28日、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第2回)」が開催されました。本検討会は、急速に進む高齢化とともに多様化・複雑化する高齢者向け住まいにおいて、制度の隙間をどのように埋めるのか、そして入居者が本当に安心して暮らせるサービスとは何かを探ることを目的としています。今回は、関係団体や事業者によるヒアリングを通じて、制度上の課題や現場の実情が多角的に示されました。
所得と介護度で分断される高齢者の住まい
冒頭、日本社会事業大学の井上由起子教授が昨年度の老健事業の分析データをもとに、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の利用実態を紹介しました。
資料によると、本人負担額は「介護付き」26.5万円、「サ高住」15.8万円、「住宅型」12.0万円と大きな差があり、その結果、生活保護受給者の割合は住宅型が20%、サ高住が10.8%、介護付きが2.9%と大きく異なっていました。また、支給限度額に対する介護サービス利用率は、低所得者が多い施設で高くなる傾向があることも示されました。
つまり、所得階層によって利用できるサービスが大きく異なり、事実上の"階層化"が進んでいる実態が浮かび上がったのです。
資料2 井上日本社会事業大学専門職大学院教授(構成員)提出資料
「囲い込み」と選択肢の喪失
一方で、現場で問題視されているのが、介護保険サービスの「囲い込み」です。住宅型有料老人ホームやサ高住では、訪問介護や通所介護などのサービスを同一法人が運営し、外部サービスの利用が事実上困難となっているケースがあります。
井上教授は、「基本サービス費が高い施設ほど、併設事業所の利用率が低い傾向にある」と分析しました。裏を返せば、経済的余裕のない施設ほど、限られた選択肢の中で介護サービスが提供されている構造があることがわかります。
資料2 井上日本社会事業大学専門職大学院教授(構成員)提出資料
紹介業者の存在意義と課題
次に登壇したのは、高齢者住まい事業者団体連合会(高住連)の市原俊男代表幹事と事務局長の三本兼二氏です。両氏は、高齢者向け住まいの紹介業者が果たす役割と、その質を担保するための「届出公表制度」について説明しました。
この制度は2021年から導入され、2025年4月時点で625法人が登録されています。事業者には基礎講座の受講や行動指針の遵守が求められ、特に「介護度に応じた高額手数料」や「制約後のリベート」など不透明な商習慣に対し、是正を促しています。
しかし、実効性には課題も残っています。三本氏は、「紹介業は地域包括ケアの一部として、情報のハブ機能を担っている」と述べましたが、届け出制度が法的拘束力を持たない点や、利用者に十分な説明がなされていない現状も一部で報告されています。
資料3 高齢者住まい事業者団体連合会提出資料
契約トラブルと消費者保護の観点
独立行政法人国民生活センターの資料では、有料老人ホームに関する相談件数が2023年度に1,087件に達し、2024年度も「解約」「契約書」「返金」などの契約トラブルが上位を占めていることが示されました。
契約書の説明不足や、サービス内容・費用の不明確さに起因するトラブルが多く、事前説明の強化や標準的な契約書モデルの導入が求められています。特に認知機能が低下している高齢者にとって、情報の非対称性は深刻なリスクとなり得ます。
資料6 保木口構成員提出資料
指導指針と制度の限界
厚生労働省が提示している「設置運営標準指導指針」は、有料老人ホームに対する一定の枠組みを提供していますが、介護保険施設のような詳細な設備・人員基準は存在しません。
住宅型では看護職員の専従配置率が17.2%、サ高住では12.4%にとどまっており、医療ニーズの高い入居者への対応が十分とは言いがたい状況です。制度上は可能でも、実態としてはサービスの質に大きなばらつきがあることが明らかになりました。
資料7 有料老人ホームの現状と課題について
今後に向けた論点整理
検討会では以下の論点が提示され、今後の制度設計に向けた議論が進められる見込みです。
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所得や介護度に関わらず、安心して暮らせる住まいの実現
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囲い込みの是正と外部サービス選択の自由保障
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紹介業の透明化と悪質業者の排除
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消費者トラブル防止のための情報開示義務の強化
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サービスの質評価と可視化の仕組みの構築
今後、制度改正が進む中で、現場の声をいかに反映させるかが問われています。検討会は引き続き開催される予定であり、「誰のためのサービスか」という原点に立ち返った議論が期待されます。