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作業療法で用いられている集団作業の効果を実証 ~2人で場を共有して個人作業をすると緊張が緩和~

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<ポイント>

・作業療法で用いられている集団や手工芸活動などの治療効果を、脳波による「集中」の指標と心電図による「自律神経活動」の指標で分析

・2人で場を共有した各自の手工芸活動時に、副交感神経が有意に高まることが明らかに

・2人(各自の作業/非作業者は観察者)の手工芸活動時、Fmθ※1の脳波出現者は副交感神経活動が有意に高まることが明らかに

<概要>

精神科における作業療法は、対象者と治療者の関係のみならず作業活動や集団も治療の一部と捉えられています。これまで臨床現場では、同じ部屋で各自が別の作業を行うパラレルな場※2での手工芸活動は作業療法として有効とされてきましたが、その具体的な効果は実証されていませんでした。

大阪公立大学リハビリテーション学研究科の大類 淳矢大学院生(博士後期課程 2 年、大阪保健医療大学助教)、石井 良平教授、大阪河﨑リハビリテーション大学 白岩 圭悟助教らの研究グループは、30 名の健康な若年成人を対象として、1 人、2 人(各自の作業)、2 人(非作業者は観察者)の 3つの条件で、手工芸活動中の脳波と自律神経活動を測定し解析を行いました。

その結果、リラックス効果を表す副交感神経活動は 1 人より 2 人(各自の作業)で有意に高まることが明らかになりました。また、2 人(各自の作業/非作業者は観察者)の手工芸活動において、集中状態の指標となる Fmθが出現した人は、出現していない人より副交感神経活動が有意に高まることも明らかになりました。

本研究の結果、作業療法の治療構造である「パラレルな場」で各自が手工芸活動に集中することが、緊張の緩和やリラックスの観点で有効であることが示唆されました。

本研究は、2023 年 7 月 4 日(火)に国際学術誌「Neuropsychobiology」にオンライン掲載されました。

<研究者からのコメント>

作業療法で用いられている集団作業の効果を実証~2 人で場を共有して個人作業をすると緊張が緩和~大類 淳矢大学院生精神科での作業療法はその治療効果や機序の説明が難しいとされてきました。生理学的な観点からの研究の結果、直接触れたり話したりせずとも、他者と一緒に、また集中して作業に取り組めば、副交感神経活動を高めることが明らかになりました。今後はより効果的な作業療法を提供するための構造や環境を明らかにしていきたいと思います。

<研究の背景>

作業療法の特徴的な点として、手工芸活動や集団もその治療構造に含むことが挙げられます。集団で作業を行うことにより、幸福感や自己効力感が高まることや、日常生活がスムーズに改善することなどが報告されていますが、その生理学的な効果ははっきりと示されていませんでした。

一方、手工芸活動を単独で行うことで、リラックスかつ集中した状態を導くことが、Fmθという脳波と自律神経活動の観点から明らかになっています。この先行研究では、手工芸活動中に集中状態の指標となる Fmθという脳波が出現する人は、副交感神経活動も高まっていました。そこで本研究では、集団で作業を行うことは、生理学的にどのような有用性があるのかを、脳波と自律神経活動の観点から検討しました。特に、臨床の精神科作業療法でよく用いられる「パラレルな場」という、他者が存在しながらも各自の作業を行う環境に着目し、その効果を示すことを目指しました。

<研究の内容>

本研究では健常者 30 名を対象として、手工芸活動(ネット手芸)中の脳波と自律神経活動を測定しました。1 人(1 人で手工芸)、並行(各自の作業)、非並行(1 人が手工芸、非作業者は観察者)の 3 条件で測定を行いました。その結果、条件によって手工芸活動の進み具合は変わらないにもかかわらず、並行条件での手工芸は 1 人での手工芸よりも有意に副交感神経活動が高まっていました。また Fmθが出現した人は出現していない人よりも、すべての条件において有意に副交感神経活動が高まっており、条件によっての Fmθの出現頻度は差がなくすべて同じ程度に Fmθが出現していました。

<期待される効果・今後の展開>

作業療法において並行条件を設定することはリラックスの観点で有効である可能性を示しました。このことは、臨床現場において緊張や不安が強い対象者への作業療法では、並行条件を設定することがそれらの軽減に効果を有する可能性を示唆しています。今後は精神疾患を有する方を対象として、また 3人以上の集団での実験など、集団で作業療法を実施することの効果をさらに検討し、対象者の特性に応じた手工芸や集団の提供方法を具体化していきたいと考えています。

<資金情報>

本研究の一部は日本学術振興会科研費(JP22K11453)の助成を受けたものです。

<用語解説>

※1 Fmθ:

精神集中を必要とする認知作業時に、前頭正中部に出現する 5~7Hz の脳波成分。

※2 パラレルな場:

場を共有しながらも、最小限の刺激の共有がある集団の一つの形態。

<掲載誌情報>

【発表雑誌】

Neuropsychobiology (IF: 12.329)

【論文名】

Social Buffering Effects during Craft Activities in Parallel Group SessionRevealed by EEG Analysis and Parasympathetic Activity

【著者】

Junya Orui, Keigo Shiraiwa, Fumie Tazaki, Takao Inoue, Masaya Ueda, KeitaUeno, Yasuo Naito, Ryouhei Ishii

【DOI】

https://doi.org/10.1159/000531005

【掲載URL 】

https://karger.com/nps/article/doi/10.1159/000531005/854272/Social-Buffering-Effects-during-Craft-Activities

 

詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-07054.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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