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賃上げ評価で「実効性」か「簡素化」か──心臓リハの基準見直しも論点

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中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第633回)が12月5日に開催され、医療従事者の賃上げを診療報酬でどう後押しするかが主要論点となりました。賃金改善を「要件で担保する設計」を求める意見が出る一方、届出・算定要件の積み上げによる事務負担の増大を懸念し、簡素化を優先すべきとの声も上がりました。

また、精神医療では初診待機への対応、バイオ後続品では在庫負担等の構造課題が議論されたほか、技術的事項として慢性心不全の再入院予防に向けた心臓リハビリテーションの実施体制や、リハビリテーション料の対象基準見直しについても論点として整理されています。

賃上げ支援は「実効性」と「簡素化」のバランスが焦点

今回の総会で最大の焦点となったのが、令和6年度改定で導入された「ベースアップ評価料」に続く、次期改定に向けた賃上げ支援の在り方です。厚生労働省は資料で、個々の医療機関の賃金改善額を報酬に「精緻に反映」させようとすれば事務負担が増え、逆に一律評価などで負担を下げると、実際の賃金改善との間に「ばらつき」が生じるというトレードオフ(二律背反)の関係を提示しました。

この論点に対し、診療側(医療機関側)からは、複雑な制度設計が現場の負担になっているとの指摘が相次ぎました。  日本病院協会の青田修二委員は「診療報酬制度で賃上げを詳細に設定して促すことは極力避けるべき」とし、ベースアップ評価料のような複雑な仕組みではなく、入院基本料などの基本診療料の引き上げによって対応し、配分は各医療機関の裁量に委ねるべきだと主張しました。日本医師会の江澤和彦委員も同様に、「精緻な評価を目指すことで手続きが煩雑になり、対象職種が限定されるなどの課題が生じている」と述べ、基本診療料を中心とした上乗せと、事務職員を含めた全職種への対応を求めました。

一方、支払側(保険者側)からは、賃上げが確実に行われる担保を求める声が上がりました。  連合の松本真人委員は、事務負担と精緻さのトレードオフは理解しつつも、「事務負担が大変だから見直すということではなく、患者負担や保険料財源をどう配分するかという視点も重要」と指摘。健康保険組合連合会の長井敏弘委員も、事務負担の軽減には賛意を示しつつ、「労働者の処遇改善にきちんと充てられているか、効果を確認できるようにする必要がある」と釘を刺しました。

議論の落としどころとして共有されたのが「届出の簡素化」です。厚労省の調査では、ベースアップ評価料を届け出ていない病院の過半数が理由として「届出内容が煩雑なため」を挙げています。

また、日本歯科医師会の小坂敏久委員からは、看護職員の不足が深刻化しており、「他産業並みに賃金が上がらなければ医療崩壊を起こす」との危機感が示されました。次期改定に向け、賃上げの“実効性”をどう担保しつつ、現場が躊躇する届出の壁をどう下げるかが具体的な設計の焦点となりそうです。

心不全の再入院予防、心リハ実施の「施設間差」是正へ

技術的事項では、慢性心不全の再入院予防に関連し、入院中からの心臓リハビリテーション開始と退院後の継続の重要性、および実施状況に大きな施設間差がある現状が論点となりました。

また、心大血管疾患リハビリテーション料については、対象基準の見直しも俎上に載りました。心不全診療ガイドラインにおいて、心不全の可能性が高いと判断する「NT-proBNP値」の基準が400pg/mLから300pg/mLへ引き下げられたことを踏まえ、診療報酬上の慢性心不全患者の対象基準(現行は400pg/mL以上)との乖離を解消する方向性が示されています。

精神医療、「初診30分」評価で待機解消なるか

精神医療の領域では、深刻な「初診待機」の解消がテーマとなりました。現行の「通院・在宅精神療法」では、初診時に60分以上の診療を行った場合に高い評価がついていますが、これを緩和すべきかが議論されました。

日本医師会の江澤委員は「30分以上で対応できる初診患者も多くいる」として、初診待機問題の解消のために30分以上の評価区分を設定することを提案しました。これに対し、連合の松本委員は「精神疾患の特性を踏まえると初診時にしっかり時間をかけることが重要」と述べ、60分以上という基準の維持を主張しつつも、待機解消のために評価を分けること自体には一定の理解を示しました。

また、地域連携を評価する「早期診療体制充実加算」については、要件が厳しく届出が進んでいない現状が指摘されました。

特に診療所では「時間外診療」や「救急医療」の提供要件を満たすことが困難との回答が多く、病院との連携によって体制を確保している診療所も評価対象とする方向性が示されました。

バイオ後続品、普及を阻む「在庫リスク」と「説明負担」

技術的事項として、バイオ後続品(バイオシミラー)の普及促進も議論されました。バイオ後続品は先行品と成分が同一ではないため、薬局で薬剤師の判断による変更調剤ができず、医師への確認が必要です。また、高額かつ冷所保管が必要であるため、薬局にとっては在庫管理の負担や廃棄リスクが大きいという構造的な課題があります。

日本薬剤師会の森昌平委員(議事録上は「2号委員」等の表記から文脈判断)は、「不動在庫となったバイオ製剤は大きな廃棄リスクとなる」と述べ、返品ができない流通慣行の問題を指摘しました。また、日本歯科医師会の小坂委員は、薬局だけでなく病院においても高額な薬剤の在庫管理は負担であるとし、病院側の評価も考慮するよう求めました。

賃上げ支援は“実効性”と“簡素化”の両立が焦点で、精神医療の初診体制や心臓リハビリテーションの基準見直しなどとあわせ、次期改定に向けた具体的な制度設計が問われることになります。

▶︎中央社会保険医療協議会 総会(第633回) 

賃上げ評価で「実効性」か「簡素化」か──心臓リハの基準見直しも論点

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