日本慢性期医療協会(日慢協)は12月11日、定例記者会見を開催しました。会見の中で橋本康子会長は、言語聴覚士(ST)による外来リハビリテーションにおいて、オンライン診療の仕組みを活用した「オンラインST」の保険適用を求める提言を行いました。
橋本会長は、言語や高次脳機能障害を持つ患者が社会復帰を目指す上で、長期的な支援が不可欠である一方、専門職であるSTの地域偏在が深刻な課題となっている現状を指摘。ICTを活用することで、居住地域に関わらず適切なリハビリを受けられる体制の構築が必要だと訴えました。

ST不足と地域格差の深刻な実態
会見で示されたデータによると、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に比べてSTの有資格者数は少なく、その配置も都市部に集中している現状が浮き彫りになりました。
提示された資料では、人口10万人あたりのST従業者数が、高知県などの充実している地域と、秋田県や関東圏の一部など不足している地域で大きな開きがあることが示されました。この「地域偏在」により、退院後に必要なリハビリを受けられない「リハビリ難民」が発生するリスクが高まっています。

失語症回復には「2〜3年」の長期支援が必要
橋本会長は、失語症や高次脳機能障害の改善には、発症から2〜3年という長い期間を要するケースが多いことにも言及しました。しかし、現在の医療制度では、回復期リハビリテーション病棟を退院した後の外来リハビリの実施回数は極めて少なく、入院時のわずか7%程度にとどまっているとの厚生労働省のデータも紹介されました。
「退院後も継続的な支援が必要であるにもかかわらず、通院手段がない、あるいは近隣にSTがいないためにリハビリを断念せざるを得ない患者さんがいます」と橋本会長は課題を強調しました。
就労支援への有効性:オンラインで社会復帰を果たした事例
オンラインSTの有効性を示す具体例として、実際に社会復帰を果たした「もやもや病」の20代女性のケースが紹介されました。 この女性は回復期リハビリ病棟を退院後、実家のある沖縄県へ転居しましたが、近隣に外来STを受けられる施設がなく、運転もできないため移動手段がありませんでした。
そこで、オンラインによるSTを開始。画面越しに会話や課題の確認、生活上の困りごとの相談などを継続的に実施しました。その結果、約2年半の支援を経て、一般企業での就労(障害者雇用)が可能になるまで回復しました。
橋本会長は「オンラインSTは単なる機能訓練にとどまらず、実際の生活や就労における具体的な課題を解決する手段として極めて有効です」と述べ、対面診療の補完としての重要性を説きました。

安全性と対象の明確化:嚥下訓練は「対象外」
提言では、安全性を確保するためのルール作りについても言及されました。 オンラインSTの対象は、患者や家族が通信機器を操作でき、日常会話がある程度理解できるケースに限定すべきとしています。また、実施するリハビリ内容については、失語や構音障害へのアプローチ、就労支援などはオンライン可能とする一方、窒息や誤嚥のリスクがある「摂食嚥下訓練」については対面のみとし、オンラインの対象外とすべきとの見解が示されました。







