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関節リウマチの治療抵抗性に関わる免疫細胞を発見 ―関節リウマチの個別化医療実現へ期待―

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発表のポイント

・関節リウマチ患者のさまざまな免疫細胞の網羅的な遺伝子発現解析を行い、樹状細胞前駆細胞(pre-DC)の増加によって治療抵抗性を予測できることを示しました。また、関節局所にも炎症性のpre-DC類似細胞が豊富に存在することを明らかにしました。 

・pre-DC は抗 CCP抗体などの既知の因子よりも予後予測能に優れ、関節リウマチの個別化医療に役立つバイオマーカーとなる可能性があります。 

・本研究は関節リウマチの治療抵抗性病態の解明に繋がっていく可能性があります。将来的には樹状細胞を標的とした難治性関節リウマチの新規治療に結びつくことが期待されます。 

pre-DC による関節リウマチ患者の層別化

 

発表概要 

東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科の山田紗依子特任臨床医、東京大学大学院医学系研究科免疫疾患機能ゲノム学講座の永渕泰雄特任助教、岡村僚久特任准教授、東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科の藤尾圭志教授らの研究グループは、高疾患活動性の関節リウマチ患者において様々な免疫細胞の網羅的な遺伝子発現解析を行い、治療前の樹状細胞前駆細胞(pre-DC)の増加によって治療 6 ヶ月後の治療抵抗性を予測できることを明らかにしました(図 1、図 2)。pre-DC は抗 CCP抗体などの既知の予後予測因子よりも予測能に優れているため、pre-DCをバイオマーカーとした関節リウマチの個別化医療が実現する可能性があります。また、関節局所にも炎症性のpre-DC類似細胞が豊富に存在していることから、pre-DCは治療抵抗性関節リウマチの病態に関わる可能性があります。将来的には樹状細胞(注 1)を標的とした難治性関節リウマチの新規治療に結びつくことが期待されます。 

図 1. pre-DC による関節リウマチ患者の層別化 

 

図 2:本研究の概要 

 

発表内容 

〈研究の背景〉   

関節リウマチは関節を包む滑膜の炎症と関節破壊を特徴とする病気で、100~200 人に 1 人が罹患します。生まれ持った体質である遺伝的要因に加え、喫煙、口腔内や気管支・腸内などの細菌環境といった環境要因の両者を背景に免疫に異常をきたし、関節の腫脹や疼痛が出現すると考えられています。 

関節リウマチの病態には、多様な免疫細胞の関与が知られています。樹状細胞をはじめとする抗原提示細胞が、異物の破片を自身の細胞表面上に示し、T 細胞の分化・活性化、B 細胞による自己抗体の産生を引き起こします。ここに炎症性タンパクによる刺激も加わり、破骨細胞の生成が促進され、骨破壊へつながります。これまで T 細胞や B 細胞、炎症性タンパクやその下流タンパク、破骨細胞を標的とした治療薬が開発されてきましたが、より上流に位置する樹状細胞を標的とした治療は存在しません。 

現在の関節リウマチ治療で大きな課題となってきているのが、治療反応性が悪い症例の存在です。生物学的製剤や JAK 阻害薬と呼ばれる強力な治療薬を使用しても、ACR 基準という臨床所見の基準の50%以上の改善(ACR50)は半数程度の症例でしか得られていません。一部の関節リウマチ患者が治療抵抗性であるメカニズムは十分には理解されていません。また、治療反応性を治療前にほとんど予測することができないことも問題となっています。 

 

〈研究の内容〉   

関節の具合が悪い(疾患活動性の高い)関節リウマチ患者 55 名を対象に、新しい治療を開始する前の血液を採取しました。血液から免疫細胞を分取し、それぞれについて RNA シーケンス(注 2)を用いて遺伝子発現を網羅的に評価し、Weighted  Gene  Correlation  Network Analysis(WGCNA)という解析を行いました。WGCNAは遺伝子同士の発現パターンの類似性に基づいて、類似性の高い遺伝子の集まりを数十個程度の「モジュール」に分類することができます。今回、免疫細胞それぞれにおいてWGCNAを実施し、6 ヶ月後の治療抵抗性と最も関連するモジュールを調べたところ、形質細胞様樹状細胞(pDC)の 1つのモジュールが同定されました(図2)。   

近年、pDC として分類されてきた細胞の一部に、稀な細胞集団である樹状細胞前駆細胞(pre-DC)が含まれていることが報告されています。今回の治療抵抗性モジュールの遺伝子は、このpre-DCに特徴的な遺伝子と非常によく一致していました。すなわち、このモジュールはpre-DC細胞の割合を反映しており、pre-DCの増加が治療抵抗性と関連していると考えられました。   

次に、この治療抵抗性モジュールの免疫細胞への影響を検討しました。各免疫細胞でこのモジュールの発現と関連する遺伝子を探索したところ、このモジュールはインターフェロン経路の遺伝子と逆相関していました。つまり、治療抵抗例ではpre-DCの増加、治療反応例ではインターフェロン経路の亢進がみられ、関節リウマチ患者を 2 つのグループに分けられる可能性が示唆されました(図 1)。   

pre-DCの増加が治療抵抗性と関わるという結果の検証のため、活動性の高い関節リウマチの別の 2 つの集団を対象に検証実験を行いました。いずれにおいても治療抵抗例で、pre-DC 関連遺伝子の発現の増加や、pre-DC細胞割合の増加が確認できました(図 2)。また、pre-DC は既知の治療抵抗性予測マーカーである抗 CCP 抗体や罹病期間よりも 6 ヶ月後の予後不良の予測能に優れていました。   

最後に、腫脹、疼痛を起こしている関節局所でのpre-DCの役割を検討するため、関節リウマチ患者滑膜のシングルセル RNA シーケンスデータを用いて、遺伝子発現をもとに樹状細胞を再分類しました。その結果、患者の関節局所では炎症性のpre-DC類似細胞が樹状細胞の約三分の一を占め、炎症性の樹状細胞として報告されている遺伝子を高発現していました。 

 

〈今後の展望〉   

今後の臨床的展望として、pre-DC自体をバイオマーカーとした関節リウマチ患者の新たな層別化があります。治療前のインターフェロン経路の亢進に特徴づけられる比較的予後良好の症例と、pre-DC増加に特徴づけられる比較的予後不良の症例は、免疫学的な病態が異なる関節リウマチにおける別個のグループである可能性があります(図 1)。よって治療開始前にpre-DCを測定することで、治療反応性を予測する関節リウマチ患者の個別化医療が実現する可能性があります。さらに、治療抵抗性の関節リウマチの病態に樹状細胞が関わる可能性もあります。pre-DC自体もしくはより分化した成熟樹状細胞が、関節局所において炎症を促進すると考えられ、それらを標的とした難治性関節リウマチの新規治療に結びつくことが期待されます。 

 

〈関連のプレスリリース〉

「免疫の個人差をつかさどる遺伝子多型の機能カタログを作成」(2021/04/30)

https://research-er.jp/articles/view/98908

 

発表者                  

山田 紗依子 (東京大学医学部附属病院 アレルギー・リウマチ内科 特任臨床医) 

永渕 泰雄   (東京大学大学院医学系研究科 免疫疾患機能ゲノム学講座 特任助教) 

岡村 僚久   (東京大学大学院医学系研究科 免疫疾患機能ゲノム学講座 特任准教授) 

藤尾 圭志   (東京大学大学院医学系研究科 生体防御腫瘍内科学講座/ 東京大学医学部附属病院 アレルギー・リウマチ内科 教授) 

 

論文情報 

〈雑誌〉Annals of the Rheumatic Diseases 

〈題名〉Immunomics analysis of rheumatoid arthritis identified precursor dendritic cells as a key cell subset of treatment resistance. 

〈著者〉Saeko Yamada#, Yasuo Nagafuchi# *, Min Wang, Mineto Ota, Hiroaki Hatano, Yusuke Takeshima,  Mai  Okubo,  Satomi  Kobayashi,  Yusuke  Sugimori,  Masahiro  Nakano, Ryochi  Yoshida,  Norio  Hanata,  Yuichi  Suwa,  Yumi  Tsuchida,  Yukiko  Iwasaki, Shuji Sumitomo, Kanae Kubo, Kenichi Shimane, Keigo Setoguchi, Takanori Azuma, Hiroko  Kanda,  Hirofumi  Shoda,  Xuan  Zhang,  Kazuhiko  Yamamoto,  Kazuyoshi Ishigaki, Tomohisa Okamura, Keishi Fujio*   

# 共同筆頭著者、*共同責任著者 

〈D O I〉10.1136/ard-2022-223645 

 

研究助成

本研究は、中外製薬株式会社、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、小野薬品工業との共同研究費、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業(JP22ek0410074h0003 および JP17ek0109103h0003)、科研費「関節リウマチの治療反応性予測バイオマーカーの確立と治療抵抗性機序の解明(課題番号:19K16973)」の支援により実施されました。 

 

用語解説 

(注 1)樹状細胞 樹枝状の突起を進展させた特有の形態を持ち、様々な組織に分布する抗原提示能を有する食細胞。抗原特異的な免疫応答の開始に重要な役割を担う。下記 2 種が広く知られる。 

①形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell; pDC) 樹状細胞の一種。典型的な樹状突起を持たず、生体内を循環し、ウイルス感染時に大量のI型インターフェロンを産生し、樹状突起を持った細胞形態へ変化する。 

②骨髄系樹状細胞(myeloid dendritic cell; mDC) 樹状細胞の一種。定常時に存在し、樹状突起を持ち抗原を捕獲・提示する一般的な樹状細胞。病原体による刺激により活性化し、近くのリンパ節へ移動し、病原体に由来する抗原を T 細胞へ提示し、T 細胞を活性化する機能を有する。 

さらに、近年、pDC として分類されてきた細胞の一部に、稀な細胞集団である樹状細胞前駆細胞(precursor dendritic cells; pre-DC)が含まれていることが報告された。pre-DC は、細胞表面の蛋白の発現パターンは pDC によく類似しているものの、mDC に分化することが知られている。 

(注 2)RNA シーケンス 大量の塩基配列を解読する次世代シーケンサーを用いて、網羅的に遺伝子の発現量を解析する手法。DNA と RNA はともに遺伝情報の伝達物質であるが、DNA の情報をもとに、メッセンジャーRNA が合成され、これに基づき蛋白質が合成される。RNA は必要に応じて合成・分解されており、その発現量は細胞種やタイミングにより大きく異なる。RNA シーケンスを用いてメッセンジャーRNA の量を解析することで、網羅的に遺伝子発現を定量できる。 特に、1 つずつの細胞のメッセンジャーRNA の量を解析する手法を、シングルセル RNA シーケンスと呼ぶ。

 

詳細▶︎https://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/20230314.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

関節リウマチの治療抵抗性に関わる免疫細胞を発見 ―関節リウマチの個別化医療実現へ期待―

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