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進行がん患者が過ごす場所は生存期間にほとんど影響しない

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進行がん患者について、自宅で過ごした場合と、緩和ケア病棟で過ごした場合の生存期間の違いについて検証しました。それぞれの場所で受けた治療・ケアの影響を考慮しても、予後の見込み期間によっては自宅で過ごす方がやや⻑い可能性があるものの、ほとんど違いがないことが分かりました。

 

がん患者の「Quality of death(死の質)」は、最期の時間を過ごす場所の影響を受けます。しかし、その場所や、そこで受ける治療・ケアによって生存期間に差があるかどうかについては明らかになっていませんでした。そこで本研究では、自宅で治療・ケアを受けた進行がん患者(自宅群)と、緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた進行がん患者(緩和ケア病棟群)の生存期間に違いがあるかどうかについて、検証を行いました。

自宅、もしくは、緩和ケア病棟での治療・ケアが開始された時点での体調や症状、亡くなるまでの症状や、受けた治療・ケアを考慮して、最期の時間を過ごす場所が生存期間に与える影響を検証した結果、自宅群の方が生存期間が⻑いことが分かりました。また、客観的な予後予測指標であるPiPS-Aによって予後が月、もしくは週の単位と見込まれる群においては、自宅群の方が、緩和ケア病棟群に比べて生存期間は有意に⻑かったのに対し、予後が日の単位で見込まれる群においては、過ごした場所によって生存期間に有意な差はなかったことが分かかりました。

本研究では、亡くなるまでの症状や、受けた治療・ケアが、時間とともにどのように変化して生存期間に影響したかということが考慮されていないため、「自宅の方が⻑生きする」とまでの結論はできませんが、今回得られた知見は、自宅で最期の時間を過ごすことが生存期間を縮めるのではないかと心配する臨床医や患者、家族に対して、「その可能性は低い」という説明に活用できると考えられます。

 

研究代表者

筑波大学医学医療系

濵野 淳 講師

 

研究の背景

がん患者の「Quality of death(死の質)」注1)は、最期の時間を過ごす場所の影響を受けます。本研究グループが以前に行った研究で、病院で亡くなった進行がん患者と自宅で亡くなった進行がん患者の生存期間は同等、もしくは、自宅で亡くなった進行がん患者の方が生存期間は⻑い可能性があることが分かりました。しかし、最期の時間を過ごす場所で受ける治療・ケアによって生存期間に差があるかどうかについては明らかになっていませんでした。そこで本研究では、自宅で治療・ケアを受けた進行がん患者(自宅群)と、緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた進行がん患者(緩和ケア病棟群)の生存期間に違いがあるかどうかについて、治療・ケアの影響を考慮して検証を行いました。

 

研究内容と成果

在宅医療を提供している国内の45医療機関で、2017年7月から12月の間に訪問診療を受けた進行がん患者、および、2017年1月から12月の間に、国内23医療機関で緩和ケア病棟に入院した進行がん患者を対象に調査を行いました。対象となった患者数は2998名で、そのうち2878名が解析対象となりました。解析対象者を、PiPS-A(modified Prognosis in Palliative Care Study predictor model A)注2)という客観的な予後予測指標に基づいて、予後が日の単位、週の単位、月の単位の3群に層別化し、それぞれの群において自宅群と緩和ケア病棟群の患者の生存日数を比較しました。

その結果、予後が月の単位(図1)、 も し く は 、 週 の 単 位 と 見 込 ま れ る 群 ( 図2)においては、自宅群の方が、緩和ケア病棟群に比べて生存期間が有意に⻑かったことが確認できました。一方、予後が日の単位と見込まれる群においては、最期の治療・ケアを受ける場所によって生存期間の有意な差は確認されませんでした(図3)。

また、自宅、もしくは、緩和ケア病棟入院中に受けた治療・ケアで生存期間を調整した結果、自宅群の方が有意に生存期間が⻑いことが分かりました。

これらの結果から、亡くなるまでの期間の治療・ケアを、自宅で受けた患者と緩和ケア病棟で受けた患者の生存期間は、同等もしくは自宅で受けた患者の方が⻑い可能性が考えられました。

ただし上記の結果に関しては、慎重な解釈が必要です。今回の調査では、亡くなるまでの症状や、受けた治療・ケアが、時間とともにどのように変化して生存期間に影響したか、また、治療・ケアを自宅で受ける患者と緩和ケア病棟で受ける患者に本質的な違いがある可能性などが検討されていません。さらに、ランダム化試験ではないため、測定されていない生存期間に影響しうる変数の影響が考慮されていない点にも留意する必要があります。従って、本研究結果のみで「自宅の方が⻑生きする」と結論付けることはできません。しかしながら、これらに配慮した上で、自宅で最期の時間を過ごすことが生存期間を縮めるのではないかと心配する臨床医や患者、家族に対して、「その可能性は低い」という説明をすることはできると考えられます。

 

今後の展開

今後、自宅や緩和ケア病棟で行われた治療・ケアが、時間とともにどのように変化して、症状や生存期間に影響しているかという点を考慮した調査を行い、最期の時間を過ごした場が生存期間に影響を与えるのか、について改めて検証する必要があります。また、患者ごとに、最期の時間を過ごす場所を選ぶ際の背景因子などが本質的に違う可能性があるため、それらを考慮した研究方法、もしくは、解析方法が必要です。

 

参考図

図1 予後が月の単位と見込まれる群の生存曲線の比較(横軸は生存日数、縦軸は生存率)自宅で治療・ケアを受けた患者の平均生存期間は65日間[95%信頼区間58.2日間〜73.2日間]。緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた患者の平均生存期間は32日間[95%信頼区間28.9日間〜35.4日間]。自宅群の生存期間の方が有意に⻑い。(有意水準p<0.001)

 

図2 予後が週の単位と見込まれる群の生存曲線の比較(横軸は生存日数、縦軸は生存率)自宅で治療・ケアを受けた患者の平均生存期間は32日間[95%信頼区間28.9日間〜35.4日間]。緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた患者の平均生存期間は22日間[95%信頼区間20.3日間〜22.9日間]。自宅群の生存期間の方が有意に⻑い。(有意水準p<0.001)

 

図3 予後が日の単位と見込まれる群の生存曲線の比較(横軸は生存日数、縦軸は生存率)自宅で治療・ケアを受けた患者の平均生存期間は10日間[95%信頼区間8.1日間〜11.8日間]。緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた患者の平均生存期間は9日間[95%信頼区間8.3日間〜10.4日間]。自宅群、緩和ケア病棟で生存期間に有意な違いはない。(有意水準p=0.157)

 

用語解説

注1)Quality of death(死の質)

本人、家族、遺族から見た亡くなる過程の医療やケアの質を評価する重要性が近年指摘されている。Quality of deathに関する明確な定義、評価方法は統一されていないが、日本では、遺族に対する調査を基にした評価研究が行われている。(参照:遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究http://www.hospat.org/practice_substance-top.html)

注2)PiPS-A(modified Prognosis in Palliative Care Study predictor model A)

予後予測指標の一つ。原発巣、いずれかの遠隔転移の有無、肝転移の有無、骨転移の有無、認知機能、脈拍数、食欲不振の有無、倦怠感の有無、呼吸困難の有無、嚥下困難の有無、体重減少の有無、全身状態などを評価して得点を算出し、予後14日以下、15日から55日、56日以上の確率を予測する。

 

研究資金

本研究は、科研費による研究プロジェクト(19K10551、22H03305)、および日本ホスピス・緩和ケ財団研究助成の一環として実施されました。

 

掲載論文

【題名】Comparison of survival times of advancedcancer patients with palliative care at homeand in hospital.(自宅と緩和ケア病棟で過ごす進行がん患者の生存期間の比較)

【著者名】Hamano J,Takeuchi A,Mori M, Saitou Y,Yamaguchi T,Miyata N, et al.

【掲載誌】PLOS ONE

【掲載日】2023年4月13日

【DOI】10.1371/journal.pone.0284147

 

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230419140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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