2025年9月10日、日本の主要病院団体6組織が厚生労働大臣に対し、病院経営の危機的状況を訴える緊急要望書を提出した。物価・賃金高騰により約7割の病院が医業赤字に陥っている現状を受け、緊急支援策と大幅な診療報酬改定を強く求めている。
病院経営が危機的状況に
要望書を提出したのは、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本慢性期医療協会、全国自治体病院協議会の6団体。相澤孝夫日本病院会会長ら各団体の代表が連名で福岡資麿厚生労働大臣宛てに要望した。
要望書によると、現在約7割の病院が医業利益で赤字、約6割が経常利益で赤字となっている。医業赤字病院の割合は2024年度時点で約69%に達し、近年大幅に悪化している。
物価高騰に診療報酬が追いつかず
病院経営悪化の主な要因として、物価・賃金高騰に診療報酬改定が追いついていない現状を挙げている。
賃金格差が拡大
- 医療機関の賃上げ率:2.51%
- 他産業の賃上げ率:5.25%
2022年以降、消費者物価指数の上昇率と診療報酬本体改定率が大きく乖離。2022年以降、消費者物価指数の上昇率と診療報酬本体改定率が大きく乖離している。
団体の試算では、賃上げ4%、物価上昇3%の場合、病院の診療コストは年3.1%上昇するが、2024年度診療報酬改定率は0.88%(年平均0.44%)にとどまり、コスト上昇に遠く及ばないという。
2つの緊急要望事項
病院団体は以下の2点を緊急要望として提出した:
1. 2025年度補正予算での緊急支援
- 病床1床あたり50万円から100万円の支援策
2. 2026年度診療報酬改定率の大幅引き上げ
- 病院診療報酬改定率10%超が必要
10%超という改定率について、団体は以下の内訳で説明している:
- 2026-2027年度の物価・賃金上昇対応分:約6.2%
- 2024年までの経営悪化分:2.8%
- 新技術導入など通常改定分:0.3%
- 2025年度不足分:約2.5%
財源確保案も提示
要望書では必要財源として医療費約2.5兆円(国費約0.63兆円、保険料約1.25兆円)を算出。財源確保策として、経済成長により増加した消費税収や、賃金上昇に伴う健康保険料収入の増加分の活用を提案している。
「ある日突然病院がなくなる」警鐘
各団体は「このままではある日突然、病院がなくなります」として、地域医療崩壊への強い危機感を表明。医療従事者の賃金を他産業並みに引き上げることができない現状では、病床閉鎖による地域医療の崩壊は避けられないと訴えている。
今回の要望は、コロナ禍を経て物価高騰が続く中、公定価格制度の下で価格転嫁ができない医療機関の構造的な問題を浮き彫りにした形となった。厚生労働省の対応が注目される。