厚生労働省は令和7年12月23日、第5回健康日本21(第三次)推進専門委員会を開催し、本計画の評価起点となるベースライン値を審議しました。注目された国民の歩数目標値は、事務局案の「8,100歩」から、国民へのメッセージ性を重視した「8,000歩」へと修正・合意されました。また、運動習慣者の割合が31.3%(年齢調整値)にとどまる現状や、糖尿病が強く疑われる者が推計1,100万人に達するなど、リハ専門職が介入すべき「予防・重症化予防」領域の最新実態が浮き彫りとなっています。
歩数目標「8,000歩」へ修正|「正確さ」より「伝わりやすさ」を選択
本委員会で最も白熱した議論の一つが、身体活動の目標値設定です。 事務局は当初、最新のデータに基づき「8,100歩」という目標案を提示しました。これに対し、以前より現場への周知の混乱を懸念していた日本看護協会の松本構成員らに続き、津下構成員(あいち健康の森健康科学総合センターセンター長)が動きました。
津下構成員は「数字の桁数が細かいと、大雑把でいいというイメージになりかねないが」と前置きしつつも、国民へのメッセージ性を最優先し、キリの良い「8,000歩」とすることを提案。辻座長(東北大学教授)も「アクティブガイドでもキリのいい数字を採用している」と賛同し、最終的に説明書きでの補足を条件に「8,000歩」で合意に至りました。
臨床現場のリハ専門職にとっては、患者指導において「厳密な計算値(8,100歩)」よりも「行動変容を促すための目標値(8,000歩)」が採用された形となり、既存のガイドライン等との整合性が保たれやすくなったと言えます。

運動習慣者は3割台、働き盛り世代の介入に課題
8年ぶりに行われた大規模調査(令和6年国民健康・栄養調査)の結果、運動習慣者(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続している者)の割合は34.6%(年齢調整値31.3%)と低迷していることが判明しました。
特筆すべきは世代間のギャップです。1日の歩数平均値を見ると、20〜64歳では男性8,564歩、女性7,287歩と比較的高い数値を維持していますが、運動習慣の定着率は30〜40歳代で顕著に低く、男性で23.4%、女性では17〜19%台にとどまります。 65歳以上になると歩数は男性6,667歩、女性5,429歩へ大きく減少することから、リハ専門職には「現役世代への運動習慣の定着」と「高齢期の活動量維持」という、ステージに応じた二重のアプローチが求められます。

糖尿病予備群1,100万人、LDL目標も厳格化
生活習慣病領域では、衝撃的な数字が示されました。「糖尿病が強く疑われる者」は推計約1,100万人となり、平成9年の690万人から増加の一途をたどっています。 一方で、「糖尿病の可能性を否定できない者(予備群)」は約700万人と、平成19年のピーク(1,320万人)から減少傾向にあります。これは、予備群から「強く疑われる者」へと移行してしまっている可能性を示唆しています。
治療継続率は全体で67.4%ですが、女性(60.5%)や30〜40歳代の治療離脱が課題です。 また、脂質異常症に関しては、横山構成員の提案により、LDLコレステロール高値者(160mg/dl以上)の減少目標が、事務局案の「6.4%」から「6.5%」へと修正されました。現状値は40歳以上で8.2%であり、特に50歳代女性で14.9%と高い傾向を示しています。

高齢者の2割が低栄養、社会参加率は69.6%
地域リハビリテーションの核心となる高齢者のデータも確定しました。 65歳以上の低栄養傾向(BMI20以下)は19.5%。70歳以上の女性に限ると24.9%と、実に4人に1人が低栄養リスクを抱えています。
社会活動(就労・通いの場等)を行っている高齢者の割合は69.6%でした。 関連して、咀嚼機能(何でもかんで食べることができる者)は70歳以上で約7割まで低下しており、口腔機能の低下が栄養状態の悪化、ひいてはフレイルへとつながる「負の連鎖」をどう断ち切るかが、多職種連携の鍵となります。

委員からの指摘と今後の展望
質疑では、データの解釈と活用について鋭い指摘が相次ぎました。
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日本歯科医師会・松本構成員:「20代の喫煙率は低い(男性22.3%、女性6.4%)が、受動喫煙の機会は男女とも46〜47%に達する。喫煙者だけでなく環境へのアプローチが必要」
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日本栄養士会・諸岡構成員:「バランスの良い食事の目標値70%は、自治体の計画とも整合性が取れており適切だ」
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山下構成員:「コロナ禍の影響が残る令和6年値を固定してよいか」との質問に対し、事務局は「現時点では見直さないが、中間評価(令和11年度)で必要なら検討する」と回答。
今回の委員会で審議されたベースライン値と目標値の見直し案は、今後、厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会への報告を経て正式決定されます。新たな目標値に基づく告示改正も予定されており、現場への正式な周知は来年度(令和8年度)以降となる見通しです。






