挨拶も貴重なスクリーニングに
収集した事前情報を念頭に置いて初対面の挨拶をします。
この初対面の挨拶をただの挨拶で終えることもできるし、貴重なスクリーニングの機会としても活用できるのです。
私の場合は、まず、自分から名乗ります。そして、認知症のある方のお名前を尋ねます。
「お名前を教えていただけますか?」
そこで名字だけ教えてもらったとしたら
「下のお名前も教えていただけますか?」と尋ねます。
最初からフルネームを教えてもらったとしたら
「下のお名前はどういう漢字で書くんですか?」と尋ねます。
そのことによって、まず最初に言語的な理解力や表現力をスクリーニングします。
人によってはいきなり「あら、あなた可愛いわねぇ」と言い出す方も実際にいらっしゃいます。
このような方に、この先も通常の言語でのコミュニケーション主体にリハの説明をしたり、希望や困りごとを尋ねても的確な答えがかえってくることは難しいものです。
こういう場合には、まず最初にどんな風なところに気をつけた言葉と言葉以外の工夫をしたら、理解しやすいのか、まずそこから評価をすべきという判断をすることが可能となります。
臨床で案外多いのが、コミュニケーション能力を確認できる場面にたくさん遭遇していながら、見落としていて「従命不可」「指示理解困難」などとカルテに記載するという。。。いやいや、それではそうなって当然です。
けれど、そもそも私たちは何のために評価するのでしょうか?診断のためでも評論のためでもなく、対象者の治療を的確に行うための評価なのです。
だからこそ、通常の言語では理解が難しい。だからダメではなくて、どうしたら理解しやすくなるのか。と考えることが大切です。
答えられない時にどのような行動をするのか
臨床で圧倒的に多いアルツハイマー型認知症のある方であれば、多くの場合には明確で端的な言語:単語を中心にして、ジェスチャーを多用することで対応可能になることも多々あるのです。
まず相手に下のお名前の漢字を尋ねます。その次に、病院や施設入所の直接のきっかけとなった出来事について尋ねます。
事前情報と照合しながら、その答えと答え方に着目して話を聴きます。明確に答えられたとしたら、近時記憶は保たれている可能性が高いです。
明確に答えられなかったとしたら、近時記憶が保たれていない可能性が高いです。
難しければ出身地を尋ねても良いでしょう。
「どちらのご出身ですか?」「それは何県のどのあたりなんですか?」「名産や有名な観光地は?」などと尋ねてその答え方を確認します。
そして、この時にただ単に答えられないだけではなくて、とんでもない答えをひねり出す。。。いわゆる、取り繕いをする方もいらっしゃいますので、答え方にも着目します。
答えられない時にどのような行動をするのかということを見ておくことは大切です。
なぜなら、答えられない時に黙ってうつむいて下をむいてしまうような方は、生活場面で困った時にも自分から他者に助けを求めることが難しい場合が多いからです。
また、取り繕いをするような方は現実の生活場面でも困った時には自分で何とかしようとして思いつく行動をした結果、かえって状況を悪くしてしまうような場合が多いからです。
それを踏まえておくと、生活場面もしくはリハの場面での対処に配慮をすることが可能となります。
前者であれば、こちらから「どうしましたか?」「何かお困りですか?」と尋ねます。
後者であれば、悪い状況に対して「どうしてこんなことをしたんですか?」と尋ねるのではなくて「本当は何をしたかったんですか?」「何に困っていたんですか?」と尋ねることもできますし、望ましいのは事前に察知して「お手伝いしましょうか」と先に援助を申し出ることが可能となるのです。
また、取り繕いをするような方には、言語で尋ねたことに対して常に本心を語れるわけではないということを念頭に置いて接することがポイントとなります。
ウソをついているわけではない
希望や困りごとを尋ねる場合には、場面や日を置いて再度確認することも必要となります。そうでないと、尋ねるたびに答えが違ってくるということもあり得るからです。
認知症のある方は決してウソをついているわけではなくて、その時その場で思いついたことを言う場合もあるからです。
事前情報を入手して頭の中に入れた状態で、初対面の挨拶をすることによって次の評価と対応へ結びつけるスクリーニングの機会として活用することができます。
できない情報をどんなに詳しく集めてもできるようにはなりません。
認知症のある方の能力を活用するために、どう説明したら理解しやすくなるのか、言語だけに頼らずに非言語としてのジェスチャーも含めて工夫することができるようになるために、まず最初にコミュニケーション能力を評価すべきなのだと考えています。
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