第1章:大学は国内に一つだけ!? ネパールのリハビリ事情

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photo:配属先の外来病棟(地上6階、地下2階)

 

■ 今ネパールには500人以上の理学療法士がネパールの理学療法士協会(NEPTA:後述参照)に登録しています。

 

しかし、これは登録システムがうまくまわってないこともあり、実際の人数は不確定です。なぜならば、首都で最初に仮登録のような登録をした一年後、再度首都で本登録をしないといけないシステムになっているためです。

 

そのため、仮登録で終わってしまっている人と、本登録した人が500人程度おり、合わせると実際は1000人近くになると言われています。 この1000人の方々はほとんどがインドの大学を卒業しています。

 

インドの大学を卒業した後ネパールで働くには、6ヶ月間ネパールの臨床でインターンをする必要があります。

 

そのインターン先は現在唯一養成校があり、かつ大学付属病院としての役目もある、私の配属先の病院(半官半民)がそれに当たります。インドは、もちろんネパールでも理学療法士は国家資格ではありません。つまり、日本と違い大学を卒業したら理学療法士と名乗ることができます。

 

■ では実際働いている人数となると200人くらいじゃないかとも言われているそうですが、この数字も確実なものではありません。

 

現場で活躍されている先輩方の話を聞いてもその通りで、実際少ないように感じているそうです。

 

ネパール政府がまだリハビリテーションの必要性をまだ十分に認識してないといってもよい状態であることも関係しています。

 

なお現在現場で働いているスタッフの中には、これまでの働いてきた経験で理学療法士として名乗っている方も含まれています。

 

photo:配属先の外来棟の理学療法科

 

■ 働いている場所に関しては、首都部に病院が集まっていることもあり、首都から外へ出ると、公立病院にはほぼ理学療法士はいません。私立病院であっても限られたところのみにいると言われています。

 

また自身でクリニックを開けるため、クリニックで働いている方もいます。 リハ施設自体も少なく、訪問リハもほとんど行なっていないため、働く場所がないと言っても過言ではないのが現状です。

 

■ ちなみに、作業療法士、言語聴覚士も同様に国家資格ではありません。またネパールには養成校もないため、現在それらの職種で働いている方々は海外の大学を卒業し、再び戻って来て働いているということになります。

 

現在作業療法士がいる病院はネパールでは4病院のみで、ネパール人の作業療法士はと言うと数人のみで、欧米人の方やネパールの理学療法士の方が作業療法士として働いている場所もあります。

 

リハビリテーション業務の実際

■ では、病院で働いているリハスタッフはどのように業務を行っているのかと言うと、私の配属先については医者の指示があってからリハを行うことになっています。

 

しかし、場所によっては理学療法士自身が診察も兼ねて行っている所もあるそうです。配属先においても医者からの指示があったからといって、具体的な内容については触れられておらず、結局自分達で判断し、考えながら診療を進めていかなければなりません。

 

スタッフ数と患者の来院数が合わず、知識として知ってはいるがマンパワーとして働かざる負えず、結局は身体面中心に見ることしかない出来ない状態が多く見られています。言うならば障害ではなく病気だけを見ているように感じます。

 

また配属先の病院に関しては来院した患者のすべてにホームエクササイズも教えていますが、患者様や家族にその方法を伝えるのみで、家族が行う介助方法、関わり方、生活指導は行なっていない印象を受けます。

 

患者様の中には数日の入院のみで退院する人も多く、その後も外来や他院でフォローするよう促していますが継続して来ることが出来ず、寝たきりとなってしまったり、中には骨折後何カ月も免荷し続けたままだった人もいたそうです。

 

外来に来られない理由としては継続して通おうにも病院までが遠い、手助けが必要だが助けを得られず行けない、お金がないなど理由は様々です。配属先の病院においては、遠方の訪問者専用のホテルもあり、そこを利用することも可能です。

 

■ また、ネパールでは医療用語は英語がそのまま充てられていることがほとんどです。

 

ネパール人は英語が話せる方が多いのも実情ですが、村などの孤立している集落においてはその民族独自の言葉もあり、公用語であるはずのネパール語も通じない場合もあります。

 

英語が理解しづらい方にはネパール語や絵で説明する場合も見受けられますが、カルテはすべて英語で書かれ、それが家族にも渡されています。

 

病院が近くにない村なども多くあります。病院によっては提携している施設がある場合もありますが、そうではない場合は病院やNGOがモバイルキャンプ(ヘルスキャンプ)に行く場所もあります。

 

そこには依頼があって行くのではなく、自分達で予め情報を収集して行くそうです。その際、福祉用具(車椅子・ラバーシーツなど)、薬も一緒に持って行きます。

 

学費は年間90~100万円以上

■ 現在ネパールには理学療法士の養成校は大学1校のみです。4年制のBachelorコースで定員は1学年30人。現在設立7年目で、つまりこれまでに卒業生を3期輩出しています。

 

授業はすべて英語で、学費は年間90~100万円以上かかるそうです。

 

私の個人的なイメージですが、ネパールにはカースト制度があることもあり、学生にはカーストが上位の人、お金があり教育を受けられる、教育を受けていた方が多い印象を受けます。

 

■ 私の配属先は、この養成校の大学付属病院のような役割も果たしているため臨床実習も多く実施されています。

 

配属先の病院に在職しているスタッフはインドまたはネパールで資格を取得した方々です。

 

養成校で教鞭を執っているスタッフは臨床と教育を兼ねていて、皆さんMasterまで取得されています。ネパールで資格を得た方は主に臨床の現場を中心に働いています。

 

約30年前に作業療法士として活動していた先輩隊員に話を聞くと、これとは別の大学の医学部にアシスタント理学療法士のコースがあり、そこで2期生、3期生の臨床実習のバイザーもされていたそうです。

 

その当時はカナダのドゥリーファンデーションがPTを教師として派遣されていました。

 

■ 現在この大学にアシスタント理学療法士コースが存在しているのかは分からないのですが、ネパールには現在もアシスタント理学療法士コースがあり、数カ月学校に通った後に実際の現場でトレーニングを受けながら働いていくそうです。

 

また、私の配属先は大学付属病院ということもあるのか海外との提携大学も多く、海外からのインターン生(理学療法士以外にも医師・看護師など)もかなりの数を受け入れています。

 

ネパールにおける理学療法士の知名度

■ ここからは少し話は変わり、先の話にも出てきたネパールにあるリハ協会について話をしたいと思います。

 

ネパールには現在、ネパール理学療法協会NEPTA(Nepal physiotherapy Association)やネパール作業療法士協会ANOT(Association of Nepal’s Occupational Therapists)があります。

 

ともにホームページやFacebookがあり、そこでも活動を紹介されてあるのでぜひご参照ください。NEPTAにおいては、海外から講師を読んで手技のセミナーをひらいたり、定期的に学会を開くなど活発的に活動しています。

 

最近では、首都では健康思考が広まりつつあり、理学療法士の知名度はけっこう上がってる印象を受け、ニーズもあるように感じられています。

 

ネパールの住環境について

■ ネパールは都市部と農村部の住環境、立地はかなり異なります。2015.4に大地震があった際に多くの住宅が半壊・全壊しました。

 

住宅再建は進んでいるものの2017.1現在も、都市部の中心部であっても壊れたままの住宅が放置されていたり、農村部ではいまだにトタンで作った仮設住宅に住み続けている人がたくさん見受けられます。

 

■ 都市部の道路事情は比較的整備されていますが、上り下りの坂道が多かったり、整備されていると言ってもでこぼこな部分も多くあります。自動車・バイク・バスもかなり多く走っており、排気ガス、土埃が舞うため、マスクが必須です。

 

住環境において市街地は密集して建設されているためか、4階立て、5階立ての家も多く見られます。壁はレンガ、柱はコンクリートの家がほとんどです。

 

また、都市部では物が手に入りやすい、富裕層が多いこともあり、椅子やテーブルを使った生活で、台所や水場(シンク、トイレ・バスルーム)も屋内に設置されている家が多いです。

 

 

■ 農村部においては、道路事情は道が舗装されていない場所が多くあります。車も通れないような、人がすれ違えないほどの狭い道や、まるでトレッキングに行くかのような急な斜面やがけを通る(上る)、場所によっては車が通れる橋が無く川を渡って行かなければならない集落もあります。

 

経済面の要因とも相まって、今もなお地震の影響を受けても再建できないまま、トタンの仮設住宅に住んでいる人が多く見られます。平屋で木の柱に屋根と壁をトタンであつらえた簡単なもので、隙間風も多く入るうえに夏は暑く、冬は寒く感じられます。

 

台所においてはガスコンロを使っている家もありますが、かまど(焚き火)を併用している家も多く、その際は床に穴を掘ったり、土を盛ったりしかまどを作り、調理時には家の中に煙が充満することもあります。

 

テーブルや椅子も無く床に座って食事を作る、ご飯を食べるなど、床に座っての生活が多いです。またトイレや水場は外に設置してあることもあります。

 

都市部のような洋式トイレは無く、和式トイレで自身で水を流すか、穴を掘った上に板を当てて排泄後は葉っぱをかける、トイレがあってもそこを使わずそのまま外で用を足す人も中にはいるそうです。

 

また都市部にあるようなソーラーでお湯を沸かす装置は無く、水やお湯を作って入浴(清拭)します。家に水場が無い場合は共同の水場まで行き、そこから水を汲んで来たり、そこで洗濯、入浴したりします。

 

■ 以前訪問させていただいたお宅は、いろいろな理由があるのだろうと思われますが、家畜の隣にベッドを置き、生活されている方もいらっしゃいました。

 

また、お金や土地がなく家を再建出来ない方が多くいる一方で、身内が無くなって1年間は家を建て直すことが出来ないという宗教上の理由もあるのだということも分かりました。

 

ネパールの福祉用具について

■ 私の配属先の病院は、海外からのドネーションを多く受け入れていることもあり、病院にある車椅子や装具はドネーションがほとんどです。そのためネパール人のサイズや生活に合わないものがほとんどで、倉庫にしまわれた状態になって上手く活用出来ていない状態です。

 

現在病院内で使用している車椅子もフットサポートがない、ブレーキが利かないなど、部品が無いこともあり修理が出来ないため壊れたまま使用していることが多い状態です。

 

■ しかし、現在ネパール産の車椅子を作ろうという試みも始まっています。日本のNGOや先輩隊員も仲介に入り車椅子作りのワークショップを開催されていました。

 

現在ネパール国産の車いすの生産コストは、35,000~40,000Rs(1Rs≒1円)で、使用される方には無料でお渡ししています。現在支援に携わっている先輩隊員に話を伺うと、ネパールの家屋は間口や部屋自身が狭く、段差もある。

 

屋外は道路環境が悪いという、屋内と屋外の使用環境があまりにも違うため、屋内と屋外で使用する車椅子を別と考え、寝たきりにならないような屋内で使用できる車椅子に力を入れて支援されているそうです。

 

■ 下肢装具においては、もしオーダーメイドで作るとなると、首都に行き作るしかないようです。しかし、段差やおうとつ、坂道が多い道路事情であるため、実際装具を使用しても歩きづらいのではないかという印象があります。

 

■ また町ではよく杖を持った人を見かけます。見かける杖は松葉杖が多く、病院で処方されたものを使っている人もいれば、家族や知人から譲り受けた人、中には壊れたまま使い続けている方もいます。

 

杖を買わず木の棒を使っている方もいらっしゃいました。私の配属先では患者様に応じてピックアップ歩行器を処方することもあります。

三輪晃子先生 プロフィール

専門学校卒業後、総合病院で3年、介護老人保健施設で4年半勤務後、青年海外協力隊として現在ネパールに派遣中。

第1章:大学は国内に一つだけ!? ネパールのリハビリ事情

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