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加齢に関連する脳疾患を鑑別可能な新しい血中バイオマーカーを発見-採血だけで予測可能な疾患リスク検査の精度を向上-

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【発表のポイント】

・高齢化社会を迎え、認知症や運動障害など、増加する加齢に関連した脳疾患について早期治療介入を実現するためには、発症前に正確な神経変性リスクを予測し、疾患を鑑別することが非常に重要です。

・軽度認知機能障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症について、血漿バイオマーカーを用いた疾患識別のための新たな定量化技術を確立しました。

・本成果により、各疾患を高い精度で鑑別することが可能になりました。

【概要】

世界中で高齢化人口が増加しており、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)など、加齢に関連する脳疾患が増加しています。これらの疾患の早期治療介入と発症前予防を行うためには、バイオ―マーカーによる予測や診断が非常に重要です。微量採血で済む血液バイオマーカーの利用は、脳脊髄液の採取による患者の負担や放射線被曝をともなうPET 検査に比べて安全、簡便であり、コストパフォーマンスが高いという利点があります。

東北大学大学院薬学研究科の川畑 伊知郎特任准教授、福永 浩司名誉教授、仙台西多賀病院の武田 篤院長、大泉 英樹医師らによる研究グループは、脂肪酸結合タンパク質(FABPs)(注1)がレビー小体病のバイオマーカーとして機能する可能性を調査しました。AD、PD、DLB、軽度認知障害(MCI)の患者と健康な対照群で血液中の FABPs レベルを測定した結果、FABPs がレビー小体病の潜在的な新たなバイオマーカーとして機能し、早期の疾患検出と他の加齢に関連する脳疾患との識別に役立つ可能性があることを示しました。この研究成果により、アルツハイマー病やレビー小体型認知症等の認知症やパーキンソン病を発症前に予測することが可能となり、早期治療介入による発症前の根本治療が期待されます。

本研究成果は、2023 年 8 月 26 日に International Journal of MolecularSciences に掲載されました。

研究の背景

研究グループは、高齢化社会により増加する認知症や運動障害などの加齢性疾患に着目しました。神経変性疾患に関連するリスク要因を予測し、早期診断と予防を行うためには、バイオマーカーの活用が重要です。特にレビー小体病などの神経変性疾患では、特定のバイオマーカーが疾患リスクと進行の程度を示す可能性があります。研究グループは以前の研究で、脂肪酸結合タンパク質(FABPs)がレビー小体病の原因タンパク質αシヌクレイン(注 2)の神経細胞取り込みと毒性発現に必須であることを明らかにしました。そこで FABPs の疾患リスクの予測マーカーとしての有用性に着目しました。

今回の取り組み

本研究では、FABP3 というタンパク質がレビー小体病の進行に関与することを検討しました。またFABP5は脳炎症によるミトコンドリア損傷に、FABP7はオリゴデンドロサイトの変性に関与していることを明らかにしました。さらに原因タンパク質の腸から脳への移行もこの疾患において重要な役割を果たしています。これらの背景から、FABP ファミリータンパク質(FABPs)がレビー小体病の状態を反映する可能性を検討しました。

まずアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、軽度認知機能障害(MCI)の患者 600 名および健康な対照群の血漿中の FABPs レベルを測定し、それらを比較しました。その結果、FABP3 の血漿レベルはすべてのグループで増加していることがわかりました。一方、FABP5 および FABP7 は AD グループで減少傾向にありました。また FABP2 は PD 患者で有意に増加していました。この結果から、FABPs は AD、PD、DLB およびMCI を鑑別する潜在的なバイオマーカーとして考えられます。

次に既知のバイオマーカーを測定し、臨床症状との相関分析を行いました。その結果、FABP3 の高い血漿レベルは認知機能(r = -0.30, p < 0.0001)および運動機能の低下(r = -0.34, p < 0.001)と相関していることが明らかとなりました。また、Tau、GFAP、NF-L、UCHL1 などの既知のバイオマーカーとMMSE スコア(注3)との間にも相関性が見られました。この結果は、これらのバイオマーカーが各疾患における認知機能の進行を予測するのに役立つ可能性があることを示唆しています。

さらに、FABPs を含む複数のバイオマーカーの血漿レベルを利用して各疾患を鑑別するためのスコアリング法を探索しました。その結果、MCI 対健常者、AD 対 DLB、PD 対 DLB、AD 対 PD などの比較において高い精度(AUC > 0.85,p < 0.0001)で疾患を区別できることが示されました。これにより、臨床症状にもとづく診断において鑑別が難しかったレビー小体病を検出することが可能になりました。

FABPs および既知の血漿バイオマーカーを組み合わせたマルチマーカーのスコアリング技術により、MCI、AD、PD、DLB を高精度に鑑別可能となり、臨床症状だけでは診断がつきにくい患者様の疾患リスク予測に有用であると考えられます。

今後の展開

本成果は、FABPs がレビー小体病の潜在的なバイオマーカーとして機能し、マルチマーカーのスコア化技術により早期の疾患検出と疾患の鑑別が可能あることを示唆しています。現在医療機関や個人での使用に向けた実用化を進行しており、認知症やパーキンソン病を発症前に予測可能になることで早期治療介入と根本治療が実現可能です。また高齢化社会の医療費圧迫について、認知症を予防可能なサステイナブルな社会の実現により、社会医療費や介護費の削減にも貢献することが可能です。

図 1. 各神経変性疾患におけるマルチマーカーのスコアリングによる疾患リスク値(A)とその感度・特異度を示す AUC 曲線(B)。健常者と各疾患を高い精度で識別可能である。AUC 値は1に近いほど感度・特異度が高いことを表す。*p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.001, and **** p < 0.0001.

【謝辞】

本研究は国立病院機構仙台西多賀病院の武田篤院長、大泉英樹医師との共同研究による成果です。本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム、AMED 脳科学研究戦略推進プログラム、科学研究費助成事業(科研費)、武田科学振興財団薬学系研究継続助成のご支援をいただきました。

【用語説明】

注1. 脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid-Binding Proteins, FABPs):細胞内で脂肪酸の輸送と貯蔵に重要な役割を果たすタンパク質です。レビー小体病の原因タンパク質の細胞内取込や凝集、毒性発現に関与します。

注2. αシヌクレイン:レビー小体病の原因タンパク質です。パーキンソン病やレビー小体型認知症において、脳内に蓄積し、レビー小体とよばれる凝集体を形成します。

注3. MMSE(Mini-Mental State Examination)スコア:認知機能の状態を簡潔に示す指標として使用されます。一般的に 30 点中の得点が高いほど認知機能が正常であり、低い得点は認知機能の低下を示唆します。

【論文情報】

タイトル:Using Fatty Acid-Binding Proteins as Potential Biomarkers toDiscriminate between Parkinson’s Disease and Dementia with Lewy Bodies:Exploration of a Novel Technique

著者: Ichiro Kawahata*, Tomoki Sekimori, Hideki Oizumi, Atsushi Takeda, KohjiFukunaga

*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 特任准教授 川畑 伊知郎

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

DOI:10.3390/ijms241713267

URL: https://www.mdpi.com/1422-0067/24/17/13267

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv_press0925_03web_ad.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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