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要介護認定リスクと健診検査値のU字型の関係を同定 ~要介護認定情報と健診データを用いた後ろ向きコホート研究~

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本研究のポイント

・要介護注1)者を減らすためには、介護が必要になるリスクの高い人々を特定し、予防的な健康介入によって健康寿命を延ばすことが重要である。そのためには、高リスク者を特定するための適切で感度の高いリスクマーカーを見つける必要がある。

・愛知県北名古屋市から提供を受けた要介護認定情報と健康診断の情報をもとに、65歳以上の3,718例を対象とした後ろ向きコホート研究注2)(追跡期間8.5年間)を行った。

・追跡期間中に毎年取得されてきた健診データをすべて分析に利用できるように、時間依存性共変量注3)Cox回帰モデル注4)を採用した。さらに、健診検査項目と要介護認定リスクのU字型の関係を評価できるように制限付き三次スプライン注5)を考慮したCox回帰モデルも採用した。

・分析の結果、BMI、収縮期血圧、HDL コレステロール、ALT、AST、γ-GTP は、要介護認定リスクと U 字型の関係にあることを発見した。すなわち、これらの検査値は高くても低くても要介護認定リスクが上昇することを明らかにした。

・従来の古典的な解析アプローチでは、検査値と要介護認定リスクが比例関係にある前提で評価を行うことが多いが、本研究で得られた結果から、要介護認定リスクの予測においては比例関係ではないU字型の関係を考慮する必要があると分かった。

 

研究概要

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科  実社会情報健康医療学の中杤  昌弘 准教授、名古屋大学医学部附属病院の水野 正明 教授、杉下 明隆 助教らの研究グループは、愛知県北名古屋市住民対象とした要介護認定情報と健康診断情報を基に後ろ向きコホート研究を実施し、要介護認定のリスクマーカーの探索を行いました。その結果、肥満度(BMI)、収縮期血圧、高密度リポ蛋白(HDL)コレステロール、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)は、要介護認定リスクと U字型の関係にあることを発見しました。

古典的な解析アプローチでは、検査値と要介護認定リスクが比例関係にある前提で評価を行いますが、本研究の結果から、要介護認定リスクの予測においては比例関係ではないU字型の関係を考慮することが必要になると期待されます。

本研究成果は、2023年5月22日付国際科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。 

 

研究背景と内容

1.研究背景

世界的な傾向として、高齢化率は着実に上昇しており、今後数十年間はこの傾向が続くと考えられています。特に日本では 2020 年には高齢者が 3,619 万人となり、総人口の 28.8%近くを占め、超高齢社会となっています。このような社会の進化に対応するため、日本政府は 2000 年に旧来の福祉制度に代わって介護保険制度を導入しました。この新制度は、高齢者の自立を優先し、受給者のサービス選択の幅を広げる長期社会保険の一種です。これにより、在宅介護を必要とする高齢者が、生活の質を維持することが可能になりました。介護保険制度の受給者となるには、要介護認定を申請し、必要なサービスのレベルの評価を受ける必要があります。審査は、全国統一の要介護認定基準に従って行われます。要介護認定を受けた際には、申請者は、要支援(要支援 1・2)、要介護(要介護1~5)に分類されます。

2019年に要介護認定を受けた人は全年齢で480万人(65歳以上が95%)、2000年の 2.1 倍に増えています。介護保険料の 50%は公費で賄われ、残りは被保険者が支払う保険料で賄われていますが、65 歳以上の保険料は 2000 年から 2021 年にかけて倍増しました。高齢者の人口はさらに増加すると見込まれており、今後は新しい受益者に対して医療・財政両面からより優れた政策が必要になると考えられます。一つの解決策は、前もって要介護認定を受ける可能性(リスク)の高い人を特定し、予防的な健康介入によって健康寿命を延ばすことです。このためには、高リスク者を特定できる感度の高いリスクマーカーが必要です。そこで本研究では、愛知県北名古屋市から提供を受けた要介護認定情報と健康診断(特定健診と後期高齢者健診)の情報をもとに、65歳以上の3,718人を対象とした後ろ向きコホート研究(追跡期間8.5 年間)を行い、要介護認定のリスクマーカーを探索しました。

 

2.研究成果

愛知県北名古屋市の住民の内、2011年4月~2012年3月に特定健診または後期高齢者健診を受診した人の中で、2012年4月時点で65歳以上、2012年3月までに要支援認定・要介護認定を受けず、転居・転出・死亡もしていない3,718人(男性:1,742人、女性:1,976 人)に対して、2020年9月まで要介護認定情報を用いて追跡を行いました。追跡期間中に701人(男性:335 人, 26.2 人/1000人年、女性:366人,  24.5 人/1000人年)が要介護認定(要介護1~5のいずれかの認定)を受けました。

要介護認定リスクと健診データの関係の評価を行うにあたり、追跡期間中に取得した健診データをすべて分析に利用すべく時間依存性共変量を考慮した Cox 回帰モデルを採用しました。従来は健診データと要介護認定のリスクを評価する際、比例関係(線形モデル)を前提にした評価が行われます。本研究では、健診データと要介護認定リスクの関係を比例関係ではなく U 字型で評価することができるように制限付き三次スプラインモデルを採用し、線形モデルとスプラインモデルで統計的にどちらが適切かを評価しました。その結果、肥満度(BMI)、収縮期血圧、高密度リポ蛋白(HDL)コレステロール、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)が、三次スプラインモデルで有意な結果を示しました。すなわち下図に示す通り、これらの6項目は値が高くても低くても要介護認定のリスクが上昇することがわかりました。 

 

図.制限付き三次スプラインモデルを併用した時間依存Cox回帰モデルで計算した要介護認定のハザード比

黒い直線は、スプラインモデルで推定されたハザード比を示し、灰色の部分は、ハザード比の 95%信頼区間を示している。垂直の灰色の直線は、ハザード比が1である健診データの基準値を示している。この基準値は中央値から求めた。点線は、比例関係を前提としたモデル(線形モデル)で推定したハザード比を示している。このハザード比は、年齢をベースライン時の年齢中央値に固定し、性別を女性に固定した場合の推定値。図中のp値は、尤度比検定によって算出した。log2は底を2とする対数変換を意味する。 

 

成果の意義

従来の古典的な解析アプローチでは、検査値と要介護認定リスクが比例関係にある評価を行うことが多いのですが、本研究の結果から、要介護認定リスクは比例関係ではなくU 字型の関係を考慮することが必要だとわかりました。今後 U 字型の関係を考慮した要介護認定リスク予測方法の開発が期待されます。

 

本研究は、令和4年度から始まった愛知県医療資源適正化連携推進事業にて行われ、その成果は、令和 5 年度から始まる東海国立大学機構の直轄事業である健康医療ライフデザイン統合研究教育拠点(C-REX)に受け継がれています。 

 

用語説明

注1)要介護:

身体機能だけでなく思考力や理解力が低下し、基本動作を自分で行うことができず、支援や介護を必要とする状態。

 

 

注2)後ろ向きコホート研究※:

コホートを対象に、過去の情報(今回の場合、健診データや要介護認定の記録)から過去の追跡を行う研究。 ※コホート研究:特定の集団を一定期間追跡し、注目したイベント(今回は要介護認定)の発生率を比較・評価する観察研究の手法。

 

注3)時間依存性共変量:

追跡期間中に取得された情報(今回の場合、毎年の健診データ)を Cox 回帰モデルに含めて分析する方法。 

 

注4)Cox回帰モデル:

コホート研究のような追跡データで注目したイベントとの関係を評価するためによく用いられる統計解析手法。

 

注5)制限付き三次スプライン:

Cox回帰モデルなどで比例関係ではない関係を表現するための方法。

 

論文情報

雑誌名: Scientific Reports

論文タイトル: U-shaped Link of Health Checkup Data and Need for Care using  a  Time-dependent  Cox  Regression  Model  with  a  Restricted Cubic Spline

著者:  中杤昌弘*, 杉下明隆, 渡辺千尋, 渕田英津子, 水野正明* 
   (*は責任著者、下線は名古屋大学関係者)

DOI: 10.1038/s41598-023-33865-x

URL:https://www.nature.com/articles/s41598-023-33865-x 

詳細▶︎https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/05/u.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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