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肝硬変患者における転倒および転倒に伴う骨折の実態と 「一分間に回答できる動物の名前の数」の関係について調査

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本研究のポイント

・アニマルネーミングテスト(Animal naming test;ANT)1)は「一分間に動物の名前をいくつ回答できるか」とういうシンプルな神経機能検査である。

・本研究では、94 名の肝硬変患者を対象として、ANT と過去一年間の転倒および転倒による骨折の関係について調査した。

・対象患者のうち 19%転倒、5%が転倒に伴う骨折を経験し、特に ANT が 11 以下の患者では ANT が11 よりも高い患者と比較して有意に転倒および骨折が多いことが示された。

・本研究により、ANTを用いて肝硬変患者の転倒および骨折リスクを把握することで、将来の転倒および骨折の予防と健康寿命の伸長に寄与することが期待される。

研究概要

肝硬変患者はサルコペニア、フレイル、肝性脳症などにより転倒リスクが高いことが知られています。したがって肝硬変患者の転倒および転倒による骨折を予測し、未然に防ぐための方策が必要です。しかし、肝硬変患者の神経機能と転倒および転倒に伴う骨折の関連については調査が不十分でした。岐阜大学大学院医学系研究科消化器内科学分野 清水雅仁教授、三輪貴生医師らのグループは、肝硬変患者における転倒および転倒に伴う骨折の実態と ANT で評価した神経機能との関連を明らかにしました。

本研究では、肝硬変患者 94 名を対象とし、転倒および転倒に伴う骨折の実態を明らかにし、欧州肝臓学会の推奨する ANT を用いて神経機能との関連を検討しました。年齢中央値 72 歳の肝硬変患者において 19%が 1 年以内に転倒しており、5%が転倒に伴う骨折をしていました。転倒あるいは骨折既往を有する肝硬変患者の ANT の結果は、転倒や骨折既往のない患者と比較して有意に数が少ないことが明らかとなりました。また、receiver operating characteristic 解析 2)では転倒あるいは骨折と関連する ANT のカットオフ値として 11 点が抽出され、ANT11点を基準として有意に転倒あるいは骨折の割合が異なることが示されました。重回帰分析3)の結果、ANTの結果に関連する因子として年齢と学歴が抽出されましたが、干支を使用したかどうかは関連がありませんでした。本邦の肝硬変患者におけるANTの正常値は十分に調査されていないことから、今後本邦の肝硬変患者において ANT を標準化するにはこれらの因子を考慮したカットオフ値の設定も検討すべきであると考えられました。

三輪貴生医師らの研究により年齢中央値 72 歳の肝硬変患者の 19%が過去一年間に転倒しており、5%が転倒により骨折していることが明らかになりました。また転倒や骨折はANTで評価した神経機能と関連があることが示唆されました。本研究成果から、ANTを用いて肝硬変患者の転倒および骨折のリスクを把握することで、将来の転倒および骨折の予防と健康寿命の伸長に寄与することが期待されます。

本研究成果は、日本時間 2024 年 2 月 21 日に Scientific Reports 誌で発表されました。

研究背景

転倒と転倒による骨折は一般的な医療問題であり、移動能力の低下、それに伴う医療費の増加、予後と関連しています。2017 年には世界で 60 万人以上が転倒をきっかけに死亡したと報告されており、転倒を未然に予防することは喫緊の課題と考えられます。転倒の一般的なリスク因子には、高齢、神経筋疾患、鎮静薬の使用、下肢筋力低下などがあげられますが、さらに肝硬変患者ではサルコペニア、フレイル、および肝性脳症も転倒につながることがあります。

従来肝性脳症の検査法として様々な診断ツールが用いられておりますが、ANT は「1 分間に回答できる動物の数」により評価する神経機能検査であり、検査に必要な時間が短いことや検査機器が必要ないことから欧州肝臓学会で推奨されている唯一の肝性脳症の簡易検査法です。しかし、本邦における ANTの検討は不十分であり、特に ANT の結果と転倒および転倒による骨折との関連については検討されていません。

本研究では、本邦の肝硬変患者を対象として過去一年間の転倒および転倒による骨折の既往の実態と ANT で評価した神経機能との関連について検討しました。

研究成果

本研究では肝硬変患者 94 名を対象に、過去一年間の転倒および転倒に伴う骨折について調査し、ANT との関連について検討しました。また ANT の結果に影響を与える因子について検討しました。参加者の年齢中央値は 72 歳であり、30%が女性でした。そのうち過去 1 年間の転倒は 19%、転倒に関連した骨折は 5%の患者で認めました。本研究結果により肝硬変患者の約 2 割が転倒しており、転倒した患者の 4 人に 1 人は骨折していることが明らかとなりました。したがって転倒の高リスク患者を同定し、骨折とそれに伴う生活の質の低下を予防することが必要であることが示唆されました。

次に肝硬変における転倒と ANT との関連について検討しました。転倒した患者は転倒のない患者と比較して ANT で回答できた動物の数が有意に少ないという結果でした(18 vs. 11; p < 0.001)。また転倒に伴う骨折に関しても骨折既往のある患者はそうでない患者と比較して ANT で回答できた動物の数が有意に少ないという結果でした( 16 vs. 8 ; p < 0.001)。Receiver operatingcharacteristic 解析では、転倒あるいは転倒に伴う骨折に関連する ANT のカットオフとして11点が抽出され、11 点以下の群では 11 点より大きい群と比較して有意に転倒(56% vs. 11%; p < 0.001)と転倒に伴う骨折(28% vs. 0%; p < 0.001)の割合が高いことが明らかとなりました(図 1)。

転倒に関連する因子について多変量解析を行うと ANT(オッズ比 0.78; 95%信頼区間 0.65-0.93)、女性、フレイルの指標である Karnofsky performance status4)が独立して転倒に関連する因子でした。また転倒に伴う骨折に関しても ANT(オッズ比 0.78; 95%信頼区間 0.65-0.93)が有意な因子でした。この結果から ANT の結果は年齢やフレイルなどといった既知のリスク因子とは独立した転倒に関連する因子であることが明らかとなりました。また ANT は年齢と独立して転倒に伴う骨折に関連する因子でした。つまり、ANT の結果が悪いと転倒や転倒に伴う骨折を経験する確率が高いことが明らかとなり、ANTを評価することで転倒や転倒に伴う骨折のリスク評価に有用である可能性が示唆されました。

本邦において肝硬変患者における ANT の有用性は検証されていないため、ANT の結果に関連する因子について検討を行いました。重回帰分析では、年齢、教育年数が ANT の結果に影響を与える因子であることが明らかになり、一方で回答する際に干支を使用したかどうかは有意な因子ではありませんでした(図 2)。ANT は肝性脳症を評価するための簡易な神経機能検査として世界で標準的に使用されていますが、今後本邦において ANT を標準化するにはこれらの因子を加味したカットオフ値の設定が必要であることが示唆されました。

以上のことから、年齢中央値72歳の肝硬変患者において 19%が転倒歴、5%が転倒に伴う骨折歴を有し、転倒や転倒に伴う骨折歴のある者はそうでない者と比較して ANT で評価した神経機能が低下している可能性が高いことが示されました。ANT は肝性脳症の標準的な検査法であり、ANT に基づく転倒予防の生活習慣指導や肝性脳症の評価及び治療に伴う転倒リスクの軽減につなげる必要があることが示唆されました。また本研究により本邦の肝硬変患者における ANT の検査結果に影響する因子が示され、今後本邦の肝硬変患者に対して ANT を標準化していく上での課題も明らかとなりました。本研究結果により、肝硬変患者における転倒や転倒に伴う骨折の実態と ANT で評価した神経機能の関係が明らかになり、転倒リスクの評価や転倒予防に寄与することが期待されます。

今後の展開

本研究により、肝硬変患者の約 2 割に転倒歴があり、ANT で評価した神経機能と関連していることが明らかになりました。ANT を用いた神経機能の評価により、肝硬変患者における転倒リスク評価法の策定、高リスク患者での生活指導を含む転倒予防、肝性脳症評価治療による転倒リスクの軽減につながり、肝硬変患者の健康寿命の延長と生活の質の維持に寄与することが望まれます。今後、ANT と肝性脳症を含むアウトカムについても検討し、本邦の肝硬変患者のアウトカムを評価あるいは改善するための簡易な神経機能評価法の確立が期待されます。

用語解説

1)アニマルネーミングテスト

アニマルネーミングテストは「1 分間に回答できる動物の数」を調査する簡易な神経機能検査である。施行時間が短いことと特殊な検査機器が不要であることから欧州肝臓学会では肝性脳症の検査法としてアニマルネーミングテストを推奨している。

2) receiver operating characteristic 解析

Receiver operating characteristic 解析は診断やスクリーニング検査の精度評価に用いる解析である。検査におけるカットオフ値や、陽性者を正しく陽性と判定する感度、陰性者を正しく陰性者と判定する特異度、陽性者のうち真に疾患を有している者の割合である陽性的中率、陰性者のうち真に疾患のない者の割合である陰性的中率を判定できる。

3) 重回帰分析

重回帰分析は、多変量解析の一つであり、複数データの関連性を明らかにする統計手法の一つである。重回帰分析を用いることで分析対象に対してそれぞれの要素がどの程度影響を得ているかを数値化することが可能となる。

4) Karnofsky performance status

Karnofsky performance status は日常生活でどの程度活動能力があるかを0(死)から 100(正常)の範囲で評価する米国肝臓学会で推奨されるフレイルの評価尺度である。

論文情報

雑誌名

Scientific Reports

論文タイトル

Animal naming test stratifies the risk of falls and fall-related fracturesin patients with cirrhosis

著者

Miwa T1, Hanai T1,2, Hirata S2, Nishimura K2, Unome S1, Nakahata Y1,3, Imai K1,Shirakami Y1, Suetsugu A1, Takai K1,4, Shimizu M1.

1.岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学分野

2.岐阜大学医学部附属病院生体支援センター

3.朝日大学病院消化器内科

4.岐阜大学大学院医学系研究科地域腫瘍学講座

DOI

10.1038/s41598-024-54951-8

詳細▶︎https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2024/02/entry29-13069.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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