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医療・福祉の人手不足D.I.「+56」の裏側で雇用は縮小へ──AI導入率17%も「予定あり」は全産業トップ

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厚生労働省が3月30日に公表した「労働経済動向調査(令和8年2月)」で、医療・福祉分野の正社員等について、人手不足を感じている事業所の割合から過剰と感じている割合を差し引いた「過不足判断D.I.」が+56ポイントに達した一方、来期(2026年4〜6月期)の雇用見込D.I.は△3ポイントとマイナスに転じました。「足りないのに増やせない」──この矛盾の背景を、データから読み解きます。

人手不足D.I.は+56、全産業平均を7ポイント上回る

※D.I.(Diffusion Index)とは、ある項目について「増加」または「不足」と答えた事業所の割合から「減少」または「過剰」と答えた割合を引いた指標です。プラスが大きいほど不足感が強く、マイナスなら過剰感が強いことを意味します。本調査では「過不足判断D.I.」と「雇用判断D.I.」の2種類が使われており、前者は"いま足りているか"、後者は"人を増やしたか・減らしたか"を示します。

2026年2月1日時点の正社員等労働者過不足判断D.I.は、医療・福祉で+56ポイント。調査産業計の+49を大きく上回り、「運輸業,郵便業」(+63)、「情報通信業」(+62)、「学術研究,専門・技術サービス業」(+62)、「建設業」(+60)に次ぐ水準です。

パートタイム労働者でも+34ポイントと、「サービス業(他に分類されないもの)」(+49)、「宿泊業,飲食サービス業」(+41)に次ぐ高さを維持しています。前回11月調査と比較すると、正社員等は+58→+56でわずかに低下、パートタイムは+34→+34で横ばいでした。

来期の雇用見込D.I.はマイナス転換、正社員等△3・パートタイム△4

注目すべきは雇用判断D.I.の推移です。医療・福祉の正社員等雇用判断D.I.は、2026年1〜3月期の実績見込が+3ポイントだったのに対し、4〜6月期の見込は△3ポイントへ転落しました。パートタイムも同様に+1→△4と下落しています。

調査産業計では正社員等の見込が+6ポイントを維持しているなかで、医療・福祉だけが正社員等・パートタイムともにマイナス圏に沈んだ格好です。人手不足感が+56と高水準にありながら、雇用の増加見込みがマイナスに転じた――この乖離がなぜ生じているのか、本調査の範囲ではその要因までは明らかにされていませんが、数字が示す現実は重い意味を持ちます。

不足への対応、「中途採用」69%が最多――賃金改善は34%

労働者が不足している部門等に対応した事業所の割合は67%。対応内容(複数回答)では、「中途採用の開始・拡大・強化」が69%で最多、「臨時,パートタイム労働者の採用」50%、「業務の効率化の推進」42%と続きます。

「在職者の労働条件の改善(賃金)」は34%で、全産業計の25%を上回りました。医療・福祉における賃上げ対応の比率は、「宿泊業,飲食サービス業」(27%)、「運輸業,郵便業」(27%)を超え、人材確保に向けた処遇改善の動きが比較的広がっていることを示唆しています。

AI導入率は全産業最低の17%、だが「導入予定あり」は最高の13%

今回新たに調査項目に加わったAI導入状況は、リハ専門職にとっても見逃せないデータです。

医療・福祉で「AIを導入している」と答えた事業所は17%。全産業計の31%を大きく下回り、「運輸業,郵便業」と並んで最低水準でした。トップは「金融業,保険業」の64%、次いで「情報通信業」58%。業種の性質上、医療・福祉の導入率が低いこと自体は想像の範囲内と言えます。

一方で、「導入していない」事業所のうち「導入予定がある」と回答した割合は13%。これは全産業中で最も高い数値です。情報通信業の12%、不動産業の11%を上回っており、現時点では後発ながら、今後の導入意欲は全産業をリードしていることがわかります。

AI活用の狙い、医療・福祉では「労働時間短縮」51%が際立つ

AIを導入している事業所のうち「活用する狙いがある」とした割合は84%で、全産業計の94%よりやや低い水準でした。狙いの内容をみると、「作業負担の軽減や作業効率の改善」が95%で突出。「労働時間の短縮や休暇・休日の増加」は51%と全産業計の46%を上回り、全産業中でも「建設業」(58%)、「運輸業,郵便業」(53%)に次ぐ高さです。

「人手不足の解消」は32%で、全産業計の47%を下回りました。数値の傾向からは、AI導入の主な動機が「人の置き換え」よりも「既存スタッフの負担軽減や労働時間の適正化」に向いている様子がうかがえます。ただし、各事業所がどのような意図でこの選択肢を選んだかまでは、本調査では明らかにされていません。

効果の実感では、「AIを導入している」事業所のうち73%が「効果があった」と回答。ただし全産業計の78%には及ばず、「特に効果はなかった」16%は全産業計と同水準でした。

まとめ・今後の展望

今回の調査で明らかになったのは、医療・福祉が依然として深刻な人手不足の只中にありながら、雇用の拡大には踏み切れないという数字上の乖離です。AI導入率は全産業最低にとどまるものの、導入予定の割合が全産業トップであることは、今後の変化の兆しとして注視すべきデータでしょう。

本調査は厚生労働省が四半期ごとに実施しており、次回は2026年5月調査です。例年のスケジュールに準じれば、6月下旬頃の公表が見込まれます。

▶︎労働経済動向調査(令和8(2026)年2月)の概況

医療・福祉の人手不足D.I.「+56」の裏側で雇用は縮小へ──AI導入率17%も「予定あり」は全産業トップ

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