目次
- なぜ今、このテーマなのか
- まず押さえておきたい概念の違い
- Pirayeh 2025が示したMIC値
- 他の研究と比較して見えてくること
- 矛盾点と限界も正直に
- 明日から何をすればいいのか
- 目標設定にも使える
- 日本のガイドラインとの整合性
- 覚えておくべき数値
- 臨床ですぐ使えるツール集
- 参考文献
なぜ今、このテーマなのか
「バランスが良くなりましたね」
私たちは日々、患者さんにそう伝えています。でも、その「良くなった」は本当に意味のある改善でしょうか。
膝OA患者のバランス能力は健常者より明らかに劣ります。2016年のシステマティックレビューで統合効果量(SMD)は−1.64。片脚立位でいえば、膝OA患者が24〜42秒なのに対し、健常者は50〜66秒。約1.5〜2倍の開きがあります(Hatfield et al., 2016)。
この差を埋めようとバランス訓練をする。でも、ここで臨床家が直面する問いがあります。
何秒改善すれば、本当に良くなったと言えるのか。
この問いに答えるのがMIC、臨床的に意味のある最小変化量です。2025年1月、膝OA患者を対象に3つの代表的なバランステストのMIC値を算出した研究が出ました(Pirayeh et al., 2025)。これを軸に複数のエビデンスを統合し、明日からの臨床で数値で判断できるバランス評価の指針を示します。
まず押さえておきたい概念の違い
改善を判断するとき、2つの異なる基準があります。ここを混同すると、患者さんに誤った説明をしてしまいます。
MDCは測定誤差を超える最小の変化量です。これを超えていれば「変化があった」とは言えます。ただし、それが患者さんにとって意味のある改善かどうかは別の話です。
MICは患者や臨床家が意味があると感じる最小の変化量です。これを超えて初めて「臨床的に意味のある改善」と言い切れます。
MDCを超えたからといって喜ぶのは早い。MICまで届いているかどうか、そこまで見なければ判断を誤ります。
Pirayeh 2025が示したMIC値
2025年1月にPhysiotherapy Theory and Practice誌に掲載されたPirayehらの研究は、膝OA患者100名を対象に、Step Test、片脚立位、Functional Reach Testの3つについて信頼性・妥当性・反応性・MICを包括的に検証しました。
3テストともICC(級内相関係数)が0.75を超え、優れた再検査信頼性が確認されました。事前に設定した仮説の100%を満たし、妥当性と反応性も問題ありません。
核心のMIC値
⇆ 横にスワイプして各テストの数値を確認できます
Step Test動的バランス
MIC: 4.5歩
MDC: 2.71歩(MIC/MDC比 = 1.66)
解釈:3歩の改善では測定誤差を超えただけ。4.5歩以上で臨床的に意味ある改善。
Pirayeh et al., 2025
片脚立位静的バランス
MIC: 13.10秒
MDC: 7.15秒(MIC/MDC比 = 1.83)
解釈:8秒や10秒の改善では足りない。13秒を超えてようやく意味のある改善。
Pirayeh et al., 2025
Functional Reach Test動的安定性
MIC: 5.5cm
MDC: 4.90cm(MIC/MDC比 = 1.12)
解釈:MDCとMICが近いため、MDCを超えればほぼMICも超える。使いやすい。
Pirayeh et al., 2025
注目すべきは、MICがMDCの約1.1〜1.8倍あるという点です。測定誤差を超える変化があっても、臨床的に意味のある改善に達していないケースがあります。ここを見落とすと、患者さんへの説明が甘くなります。
●この先の内容
次のセクションでは、他の研究との比較やBBSを避けるべき理由、評価結果の具体的な解釈方法、MIC値を使った目標設定の実例を解説しています。記事の最後には、MIC/MDCクイックカード・改善判断フロー・目標設定シート・患者説明シートを含むExcelテンプレート(4シート入り)を無料でダウンロードできます。
他の研究と比較して見えてくること
TKA術後のバランス評価との比較
TKA術後の患者を対象にしたChanら(2020)の研究も参考になります。BESTest、Mini-BESTest、Brief-BESTest、Berg Balance Scaleの4つについてMCIDを検証しました。






