【連載:認知症ケア第7回】食事場面で起きていることと同じことが他の場面でも起こっている

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観察・評価することが重要

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前の記事では、私たちが知識をもとにした観察・評価を適切に行えるようになることで認知症のある方の食べ方を改善することができると書きました。


不安に違いないから優しく接する、ゆっくりと介助する…そんな抽象的なことをいくら心がけても目の前にいる方の食べ方を改善することはできません。


食べ方そのものに、認知症のある方の能力も障害も現れているので、それを具体的に観察・評価することが重要なのです。 これとまったく同じことが食事以外の他の場面でも起こっています。


移乗時の呼びかけ方

たとえば、車いすからイスへの移乗を促す時に「これからここの右側の肘掛けをあなたの右手でつかんで、それからゆっくりと腰をもちあげて両膝を伸ばして、身体の向きをゆっくりまわして膝をゆっくりと曲げてから腰を下ろしてください」と懇切丁寧に言葉で説明されてもびくとも動かなかった方がいます。


こんな時に繰り返し言葉で説明しても、笑顔で声をかけても、ゆっくりと優しく接しても座っていただけません。


そうすると私たちは「優しさが足りなかったのだろうか」と自分を責めるか、もしくは「どうしようもないくらい認知症が進行してしまった」と相手を否定するか、どちらかの判断を下してしまいがちでそのような判断は認知症のある方にとっても対人援助職の私たちにとっても建設的な在りようではないと考えています。


言葉だけでなく、ジェスチャーを

言語理解力が低下している場合には、長々と言葉だけで説明するとかえって逆効果になってしまいます。何か言われているということはわかるけれど何を言われているかわからない。だから動けない。


こんな時には、認知症のある方に残っている視覚的認知を利用して、ジェスチャーを活用します。


「〇〇さん」といってからイスの座面をポンポンと叩いて「どうぞ」と言ってから座面を手で指し示します。


そうするとスッと立ち上がってイスに座り変えていただけたりします。


相手の不安な気持ちを想像する、優しく穏やかに接する…というのは、実は認知症のある方に限らず、対人援助職の基本的姿勢です。


対人援助職の基本

この基本的姿勢だけでは、脳血管障害後遺症のある方の運動麻痺を改善することはできないし、ADLを改善することもできません。


私たちが運動麻痺やADLを改善しようとする時にしていることと全く同じことを認知症のある方への対応でも行えばいいだけなんです。


そのような暮らしの困難全般に対して考える時に、実は一番良いトレーニングの場になるのが食事場面です。


知識さえあれば、目の前にいる方が食べやすそうなのか、食べにくそうなのかの判断ができます。


今、何が起こっているのかを観察・評価しながら自分の方法論が適切だったのか否かを繰り返し確認しながら対応する…この基本的なセラピストとしての実践の態度を涵養し技術を高めていくのに適した場面です。


食事介助を単なる食事介助としてだけでなくて、メタ認識の視点で考えると、自分自身のセラピストの成長としての場面にもつながっていく貴重な機会でもあります。


もっと詳しく知りたい方は、(株)geneさんのセミナーにご参加ください。


8月7日(日)10:00~16:00 「認知症のある方への食べることへの対応」


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佐藤良枝先生経歴

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1986年 作業療法士免許取得
肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職

2006年 バリデーションワーカー資格取得


2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載

認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数

一般社団法人神奈川県作業療法士会公式ウェブサイト「月刊よっしーワールド」連載中

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