大久保敦子先生−ライフサイエンスの研究を行なう理学療法士(PT)−

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これまでの歩み

POSTインタビュアー今井:先生の経歴をお聞かせください。

大久保先生:理学療法士免許を取って13年経ちましたが、大学の卒業研究から基礎研究に携わっていて、動物実験や細胞培養などを行っていました。常勤で理学療法士として働いていたこともありますが、基本的には大学院で研究活動をしていました。東京に出て来たのも、某研究所で研究員をするためという背景があったからですが、その一方で少しずつ非常勤講師などを通して教育にも携わるようになりました。なので、一般的な臨床現場で働くという期間は短かったです。

インタビュアー今井:先生のキャリアを学生に話したことはありますか?

大久保先生:はい。自分の担当科目も少々特殊で、理学療法士養成校のカリキュラムに必須ではない「ライフサイエンス」という科目を担当しているのですが、生命科学、生命医学分野の最近のトピックに関し、自分の経験なども交えて話をしています。

また「理学療法研究方法論」という科目を担当しており、どうして研究活動というものが大事で、テーマからどうストーリーをつなげて行けば良いのか、どういったデザインを立てて取り組んで行けば良いのか、様々な研究が何の役に立つのかということを伝えようとしています。ここでも、自分の経験が役立っているなと感じます。

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学生、新人セラピストの不安に対して

POSTインタビュアー今井:将来に漠然とした不安を持った学生や新人に対して、率直なご意見としてどのように思われますか?

大久保先生:例えば、求人数や将来性のことは大学のオープンキャンパスでも質問が集中するところです。受験生達だけでなく、ご両親たちも不安に思っておられるように思いますね。その際は、‘求人数自体は来ています。選ばなければ職場はたくさんありますし、求められている職種だと思いますよ’ということをお伝えします。ただ、学生が卒業時に就職を希望するような「人気のある職場」というのは、やはり競争のような形になってきています、とお伝えしています。

インタビュアー今井:学生、親御さんからの相談は就職先だけのことでしょうか?就職後の心配はあまりないですか?

大久保先生:あまりない印象を受けます。オープンキャンパスの模擬授業の中では、理学療法士を取り巻く現状についてもお話しますが、併せて必ず仕事の魅力ややりがいをお伝えしています。そうすると比較的不安なくお帰りいただけることが多いですね。

POSTインタビュアー今井:卒業生から将来に対する不安などの相談を受けたことがありますか?

大久保先生:転職や、今後のスキルアップのためには具体的にどうしたらいいのかという相談、また、新人教育が終わったその後の勉強の場をどうしたらいいのか、学会・研究と現場とのギャップについて、等の相談を時々受けますね。

インタビュアー今井:給料など待遇面の不満等はないですか?

大久保先生:相談に来る卒業生に関して言えば、働き始めて数年間は、がむしゃらに自分のスキルアップなどを考えている時期だからか、待遇面で悩んでいるということは意外と聞かないですね。

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研究は面白い

POSTインタビュアー今井:研究に対して、学生さんはどういうイメージをもっていますか?

大久保先生:私は「研究って面白いんだ」ということを伝えたいんです。例えば、理学療法士が携わる研究は臨床の疑問に即したものが多いと思いますが、基礎分野に携わっていた人間からすると、臨床の疑問と基礎研究との間にはまだまだ大きな隔たりがあって、その間を埋めて行ける研究、つないで行ける研究ってとても面白い。日常の色んなことにもっと疑問を持って良いはずなのに疑問を持ってないよねとか、何で各専門分野の間をつないで行く必要があるのかとか、そういう探求につながるものの見方などを伝えて行きたく思います。卒業研究等を通して、それなりに伝わっているなという実感を得ることも多く、嬉しく思っています。

インタビュアー今井:私自身も過去ではそうでしたが、「なんで研究するのか?」という疑問を受けたことはありますか?

大久保先生:ありますね。例えば、マウスを使った研究を発表した時に、聞いていた方が最終的に「で、それは人間だとどうなりますか?」という質問をされることがあるんですね。伝えたかった本質はそこではないんだけどな、基礎研究の意義を理解してもらえるにはまだ隔たりがあるなと悔しくなる瞬間です。

何かのメカニズムの一環を明らかにしたくて研究している人もいれば、それを応用的に使いたいという人もいて、各々のニーズが今の学会では、結びつけきれずばらついている気がします。

別の例では、東洋医学分野の、例えば柔道整復師の方が知っている知識や研究内容と、私たちが持っているそれとの間にだって隔たりが多くあると思います。例えば私は‘ツボ’って何なのかってことを知らないし、西洋医学の言葉で定義づけするとなるとどうなるか知りたかったりしますが、多分そういう研究ってあまりやる人がいないのではないかなと…。東洋医学と西洋医学の隔たりだって、突き詰めればきっと面白いはずなのにとよく思います。

POSTインタビュアー今井:生命科学の分野だと、他の科学者の方の出身はどういった方が多いのでしょうか?PTで研究やっている人はあまり聞いたことがないので。

大久保先生:医学、薬学のほか、理学系、工学系でしょうか。PTでもいらっしゃるんですけど、養成校の環境面で基礎研究を行える環境というのが限られているため、ある程度、国公立大学のようなところで携わっていた方に限られると思います。

インタビュアー今井:PTの専門性が生かせる研究ってどういったものがありますか?

大久保先生:例えばですが、私たちは物理療法機器を扱いますが、エネルギーの原理や生理的な機序まできちんと理解して使っている人は少ないかもしれないと思います。物理的エネルギーに体細胞が反応するとはどういうことなのか。どこまでのメカニズムがわかっているのか。どのくらいの強度で、どのくらいの期間それを与えたら、何がどれだけ回復するのか。そういうことでさえ、おそらくぼんやりした理解にとどまっていますよね。そのエビデンスを突き詰めていくことだけでも面白いと思いますよ。治療機器としてこれまで伝統的に使われているものを、今後もただ疑問持たずに使っていくのか?と感じたりします。使う立場のPTこそ疑問を持つべきだし、物療機器のメーカーの研究分野にも参戦して行けるのではないかなと。

−続く。

大久保 敦子先生経歴

帝京平成大学 健康メディカル学部 理学療法学科 講師 最終学歴:広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 主な研究項目:理学療法学,分子生物学 主な研究業績: ・動画で学ぶ関節可動域測定法「ROMナビ」増補改訂第2版 /有限会社ラウンドフラット/共著/2013.06 ・物理的環境下における筋芽細胞の分化応答 /バイオメカニズム学会誌 Vol.27,No.2,p72-75/共著/2003.05 ・Physical stress by magnetic force accelerates differentiation of human osteoblasts(査読付) /Biochem Biophys Res Commun Vol.311,p32-38/共著/2003.08 ・Clinorotation prevents differentiation of rat myoblastic L6 cells in association with reduced NF-kappa B signaling.(査読付) /Biochem Biophys Acta Vol.1743,p130-140/共著/2005.03 ・Expression of MicroRNA-146 in Rheumatoid Arthritis Synovial Tissue(査読付) /Arthritis&Rheumatism Vol.58、p1284-1292/共著/2008.05
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