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高齢者の死亡リスクが最も低くなる最適な体格とは? 死亡リスクが最も低くなるBMIがフレイルの有無により異なる事を解明

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発表のポイント

・体格の指標であるBMI(Body Mass Index)21.5–24.9 kg/m2の者(普通)と比較してBMI<18.5 kg/m2の者(やせ)は、フレイルおよびフレイルでない高齢者どちらにおいても生存率が有意に低いことが示されました。

・BMI 21.5–24.9 kg/m2(普通)のフレイルでない者と比較して、BMI≥25.0 kg/m2(肥満)のフレイルの者は死亡率が高いことが示されました。

・フレイルに該当する高齢者では、BMIが高ければ高いほど死亡リスクは低くなるが、フレイルでない高齢者はBMI 23.0–24.0 kg/m2で最も死亡リスクが低い値になることが示されました。

早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉 大輝(わたなべ だいき)助教と宮地 元彦(みやち もとひこ)教授は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の吉田 司(よしだつかさ)研究員、山田 陽介(やまだようすけ)室長、びわこ成蹊スポーツ大学の渡邊 裕也(わたなべゆうや)准教授、京都先端科学大学の木村 みさか(きむらみさか)客員研究員と共同して、65歳以上の地域在住日本人高齢者10,912名を対象に体格の指標であるBMI(Body Mass Index)※1と死亡との量反応関係を検討し、高齢者のフレイル※2の有無によって、死亡リスクが最も低くなる最適なBMIが異なることを世界で初めて報告しました。

本研究成果は、『Clinical Nutrition』(論文名:Frailty modifies the association of body mass index with mortality among older adults: Kyoto-Kameoka study)にて、2024年1月4日(木曜日)にpublish ahead of printがオンラインで掲載されました。

その後、2024年2月に雑誌に掲載される予定です。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

フレイルとは身体的機能、精神的および社会的な活力などの心身の予備能力の低下が見られる状態であり、健康な状態と要介護状態の中間に位置します。フレイルは年齢と共に該当者が増加するため、日本を含む高齢社会を迎える国々が抱える健康問題の1つです。フレイルには「適切な介入により再び健康な状態に戻る」という可逆性が包含されているため、フレイルの状態を改善し得る生活習慣等が世界中で研究されています。

BMIはエネルギー摂取量(食べた量)と消費量(使用した量)によるエネルギー出納を簡易的に評価することができる指標であり、専門的な技術やスキルを必要とせずに計算することができるため、自身の体格を容易に知ることできます。高齢者は中年者よりもBMIが高いことで死亡リスクが低くなると考えられています。従って、寿命を延ばすために高齢者の最適な体格を評価することが重要です。しかし、日本人高齢者のBMIと死亡との関連が、フレイルの有無によって異なるかどうかは不明でした。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

私たちは、2011年から京都府亀岡市で行われている介護予防の推進と検証を目的とした前向きコホート研究※3である京都亀岡スタディに参加した10,912名のデータを使用しました。BMIは質問票の回答による身長と体重から算出し、<18.5、18.5–21.4、21.5–24.9および≥25.0 kg/m2の4グループに分けました。フレイルは厚生労働省が作成した基本チェックリスト※4を用いて評価しました。

図1:フレイルの有無に応じたBMIと死亡リスクの関係

BMI 21.5–24.9 kg/m2のフレイルでない者を基準として死亡リスクのハザード比を計算しています。黒点はハザード比を表し、エラーバーは 95% 信頼区間を表しています。95%信頼区間が1.00をまたがない場合、有意な差と見なしています。ハザード比の軸は対数スケールです。

 

本研究ではBMIを評価してから中央値で5.3年間追跡調査をおこない、死亡の発生状況を確認しました。追跡期間中に1,352名の方が亡くなりました。本研究の高齢者全体のフレイル該当割合は43.7%でした。普通体重であるBMI 21.5–24.9 kg/m2の者と比較してBMI<18.5 kg/m2の者は、フレイルおよびフレイルでない高齢者どちらにおいても生存率が有意に低い(死亡率が高い)ことが示されました(図1)。フレイルおよびフレイルでない高齢者どちらにおいてもBMI≥25.0 kg/m2の者は死亡リスクが低いが、BMI 21.5–24.9 kg/m2のフレイルでない者と比較して、BMI≥25.0 kg/m2のフレイルの者は生存率が有意に低いことが示されました。これはBMIを高くしてもフレイルに関連して増加する死亡リスクを完全に相殺できないことを示しており、フレイルの者はBMIを増加させることよりもフレイル度を改善することを優先する必要があることを示唆しています。もし、肥満を伴うフレイルの者がフレイルを改善させることができれば、フレイルでない肥満者はBMI 21.5–24.9 kg/m2のフレイルでない者と比較して死亡リスクと関連しません。

図2:フレイルの有無に応じたBMIと死亡リスク間の制限付き3次スプライン回帰モデル※5

実線はハザード比を表し、破線は95%信頼区間を表しています。棒グラフはBMIの分布を表しています。ハザード比はBMI 23.0 kg/m2を基準として算出しました。破線の95%信頼区間が1.00をまたがない場合、有意な差と見なしました。

本研究ではさらに、BMIと死亡イベントの量反応関係をフレイルの有無によって層別分析を行いました。フレイルの高齢者では、BMIが高ければ高いほど死亡リスクが大きく下がりました(図2A)。一方、フレイルでない高齢者では、BMIが23.0–24.0 kg/m2で最も死亡リスクが低い値になることがわかりました(図2B)。これらのことから、高齢者においてはフレイルの有無によってBMIと死亡リスクの関係が大きく異なり、フレイルの者はフレイルでない者に比べてBMIが高いことで死亡リスクの低下による恩恵を受ける可能性があります。

研究の波及効果や社会的影響

世界中の多くの研究でフレイルの有無が高齢者の健康や寿命に影響を及ぼすことが示されたことに伴い、我が国では2020年4月より75歳以上の後期高齢者を対象に、フレイルの発症予防・重症化予防に着目した健診が開始されました。しかし、これらの取り組みにより地域高齢者のフレイル該当者を正確に評価できたとしても、どのような生活習慣の改善がフレイルの予防や改善に効果的か十分にわかっていませんでした。今後、日本においてフレイルの者が増加すると予測されているため、我々の調査結果は、フレイルを評価することで死亡リスクが最も低い最適なBMIの目安を把握することができ、高齢者の生活習慣の改善に役立つエビデンスとなります。

今後の課題

本研究では高齢者のフレイルの有無による一時点でのみ評価したBMIと死亡リスクの関係を検討しましたが、同一個人のBMIの繰り返し測定による個人のBMIの軌跡と死亡リスクとの関連も検討する必要があります。高齢者は死亡する前に食事量が減少し、急激に痩せる傾向があるため、BMIを一時点でのみ評価した場合、急激なBMIの変化の影響を評価することができません。もし、どのようなBMIの軌跡が最も死亡リスクを高くするかを評価することができれば、早期に食事・栄養などの対策をとることが可能です。また、今回の研究で示した最適なBMIになるようなエネルギー摂取量と身体活動量の関係を明らかにすることができれば、個々人の身体活動量に応じたエネルギー摂取量の目標値を設定することができます。

研究者のコメント

渡邉 大輝

BMIは厚生労働省の食事ガイドラインである「日本人の食事摂取基準※6」でも使用されているエネルギー出納を示す指標の一つです。本研究は健康的な普通体重の者よりもBMIが高い者(肥満者)で死亡リスクが低い“obesity paradox(肥満のパラドックス)”が引き起こさせる要因の一つとしてフレイルがある可能性を示しました。日本人の食事摂取基準2020年版からフレイルの発症および重症化予防の観点が考慮されており、フレイルの有無によって目標とするBMIが異なることを示した我々のデータは、よりきめ細かい食事・栄養指導や健康政策の立案に役立つエビデンスだと思います。

宮地 元彦

フレイルであるか否かに関わらず、全ての高齢者にとって、“痩せすぎは長生きの妨げ”となることがわかりました。一方で、“太っている方が長生き”と判断することは危険です。日々元気に体を動かし、バランスの良い食事をしっかり摂って、痩せすぎず太りすぎない体型を維持することをお勧めします。

用語解説

※1 BMI(Body Mass Index)

体重(kg)を身長(m)の二乗で割った数値。BMIは国際的に認められているやせ・肥満の指標であり、18.5 kg/m2未満はやせ、18.5–24.9 kg/m2は普通体重、25.0 kg/m2以上は肥満と判定される。

※2 フレイル

ストレス反応に対する恒常性の低下によって複数の生理学的予備能力が低下した状態と定義されており、将来の早期死亡や介護認定のリスクが高い状態。

※3 前向きコホート研究

疫学研究手法の一つです。疫学とは集団を対象として疾病の発生原因や流行状態、予防法などを研究する学問。

この手法は調査時点で仮説として考えられる要因を評価し、その対象者が保持する要因によってその後の疾病や死亡イベントの発症を比較することで、どのような要因を持つ者が予後不良なのかを評価する方法。

※4 基本チェックリスト

要介護状態にない高齢者を対象に、近い将来介護が必要になる高齢者を抽出するスクリーニング法として、厚生労働省によって開発された質問票。

この質問票は手段的日常生活関連動作、身体機能、栄養状態、口腔機能、社会的状態、認知機能およびうつ状態を含む7つのサブドメインより構成される。基本チェックリストの得点範囲は0点(フレイルではない)から25点(重度のフレイル)となる。

※5 スプライン回帰モデル

ある決められた値で算出した結果を曲線によって滑らかに繋ぎ合わせ、値全体の量反応関係を分かりやすく表したモデル。

※6 日本人の食事摂取基準

日本人の1日に必要なエネルギーおよび栄養素摂取量を示した基準です。2005年に初版が作成され、5年に一度改訂される。

論文情報

雑誌名

Clinical Nutrition

論文名

Frailty modifies the association of body mass index with mortality among older adults: Kyoto-Kameoka study

執筆者名(所属機関名)

渡邉 大輝(早稲田大学)、吉田 司(医薬基盤・健康・栄養研究所)、渡邊 裕也(びわこ成蹊スポーツ大学)、山田 陽介(医薬基盤・健康・栄養研究所)、宮地 元彦(早稲田大学)、木村 みさか(京都先端科学大学)

掲載日時(現地時間)

2024年1月4日(木曜日)

掲載日時(日本時間)

2024年1月4日(木曜日)

(オンライン掲載)

掲載URL

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0261561424000025

DOI

 https://doi.org/10.1016/j.clnu.2024.01.002

参考情報

本研究は、昨年(2023年)2月2日にMedicine & Science in Sports & Exercise誌に掲載された論文『Dose-response relationships between objectively measured daily steps and mortality among frail and non-frail older adults』(フレイルおよび非フレイル高齢者における客観的に測定した歩数と死亡率との用量反応関係)と昨年(2023年)12月25日にInternational Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity誌に掲載された論文『Association between doubly labelled water-calibrated energy intake and objectively measured physical activity with mortality risk in older adults』(高齢者における死亡リスクに対する二重標識水法で補正されたエネルギー摂取量と客観的に測定した身体活動量との関係)と密接に関係しています。

これらの研究成果について興味のある方は、早稲田大学のホームページ「https://www.waseda.jp/top/news/87443https://research-er.jp/articles/view/118842および「https://www.waseda.jp/inst/research/news/76031https://research-er.jp/articles/view/129559をご覧ください。

研究助成

研究費名

日本学術振興会/科学研究費助成事業 若手研究

研究課題名

フレイル概念モデルに着目した生物学的老化に関わるバイオマーカーの網羅的探索

研究代表者名(所属機関名)

渡邉大輝(当時: 医薬基盤・健康・栄養研究所)

詳細▶︎https://www.waseda.jp/inst/research/news/76261

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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