3Dプリンターで生体血管に近い血管模型の作製に成功 ~カテーテル治療のシミュレーションへの貢献に期待~

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ポイント

・透明柔軟な生体血管に近い血管模型の作製に成功。

・透明 ・柔軟 な光硬化樹脂(レジン)の物性を解明。

・模型を用いたカテーテル治療の医学的手技シミュレーションへの貢献に期待
 

概要

北海道大学病院放射線診断科の森田亮助教、同大学大学院先端生命科学研究院の野々山貴行准教授らの研究グループは、 高難度医療技術であるカテーテル治療の医学的手技シミュレーション用の生体血管に類似した血管模型を開発することを目的に、3Dプリンターで作製した透明・柔軟な樹脂板と豚の生体動脈の機械的性質を比較し、生体血管に近い血管模型を3Dプリンターから直接作成することに成功しました。

3Dプリンターには様々な構造の形状を容易に再現できる特性がありますが、滑りや弾性などの機械的特性も含めて、生体血管に近い血管模型を3Dプリンターから直接作製できた という報告はまだありません。その実現を目指して、3Dプリントした透明・柔軟な光硬化 樹脂(レジン)の機械的特性(弾性率・粘着性・透明性・動摩擦係数)を豚動脈血管と比較検討しました。

結果、樹脂は 樹脂の 硬化時間*1に関係なく、動脈より硬いことが明らかになりました。樹脂の 可視光線透過率および接着強度は、 樹脂の硬化時間の増加とともに減少することが  分かりましたので、樹脂の硬化時間を短く設定することで、透明性を保ったまま、粘着性を低下させることができます。  シリコンコーティングした樹脂表面の動摩擦係数は、シリコーン層の膜厚が1.6-2μmの場合 に動脈と同程度であり、これを目安にしたコーティングが適切であることがわかりました。シリコンコーティングは樹脂に生体動脈と同等の滑りを付与する重要なプロセスです。

今回報告した素材・作製方法を用いることで 、生体 血管に近い血管模型を3Dプリンターから直接作製で  きるため、医学的手技のシミュレーションや非侵襲的技術伝承への貢献が期待できます。

なお、本研究成果は、2023年1月14日(金)公開のJournal of Vascular and Interventional Radiology誌にオンライン掲載されました。

 

背景

3Dプリンターには様々な構造の形状を容易に再現できる特性がありますが、滑りや弾性などの機械的特性も含めて、生体血管に類似した血管模型を3Dプリンターから直接作製したという報告はありませんでした。この研究は、その実現を目指して、3Dプリントした透明・柔軟な光硬化樹脂(レジン)の機械的特性(弾性率・粘着性・透明性・動摩擦係数)を豚動脈血管と比較検討しました。

 

研究手法

3Dプリントした透明・柔軟な光硬化樹脂(レジン)と豚の動脈血管の機械的特性(弾性率・粘着性・透明性・動摩擦係数)を比較しました。樹脂板は3Dプリンターを用いて、樹脂から作製し、豚の動脈板は、動脈を切除して作製しました。樹脂板の各硬化時間は0、1、3、5、10分としました。樹脂板と動脈プレートに対して、引張圧縮試験機を用いて、引張試験を行い弾性率を計測し(図1) 、更にカテーテル先端素材であるポリエチレン板に対しての樹脂板及び血管内腔表面の接着強度を測定しました。

また、 樹脂板の硬化時間毎に樹脂の透明度を紫外可視分光光度計で測定しました。そして、シリコンコーティングの効果を見るためにシリコーンスプレーを1〜5秒間塗布した樹脂板表面の動摩擦係数と動脈内腔面の動摩擦係数を測定し比較しました。

 

研究成果

比較の結果、弾性率は樹脂の硬化時間に関わらず、樹脂板では動脈と比較して有意に高く、樹脂の硬さが示されました。樹脂の可視光線透過率および接着強度は、 樹脂の硬化時間の増加とともに減少しました。従って、樹脂の硬化時間を短く設定することで、透明性を保ったまま、粘着性を低下させることができます。

また、シリコンコーティングした樹脂表面の動摩擦係数は、シリコーン層の膜厚 が1.6-2μmの場合に動脈と同程度であったため、この数値を目安にしてコーティングを行うのがよいということが分かりました。シリコンコーティングは樹脂に生体動脈と同等の滑りを付与する重要なプロセスです。

 

今後への期待

今回、報告した素材・作製方法を用いれば、形状のみならず、滑りや弾性などの機械的特性も含めて生体血管に近い血管模型(図2)を3Dプリンターから直接作製できますので、この血管模型の作製法は高難度医療技術であるカテーテル治療という医学的手技のシミュレーションへの貢献が期待できます。

 

論文情報

論文名:Mechanical Properties of 3D-Printed Transparent Flexible Resin Used for Vascular Model Simulation Compared with Porcine Arteries.(医学的手技シミュレーション用の血管模型作製に使用した3Dプリント された 透明・柔軟な   樹脂の力学的特性についての豚動脈との比較)

著者名:森田亮1、野々山貴行2、阿保大介1、曽山武士3、藤間憲幸1、今井哲秋4、濱口裕行5、亀田拓人5、杉田修6、高橋文也1、木野田直也1、工藤與亮7、8:(1北海道大学病院放射線診断科、2北海道大学大学院先端生命科学研究院、3市立釧路総合病院放射線診断・IVR科、4函館中央病院脳神経外科、5北海道大学病院医療技術部放射線部門、6北海道大学病院臨床研究開発センター、7北海道大学大学院医学研究院画像診断学教室、8北海道大学大学院医学研究院医理工学グローバルセンター)

雑誌名: Journal of Vascular and Interventional Radiology(IVR・放射線医学の専門誌)

DOI:  10.1016/j.jvir.2023.01.008

公表日:2023年1月14日(金)(オンライン公開)

 

参考図

図1.レジン・豚動脈に対する引張試験

 

図2.透明柔軟な光硬化樹脂を用いて3Dプリンターから作製した  生体血管に近い血管模型(左・中央)と、この模型を用いたカテーテル治療の医学的手技シミュレーションの様子 (右)。

 

用語解説

* 1 硬化時間...光造形の3Dプリンターでは、液体のレジン (光硬化樹脂)に紫外線(レーザー)を照射して硬化させるが、プリント直後はまだ完全にポリマーが結合していないため、二次硬化として熱を与えながら紫外線を照射する。その結果、ポリマー構造が強化される。

 

詳細▶︎https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/04/3d-1.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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