はじめに|制度を正しく知るために
先日POSTでは、「理学療法士協会の次期会長選に4名が立候補」という速報記事をお伝えしました。この記事に対して、「協会の会長は選挙で決まるわけではないのでは?」「制度の構造をもっと説明すべきでは?」といったご意見が寄せられました。
たしかに、協会の会長選出制度は一見するとわかりにくく、「選挙=会長決定」という単純な図式ではありません。そこで今回は、制度の実態と背景を丁寧に解説しながら、なぜこのような仕組みになっているのか、そして会員にとって何が大切なのかを考えてみたいと思います。
選挙で会長は決まらない?制度の実際
結論から言えば、「理学療法士協会の会長は、選挙によって直接決まるわけではありません」。これは協会の定款に明記されており、会長は理事会による選出によって決まります。今回行われるのは「理事候補者選出のための選挙」であり、最も多く票を集めた人が自動的に会長になるという仕組みではないのです。
それにもかかわらず、「会長選に立候補」という表現が使われているのは、「理事として選出された後、理事会で会長に選ばれる意志のある人物」が立候補しているためです。この構造を理解しないままでは、選挙に対する誤解が生まれやすくなります。
理事会が会長を決める理由とは?
ではなぜ、会員による直接投票で会長を選ばないのでしょうか?
理学療法士協会の会長は、定款第20条第2項により、「理事会の決議によって理事の中から選定される」と定められています。つまり、まずは理事が選ばれ、その後、理事会で会長が決定されるという二段階構造になっています。
そしてこの理事を選ぶのが、「代議員」と呼ばれる会員代表です。定款第5条によれば、代議員は正会員の中から選挙で選ばれ、法人法上の「社員」として総会を構成し、役員(=理事・監事)を選任する権限を持ちます。したがって、代議員が会長を直接選ぶわけではありませんが、会長選出に影響を与える理事の選任に関与する、いわば“間接的な選挙人”として重要な役割を担っています。
このような「代議員 → 理事 → 会長」という間接選挙の仕組みは、理学療法士協会に限った特殊な制度ではなく、公益社団法人の多くで採用されている標準的な構造です。たとえば作業療法士協会や看護協会など、他の医療系職能団体でも同様に、会員による直接選挙ではなく、理事会による会長選任が行われています。
ただし、理学療法士協会では「会長候補者選挙」として立候補と投票の仕組みが設けられており、制度上と実際の見え方にギャップが生じやすいという特徴があります。
この制度には、いくつかの意図があります。
○短期的な人気投票にならないようにするため
○内部の連携や合意形成を重視するため
○過去の運営体制との整合性を保つため
つまり、専門性の高い判断を要する協会運営において、理事間の議論と合意形成を通じたリーダー選出を重視している結果として、このような構造が維持されているとも言えます。
それでも「選挙」は重要な意味を持つ
「では、この選挙に意味はないのか?」というと、決してそうではありません。
選挙は、候補者がどんなビジョンを持っているかを知る貴重な機会であり、会員の意志を「見える化」する場でもあります。
選挙で得票数が多かった候補が、理事会で会長に選ばれるとは限りません。しかし、会員の声を無視して会長を決めることは、理事にとっても難しい状況を生み出します。つまり、この選挙は間接的ながらも重要な影響力を持つ民主的プロセスなのです。
立候補者から“未来の兆し”を読む
今回の会長候補者は4名。いずれも理事としての選任を経て立候補しており、それぞれが異なる問題意識や改革への方向性を打ち出しています。
たとえば、
○現体制の継続と発展を掲げ、法制度対応や国際展開、会員還元の強化を重視。
○ガバナンス改革や情報公開、ダイバーシティ推進に注力し、組織の透明性向上を目指す。
○組織マネジメントの立て直しを強く訴え、信頼回復と内部統治の改善を主軸に置く。
○入退会対策や診療・介護報酬制度の対応、理学療法士法改正などを多面的に進めようとする。
それぞれの立場から、協会が直面する課題をどう乗り越え、どのような未来を描くかが語られており、今回の選挙結果は今後の協会運営の方向性を大きく左右するものとなるでしょう。
「この人が会長になったら何が変わるか?」
「この人が会長でなかったら、どんな選択がなされないのか?」
という視点で候補者を見ることは、療法士自身の未来を考えることにもつながります。
POSTが伝えたいこと
POSTでは速報性と正確性のバランスを常に意識しながら、より分かりやすい情報提供を目指しています。そのため、今回のような読者からのご指摘は非常にありがたく、私たちの情報発信のあり方を見直すきっかけにもなります。
選挙の背後にある意思決定の構造や、見せ方と実態のギャップ。それらを理解したうえで、自分たちの職能団体とどう向き合い、未来をどう築いていくべきかを考える必要があります。
“傍観者”ではない
協会の選挙制度は複雑で、時にわかりにくくもあります。しかし、その制度の中で何が決められ、誰がそれを決めているのかを理解することは、専門職として社会的責任を担う私たちにとって重要なリテラシーです。
POSTは今後も、制度の構造や背景を丁寧に伝え、読者の皆さまとともに“考えるメディア”であり続けたいと考えています。