥所見を認めました。一方、44 名の後方アプローチ術後のうち、18 名(40.9%)が食事形態の調整を要し、4名(9.1%)に誤嚥所見を認めました。嚥下動態の結果は、前方アプローチ術後で前方、上方舌骨運動量、UES開大量、咽頭残留量および嚥下回数が術前と比較して悪化しました。一方、後方アプローチ術後は前方舌骨運動量と咽頭残留量のみ悪化しました。前方アプローチ術後の嚥下障害のオッズは、第 3 頸椎より上位の術野が有ると 14.40、手術中に 100ml 以上の出血が有ると 9.60、200 分以上の手術時が 8.18、3 椎間以上の術野が有ると 6.72 という結果になりました。特に、「上位の術野」が嚥下障害のオッズが高いことから、手術部位が高いほど飲み込みに重要な舌骨運動を司る筋肉および神経との距離が近くなり、舌骨運動が妨げられる可能性が高まると考えられました。

 

【研究成果の意義】

今までに頸椎疾患手術後の嚥下障害を報告した多くの研究は患者主観による評価でした。本研究では、VF検査によって、より正確な嚥下障害発症の割合や程度を報告することが出来ました。同様に、後方アプローチの嚥下障害に関して客観的に報告したことは、本研究が世界で初めてです。前方および後方アプローチともに、嚥下動態に大きく関与する舌骨動態の制限を認め、前方アプローチの嚥下障害では特に第 3 頸椎より上位の手術野、200 分を超える手術時間、100ml を超える出血量が大きく関与しました。この知見により、整形外科の術者やそのチームが術後嚥下障害を予測できるようになることが期待されます。

 

【用語解説】

※1 Functional Oral Intake Scale, FOIS・・・・・・・・Level.1「経口摂取なし」から Level.7「正常(制限なく通常の食事ができる状態)」の7段階で経口摂取の状態を評価する方法。

※2 Videofluorography, VF・・・・・・・・飲み込みの過程や状態を正確に評価するための検査。

※3 Dysphagia Severity Scale, DSS・・・・・・・・DSS1「唾液誤嚥」から DSS7「正常範囲」の 7 段階で嚥下障害の重症度を評価する方法。

※4 Upper Esophageal Sphincter, UES・・・・・・・・のどと食道の境界にある筋肉。

※5 咽頭残留量・・・・・・・・嚥下後の、のどでの食物の残留量。残留量が多いと誤嚥のリスクが高い。

※6 誤嚥・・・・・・・・唾液や飲食物が気管に入ること。

※7 オッズ・・・・・・・・ある事象が起きる確率のその事象が起きない確率に対する比。

 

【論文情報】

掲載誌:The Spine Journal

論文タイトル:Analysis of swallowing function after anterior/posterior surgery for cervical degenerativedisorders and factors related to the occurrence of postoperative dysphagia

 

【研究者プロフィール】

吉澤 彰 (ヨシザワ アキラ) Yoshizawa Akira

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

摂食嚥下リハビリテーション学分野 大学院生

・研究領域

摂食嚥下リハビリテーション

 

中川 量晴 (ナカガワ カズハル) Nakagawa Kazuharu

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

摂食嚥下リハビリテーション学分野 准教授

・研究領域

摂食嚥下リハビリテーション

 

戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授

・研究領域

摂食嚥下リハビリテーション

 

橋本 泉智 (ハシモト モトノリ) Hashimoto Motonori

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

整形外科学 大学院生

・研究領域

整形外科

 

平井 高志 (ヒライ タカシ) Hirai Takashi

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

整形外科学 講師

・研究領域

整形外科

 

吉井 俊貴 (ヨシイ トシタカ) Yoshii Toshitaka

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

整形外科学 准教授

・研究領域

整形外科

詳細▶︎https://www.tmd.ac.jp/press-release/20230309-1/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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