歯の喪失・咀嚼困難・口腔乾燥があると認知症のリスクが10~20%高くなる

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これまでの研究から歯数の少ない人で認知機能の低下や認知症のリスクが高くなることが報告されています。しかし、口腔状態と認知機能はお互いに影響し合っており、そのことにより口腔状態と認知症リスクとの関連が大きく見積もられていた可能性があります。本研究では口腔状態と認知機能が互いに影響し合うことによる相互作用を除外したより適切な統計学的手法を用いて、口腔状態と認知機能との関連を評価しました。

 本研究は、65歳以上の高齢者約3万8千人を対象とした9年間の追跡調査です。統計解析により口腔状態と認知機能の相互作用の影響を除外した結果、認知症発症のリスクが歯数19本以下の人では1.12倍、歯がない人では1.20倍高くなることが示されました。また、咀嚼困難のある人で1.11倍、口腔乾燥のある人で1.12倍、認知症のリスクが高いことも明らかになりました。

 本研究結果から、より適切な分析手法を用いても①歯の喪失が認知症のリスクを上昇させること、②咀嚼困難や口腔乾燥といった口腔機能低下も認知症のリスクを上昇させることが明らかになりました。認知症の予防のためにも、歯を失うことを予防するだけでなく、口腔機能の維持にも気を付けることが重要だと言えます

 本研究成果は、2023年12月8日に米国老年医学会の学術誌である「Journal of the AmericanGeriatrics Societyにて早期公開されました。

■背景

 これまでの研究から、歯を多く失った高齢者では、認知症のリスクが高くなることが報告されています。しかし、口腔状態と認知機能は互いに影響し合っているため、その影響を考慮しない分析では、関連の強さを実際よりも大きく見積もっている可能性があります。そのため、口腔状態と認知機能を複数時点で評価して、口腔状態と認知機能の相互作用による影響を除外することで、これまでの研究よりも適切に関連を評価できる可能性があります。本研究では、2時点で口腔状態と認知機能を測定し、周辺構造モデルという分析方法を用いて、口腔状態と認知機能の相互作用よる影響を除外した上での口腔状態と認知機能との関連を明らかにしました

■対象と方法

 本研究は2010年に実施されたJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的評価研究)調査に参加した65歳以上を対象とした9年間の追跡研究でした。2010年時点および2013年時点における口腔の状態(歯数および咀嚼困難・むせ・口腔乾燥の有無)を調査し、2013~2019年までの間の認知症の発症の有無との関連を調べました。分析に際しては、周辺構造モデルを用いて、2010年・2013年時点の認知機能の影響を除外したうえでの、各口腔状態の指標が認知症の影響に関連するのかを明らかにしました。分析に際しては、性別・年齢・教育歴・等価所得・婚姻状況・併存疾患(がん・脳卒中・糖尿病・高血圧)・喫煙歴・飲酒習慣・歩行時間の影響も取り除きました。

 

 

■結果(図1および表1)

 対象者37,556人における認知症の発症率は100人年あたり2.2でした。認知症の発症率は歯数の少ない人および咀嚼困難・むせ口腔乾燥などの口腔機能が低下している人で高かったです。周辺構造モデルを用いた分析により口腔状態と認知機能の相互作用による影響を取り除いた解析においても、認知症のリスクは歯数が19本以下の人で1.12倍、歯が0本の人で1.20倍、咀嚼困難を有する人で1.11倍、口腔乾燥を有する人で1.10倍高いことが示されました。しかし、むせと認知症との間には統計学的に有意な関連は示唆されませんでした。

 

 

■結論

 本研究から、口腔状態と認知機能との相互作用による影響考慮しても、歯数が少ないこと・咀嚼困難を有すること・口腔乾燥を有することが認知症リスクの上昇と関連することが示唆されました。

本研究の意義

歯の喪失だけでなく、咀嚼困難や口腔乾燥などの口腔機能の低下は高齢者によくみられる健康問題です。歯の喪失を予防するだけでなく、口腔機能の低下予防のための適切な治療やリハビリテーション、服薬の調整などにより、認知症のリスクを低下できる可能性があります。

※注釈

周辺構造モデル:原因と結果の関連の有無を明らかにする際に、原因と第三の要因がお互いに影響し合っている相互作用のような関係があり、第三の要因が結果にも影響するような場合に統計学的に相互作用を除外した上での、原因と結果の関連の有無を推定する分析方法。

表1.歯数および口腔機能の低下の有無ごとの認知症発症率 (n = 37,556) 

■発表論文

Kusama, T., Takeuchi, K., Kiuchi, S., Aida, J., & Osaka, K. (2023). Poor Oral Health and Dementia Risk

under Time-varying Confounding: A Cohort Study Based on Marginal Structural Models Journal of

the American Geriatric Society, adv.pub. DOI:10.1111/jgs.18707

■謝辞

本研究はJSPS科研(19H03901, 19H03915, 19H03860, 19K04785, 19K10641, 19K11657, 19K19818, 19K19455, 19K24060, 19K20909, 20H00557, 21K19635, 22K17265, 21H03153, 22H03299)、厚生労働科学研究費補助金(19FA1012, 19FA2001, 21FA1012, 22FA2001, 22FA1010)、国立研究開発法人日本医療開発機構(AMED)(JP20dk0110034, JP21lk0310073, JP21dk0110037, JP22lk0310087)、OPERA(JPMJOP1831)、革新的自殺研究推進プログラム(1-4)、笹川スポーツ財団助成金、健康・体力づくり事業財団助成金、千葉県民保健予防財団助成金、8020推進財団助成金(19-2-06)、新見公立大学助成金(1915010)、明治安田厚生事業財団助成金、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費(20-19, 21-20)の助成を受けて行われました。

詳細︎▶︎https://www.dent.tohoku.ac.jp/news/view.html#!1028

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

歯の喪失・咀嚼困難・口腔乾燥があると認知症のリスクが10~20%高くなる

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