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「制度の綻び」を見過ごすな──有料老人ホームをめぐる第3回検討会が直面した現実

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19日、有料老人ホームの制度とサービスの在り方を検討する「第3回有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」が東京・虎ノ門で開催されました。会場には、法律家、医師、自治体職員、業界関係者などが集まり、現場の実態と制度のギャップについて活発な議論が交わされました。

議題は「有料老人ホーム関係者に対するヒアリング」とされていましたが、その中身は、制度の枠組みを超えた“サービスと契約のグレーゾーン”に切り込む、濃密な現場報告と問題提起となっていました。

「一見、制度に則っているが」──福山市が語る“過剰収益モデル”の実態

検討会の冒頭では、広島県福山市からの報告がなされました。同市では、有料老人ホームの新規開設に関する相談件数が年々増加しており、その中には「訪問介護・訪問看護を併設し、医療ニーズの高い高齢者を短期で受け入れる」ことを前提とした収益重視の事業モデルも含まれていたといいます。

法人から提出された収支計画の中には、月額50〜80万円という高額な「顧客単価」が示されており、要介護5の利用者に対して、区分支給限度額の8割以上を使い切る“高効率モデル”が存在するとの報告がありました。

福山市の担当者は次のように語っています。

「実際には、訪問看護事業を始めたいだけなのに、“住まい”の体裁をとって制度の網をすり抜けようとする構造が見受けられます」

この報告に対して、東洋大学の高野教授は次のように指摘しました。

「制度の盲点を突いた事業設計が常態化しており、給付の適正化という観点からも、自治体がより強い権限を持って介入できる法的整備が必要です」

「枠組みの不在」が生む混乱──矢田尚子准教授が語る“混合契約”のリスク

日本大学の矢田尚子准教授は、有料老人ホームの契約構造に関する法的課題について詳しく解説しました。有料老人ホームにおける契約は、「入居契約」と「介護契約」が一体となった「無名契約(混合契約)」とされており、民法上の典型契約に当てはまらない複雑な法的性質を有しています。

「契約書の中でサービスの範囲が不明確な場合、どこまでが義務で、どこからが善意の対応なのか、利用者には判断がつきません。介護事故が発生した際、責任の所在を問うことが極めて困難になるのです」

また矢田氏は、住宅型有料老人ホームにおける“囲い込み”の実態にも言及しました。本来であれば、入居者は外部のサービス提供者を自由に選べるはずですが、現実には併設された事業所しか利用できない状況が常態化しており、「選択の自由」が事実上失われていると説明しました。

行政の限界と“法的拘束力の空白”──横浜市・大阪府の現場からの声

検討会では、横浜市と大阪府からも報告がありました。両自治体とも、有料老人ホームへの指導監督が困難であるという実態を共有しました。

横浜市では、2023年に開設された住宅型有料老人ホームが不適切な運営を行ったまま閉鎖され、市が緊急対応として入居者保護にあたった事例が紹介されました。

「届出制という制度の中では、リスクの高い事業計画であっても開設を阻止する法的手段がありません。処分をしても他自治体に情報が共有されず、同じ事業者が別の市で再開してしまうケースもあります」

一方、大阪府からは「立ち入り検査が3年に1回ではとても追いつかず、名義を別法人に変更されると、事実上運営者が変わっていないのに履歴がリセットされてしまう」といった現場の声があがりました。

「紹介業者」の責任と影響力をどう見るか

今回の検討会では、高齢者住まい紹介業者と有料老人ホームとの関係性についても議論がなされました。

紹介業者が入居者から手数料を受け取る一方で、施設側からも成功報酬を受け取っているケースが少なくありません。報告によれば、「短期間での退去時に返金ルールが伏せられている」「複数業者による“二重紹介”がトラブルを招いている」などの実例が紹介されました。

「紹介業者が果たしている“実質的なケアコーディネーター機能”を無視して、契約構造の透明性を語ることはできません」(構成員)

見えてきた論点──制度改革への道筋

今回の議論を通じて、以下のような論点が整理されました。

  • 入居契約と介護契約の法的明確化

  • “囲い込み”を助長する併設サービス構造の見直し

  • 紹介業者との関係性の法的整備

  • 財務の健全性と収支計画の妥当性確認

  • 届出施設への監査権限の創設

  • ガイドラインから法制化への転換

座長を務めた慶應義塾大学の駒村康平教授は、閉会の挨拶で次のように語りました。

「高齢者が尊厳をもって暮らせる住まいを確保するために、制度が果たすべき責任は重い。一つひとつの論点が制度の根幹にかかわるものです」

この検討会は、単なる行政の“ガイドラインづくり”で終わるものではありません。福祉と市場、自由と規制、サービスと人権。そのせめぎ合いの中で、今もなお制度の曖昧さに翻弄される高齢者がいます。

その声を、議場の中だけにとどめておくべきではありません。

▶︎https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57904.html

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