厚生労働省が公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、医療・福祉分野の3年以内離職率は、高卒49.2%・大卒40.8%だった。いずれも全産業平均(高卒37.9%、大卒33.8%)を上回り、離職率の高い産業の上位に位置づけられるが、前年からはわずかに改善している。
医療・福祉は依然「離職率の高い産業」上位に位置
厚労省の調査によると、3年以内離職率の高い産業(高卒)は次のとおり。
- 1位 宿泊業・飲食サービス業:64.7%
- 2位 生活関連サービス業・娯楽業:61.5%
- 3位 教育・学習支援業:53.6%
- 4位 医療・福祉:49.2%(前年▲0.1pt)
- 5位 小売業:48.3%
大卒でも同様の傾向が見られ、
- 1位 宿泊業・飲食サービス業:55.4%
- 2位 生活関連サービス業・娯楽業:54.7%
- 3位 教育・学習支援業:44.2%
- 4位 医療・福祉:40.8%(前年▲0.7pt)
- 5位 小売業:40.4%
いずれの学歴層でも「宿泊・飲食」「生活関連・娯楽」「教育・学習支援」と並ぶ高水準グループに入る。
最も離職率の高い宿泊・飲食とのギャップは、高卒で15.5ポイント差、大卒で14.6ポイント差と、一定の差がある。
一方で前年と比べると改善しており、医療・福祉分野の離職率は横ばいからやや低下傾向を示している。
「規模が大きいほど離職率が低い」──全産業に共通する構造
全産業計で見ると、事業所規模が大きいほど離職率が低下する傾向が明確に表れている。
たとえば大卒では、
- 5人未満:57.5%
- 1,000人以上:27.0%
高卒でも、
- 5人未満:63.2%
- 1,000人以上:26.3%
と、規模の大小で30ポイント以上の差が生じている。
この構造は業種を問わず共通しており、大規模法人ほど定着率が高いことを示唆する。
また、厚労省が公表した同資料の「事業所規模別離職率グラフ」では、従業員100人を超えたあたりから離職率の低下カーブが緩やかになり、30%台で収束していく様子が確認できる。
このため、「3年以内離職率30%前後」が安定雇用のひとつの目安ラインとみなすことができ、100人以上の規模で組織的な定着効果が働く構造が示唆される。
医療・福祉でも同様の傾向がある可能性があり、大規模病院や社会福祉法人では人材定着が進みやすいとみられる。

編集部まとめ
医療・福祉は、高卒・大卒ともに離職率の高い産業に属するが、改善傾向に転じている点が今年の特徴だ。全産業のデータでは、事業規模が大きいほど離職率が低い構造が一貫して見られる。医療・福祉分野でも同様の傾向が想定されるが、産業内の事業所規模構成を含めたより詳細な分析が今後の課題といえる。
理学療法士としての現場経験を経て、医療・リハビリ分野の報道・編集に携わり、医療メディアを創業。これまでに数百人の医療従事者へのインタビューや記事執筆を行う。厚生労働省の検討会や政策資料を継続的に分析し、医療制度の変化を現場目線でわかりやすく伝える記事を多数制作。
近年は療法士専門の人材紹介・キャリア支援事業を立ち上げ、臨床現場で働く療法士の悩みや課題にも直接向き合いながら、政策・報道・現場支援の三方向から医療・リハビリ業界の発展に取り組んでいる。







