
スクワットは下肢機能を包括的に引き出す代表的な運動であり、保存療法や術後の膝痛症例に対するリハビリテーションでも頻繁に用いられます。
しかし、実際の臨床では、
- 膝に痛みが出てフォームが崩れる
- 股関節が入りきらず、膝主導になる
- 足部の接地が安定しない
- 恐怖感から深くしゃがめない
といった課題が多く見られます。
これらの背景には、「力学」だけでなく、「協調性」「固有感覚」「身体イメージ」の問題が複雑に絡んでいます。
本稿では、スクワット動作を構造 × 機能 × 感覚の視点で再整理し、膝痛症例に特に有効なヒップヒンジ → バウンドスクワットの臨床プロトコルを中心にまとめます。
①スクワットの本質と臨床での誤解
膝主導ではなく“股関節主導”で動作が決まる
スクワット時に膝痛が生じる症例では、膝関節そのものに問題がある場合もありますが、股関節が十分に機能しないまま、膝に負担が集中している構造が見られることも少なくありません。
膝は曲げ伸ばしに優れた関節であり、荷重を吸収する役割を持っていますが、膝関節だけが働きスクワットが行われるわけではありません。
本来のスクワットは、
- 股関節でモーメントを処理し
- 体幹で安定性を保ち
- 足部で地面反力を整え
- 結果として膝が「安全に動く」
という全身協調システムで成り立ちます。
②スクワットのバイオメカニクス
スクワット時の膝の痛みはどこから生まれるのか?
● 矢状面制御
スクワットにおける代表的な誤解の一つに、「膝が前に出ると悪い」という考え方があります。本質はそこではなく、
- 股関節屈曲が十分に得られているか
- 膝前方移動と股関節モーメントのバランスが取れているか
という点にあります。
股関節屈曲が浅いまま下降すると、大腿四頭筋の負担が増大し、膝蓋大腿関節圧が高まり、疼痛を誘発します。
つまり、スクワット時の膝痛は、膝そのものだけでなく股関節が十分に機能していないことによる力学的破綻が関与しているケースも臨床上多く認められます。
● 前額面制御
Knee-in は、膝痛症例において最も頻出する破綻ポイントの一つです。
その背景には、
- 股関節外旋筋群や中殿筋の弱化を中心とした骨盤の不安定性
- 足部内倒れ(過回内)
- 下腿過外旋の影響
といった多因的要素が関与しています。
前額面制御は、膝関節の「安全性そのもの」を規定する要素であり、Knee-in の有無は必ず評価すべきポイントです。
● 足部接地と地面反力の伝達
接地の乱れは、膝痛発生の温床となります。
- 内側アーチの低下 → 大腿骨内旋を誘発
- 外側過荷重 → 股関節外旋での代償
- 踵荷重不良 → 体幹前傾が得られず、膝が前方に流れる
といった運動連鎖が生じます。
これらの要素は単独で生じることは少なく、多くの場合、複合的に出現する点が特徴です。
③評価の視点
スクワット評価では、
「どこで運動連鎖が破綻しているか」を見極めることが重要です。
静的アライメント、下降・底・上昇局面での動作観察、殿筋や膝周囲の触診、荷重感覚の偏りを統合して評価します。特に、痛みが出現する瞬間は、運動連鎖が破綻したポイントを示す重要な手がかりとなります。
④スクワット再獲得の考え方
スクワット改善の介入では、構造(動きやすさ)・機能(使い方)・感覚(捉え方)の3軸を切り分けて考えることが重要です。
膝痛症例では、可動域や筋力が改善しても、膝への過剰な意識や誤った力配分が残り、動作が安定しないことが少なくありません。そのため、3軸を同時に整理し、股関節主導性と荷重感覚を反復学習できる形に介入を集約します。
この考え方に基づき、本稿では
ヒップヒンジ → バウンドスクワットの2ステップに絞って再獲得を行います。
⑤スクワットの段階的指導
膝痛症例では、深くしゃがむスクワットは最終目標ではなく、股関節を使う“軌道の学習”こそ最優先課題です。
■ STEP1:ヒップヒンジ
(スクワットの基礎回路づくり)
● 目的
- 股関節主導性
- 体幹の前傾コントロール
- 膝負担の軽減
- ハムストリングス、殿筋の伸張反応
● 方法
- 足幅は肩幅
- 膝は軽く緩める
- 背中はフラット
- 股関節から折れる
- 太もも裏に伸張感が出ればOK
● 回数
10〜15回 × 2セット
● テンポ
前傾2秒 → 戻る1秒
(動きの質を感じるために重要)
■ STEP2:バウンドスクワット30回
(協調性と軌道を身体に刻む核フェーズ)
深いスクワット以前に、軽い反復で正しい軌道を身体に染み込ませることが最も効率的 です。
● 目的
- 股関節主導の動作パターンの定着
- 膝前方負担の抑制
- 連続反復による固有感覚の再教育
- 切り返し動作での殿筋、大腿四頭筋の協調改善
● 方法
- 1. 股関節から軽くしゃがむ
- 2. 膝は 90°または痛みゼロの深さ
- 3. 小さく上下に弾む(反動を使わない)
- 4. 足裏3点支持をキープ
- 5. 背中はフラット
● 回数
20〜30回 × 1〜2セット
(痛みや疲労によって20回まで減らしても良い)
● 深さ
- 原則90°付近まで
- 痛みが出るなら 40〜60°の浅い角度で十分効果あり
- 深さより 軌道の安定が最優先
● スタンス幅の目的別使い分け
- ナロー(腰幅):支持基底面が狭い(歩行動作に近い)中でのトレーニングができる。
- スタンダード(肩幅よりすこし広め):もっとも安定し、評価にも使える
- ワイド(広く):Knee-in の抑制、支持基底面が広く安定性向上。より殿筋群への筋力強化に繋がる。
バウンドが臨床で非常に優れている理由
- 反復リズムが固有感覚・荷重感覚を整える
- 切り返し動作が殿筋→大腿四頭筋の自然な発火順序を作る
- 浅い角度でも十分効果を発揮し膝痛でも安全
- “痛みなく動けた”成功体験を作りやすい
- 下降のみのエキセントリック制御より習得が早い
まさに “スクワット改善の即効性が最も高い方法” です。
⑥成功体験の積み重ね
恐怖回避の解除と運動学習の加速
● 成功基準の例
「30回すべて痛みがなかった」
「深さは浅いがKnee-inがゼロだった」
「昨日より呼吸が楽だった」
「切り返しがスムーズだった」
成功とは“深くしゃがむこと”ではなく、痛みなく安定した軌道が作れた回数で評価する。
これは恐怖回避学習を上書きし、スクワット動作を“安全な運動”として脳に再登録させるために極めて重要です。
⑦まとめ
スクワットは「深さ」ではなく「軌道」、そして「膝」ではなく「股関節」で決まります。
ヒップヒンジで土台を整え、バウンドスクワットで協調性を学習し、成功体験を積み重ねる。
この流れを押さえれば、スクワットは膝を痛める動作ではなく、膝を守る治療手段へと変わります。
臨床での再現性も高く、「深くしゃがめない」
「膝が不安」という症例ほど効果が顕著に現れます。
スクワットは評価にも介入にも使える、
非常に情報量の多い動作課題であり、
だからこそ「正しく使えば」最も強力な治療手段になります。ぜひ、実践してみましょう。
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