
1. はじめに
近年、健康志向の高まりや市民マラソンブームに伴い、スポーツ障害(ランニング障害)を抱えてリハビリテーションに訪れる患者様や、競技パフォーマンス向上を目指すアスリートを担当する機会が増加しています。
しかし、足底筋膜炎、シンスプリント、腸脛腓骨筋炎(ランナー膝)などの運動器障害に対し、セラピストは下肢の筋力強化やストレッチ、フォーム指導(動作分析)に集中しがちで、選手が着用している「ランニングシューズの構造的特性」まで踏み込んで評価できているケースは極めて稀です。
ウォーキングシューズが「長時間の動的安定性と平滑な重心移動」を目的とするのに対し、ランニングシューズは「着地衝撃の吸収」と「効率的な前方推進力の最大化」を運動力学的に追求したギアです。
本記事では、理学療法士・作業療法士が知っておくべきランニングシューズの選び方と、スポーツリハ・パフォーマンス向上へ繋げる具を解説します。
本記事で学べること
- ①近年の厚底シューズに対するパフォーマンスと障害リスクの関係
- ②ランニングシューズの正しい選び方のポイント
2. 近年の厚底ブームのパフォーマンスと障害リスク
2010年代前半に登場した厚底シューズ(30mm~40mm以上)は2018年の箱根駅伝や国際マラソンでのタイムの短縮が話題となり、現代の主流となっています。またスポーツ専門店でも多く扱っており、アスリートから市民ランナーまで幅広く着用されています。
では実際に厚底シューズがどのように身体に影響を及ぼしているか見ていきましょう。
まず効果としては「ランニングエコノミーの向上」が挙げられます。
- 高反発素材:エネルギー変換率の向上
- 衝撃吸収素材:膝関節や腰部のストレス軽減
- 樹脂プレートによる下腿三頭筋やアキレス腱への仕事量の軽減
主にこれらがランナーの負担を軽減し、タイムの向上につながっているようです。
一方でランニング障害が減るのかとうい問いに対しては、「特定の部位の負荷を減らすが、別の部位の負担が増えることで、全体的な障害発生率を下げているわけではない」とChanら(2021)の研究で述べられています。
これらのことから個々の身体機能を評価した上でランニングシューズを選択していくことが重要となります。
3. パフォーマンスを高めるランニングシューズ選びの「5つのチェックポイント」
① ミッドソールの素材特性と厚み
ミッドソールは、単に「衝撃を和らげるクッション」にとどまらず、「エネルギーの再利用(推進力)」「下肢運動鎖の制御」を担う、シューズにおいて最も生体力学的影響が大きい構造部材です。
ミッドソール素材は、多層構造によってその特性が決まります。
- 衝撃吸収素材
- 床反力のピークを低減させ、関節や骨への衝撃を緩和します。一方で、エネルギー損失が大きいため、推進力への変換率は低く、「沈み込み」による足部・膝関節の不安定化を招く場合があります。
- 高反発素材
- 主に下腿三頭筋が担っていた役割をシューズが補助します。ただし、反発スピードが速いため、着地時のアライメントが整っていない場合、予期せぬ方向へのブレを招くリスクがあります。この繰り返されるメカニカルストレスとなり、障害に繋がることもあります。
- 高反発✕ 樹脂プレートの「ハイブリッド・多層構造」
- 近年の高機能モデルやエントリーモデルでは、単一素材ではなく「2層以上の複合構造」や「樹脂プレート(カーボンやナイロン、グラスファイバー)の挟み込み」が主流です。
セラピストがシューズを評価・指導する際は、「厚底か薄底か」という二元論ではなく、「身体機能にあったシューズか」を見極めることが重要です。

② 強固なヒールカウンターによる過回内制動
ランニングの着地初期において、足部は適度な回内運動によって衝撃を吸収します。しかし、過度な回内(過回内)は下肢内旋を誘発し、ランナー膝やシンスプリントの原因となります。
- Bartonら(2009)の系統的レビューでは、剛性の高いヒールカウンターや後足部コントロール構造を持つシューズが、足底筋膜炎や過回内由来のスポーツ障害における関節過負荷を減小させることが示されています。
このことからも、下記右側の画像のようにヒールカウンターがしっかりと硬いものを選択することは重要です。市販のランニングシューズでもヒールカウンターが弱いものも存在しますので注意しましょう。

③ シャンク構造(捻れ抑制)
ランニング立脚中期において、シューズの中足部が過度に捻れると内側縦アーチが潰れ、後脛骨筋腱への牽引ストレスが著しく増大します。そのためカーボン素材を用いたシャンク構造が入っているシューズを選択することで、中足部の剛性を保ち、エネルギーロスなく床反力を前足部へ伝達できます。
中足部の剛性が低い靴を選択すると足底腱膜への負担も増大する可能性があります。
④ 捨て寸(0.7~0.5cm)と前足部MP関節の屈曲整合性
ウォーキング以上にランニングでは、着地時に足部アーチが押し潰されて足長がわずかに伸長します。また前方への足部のズレも靴の中で生じやすいため、下記のポイントを抑えることは障害予防のために重要です。
- 中敷の上に立たせた際、つま先に0.7〜0.5cmの捨て寸があるか確認をしてください。できるだけ捨て寸は少ない方が靴の中での足部のズレが生じずらくロスが減ります。
- シューズの屈曲位置が第1MP関節の回旋軸と一致しているかを必ず確認します。ウィンドラス機構が適切に働くために重要となります。

⑤ オーバーラップとシューレーシング
Hagenら(2012)の研究によると、ランニングシューズの紐の締結強度が足底圧分布および下肢筋活動に直接的な影響を与えることが実証されています。
- 紐を「外から内」へ通すオーバーラップを採用し、シューズと足部の一体感が高まり、走行時の足内すべりが防止されます。

- さらにシューレーシングをすることで甲部分から踵へのフィット感も増して、より安定した後足部を作り出すことができます。


4. 理学療法士・作業療法士が介入するスポーツリハ&パフォーマンス向上アプローチ
スポーツ現場や臨床において、単に「良いシューズ」を薦めるだけでは十分ではありません。患者様の身体機能とシューズの特性を同期させるアプローチが求められます。
【スポーツリハにおけるシューズアプローチ】
① 身体機能評価 と靴評価
可動域・筋力等の評価に加え、足部実寸計測・シューズ剛性・フィッティング確認
②フィッティング & 正しい履き方指導
新たな靴の提案や現状の靴での対応
③ 中敷微調整(インソール介入)
バランスや動作のチェックを繰り返し評価
④足部から動的安定性の獲得(パフォーマンス向上)
足部からのエラーを修正した状態での基礎訓練や競技練習
5. まとめ
ランニング障害の治療やアスリートのパフォーマンス向上において、「筋肉を鍛える」「フォームを直す」ことと同じくらい、「足元と地面を繋ぐランニングシューズの環境を整える」ことは決定的に重要です。
- 1.ランニングシューズ特有の衝撃吸収・反発・剛性構造を評価する
- 2.適切な捨て寸(0.7~0.5cm)と確実なフィッティングを指導する
- 3.身体機能アプローチとシューズの知識、フィッティングを融合させる
セラピストが「シューズを見る目」を養うことで、痛みの再発を防ぎ、スポーツ選手の最高のパフォーマンスを引き出すことができます。
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参考文献
- 1.Paterson, K. L., Kasza, J., Hunter, D. J., Hinman, R. S., et al. (2018). Effect of Stable Supportive Shoes vs Flat Flexible Shoes on Knee Pain in People With Knee Osteoarthritis: A Randomized Clinical Trial. JAMA, 319(19), 1997-2008.
- 2.Barton, C. J., Bonanno, D., & Menz, H. B. (2009). The efficacy of foot orthoses and supportive footwear in the treatment of lower limb musculoskeletal conditions: a systematic review. Sports Medicine, 39(11), 943-958.
- 3.Hagen, M., Hennig, E. M., & Stieg, C. (2012). Lower leg muscle activity and foot motion in lacing-tightness-dependent running. Gait & Posture, 35(4), 532-536.
- 4.Kirby, K. A. (2000). Biomechanical Foot Therapy with In-Shoe Orthoses. Clinics in Podiatric Medicine and Surgery, 17(3), 445-460.
- 5.McPoil, T. G., & Vicenzino, B. (2005). Foot orthoses in physical therapy management: a structured paradigm. Physical Therapy in Sport, 6(3), 132-144.
- 6.Chan ZYS, Zhang JH, Wan X, et al. Effects of Highly Cushioned Shoes on Ground Reaction Forces and Lower Limb Biomechanics in Runners: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2021;51(7):1443-1466.






