整形外科領域で意外と多い急性肺血栓塞栓症

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整形外科診療所の通院患者が、ギプス固定が原因とみられる肺塞栓症で死亡したという事例が発生した。

 

本事例は関連ガイドラインの公表4カ月前に起きた事例で、裁判所は当時の医療水準では医師に予防措置を取るべき義務はなかったとの判断に至った。

 

我々リハビリテーションを提供する我々理学療法士にとっても対応する可能性はある事例であるため紹介したいと思う。

 

 肥満体形であった女性患者。整形外科診療所で右アキレス腱断裂と診断され、ギプス固定による保存的治療。同月、医師は患者の右膝上まであったギプスを切割除去し、膝から足指まで再度ギプス固定。

 

 ギプス交換後、患者は冷や汗、脈微弱、頻呼吸の症状を呈し、血圧が70~80mmHgまで低下。その後患者は過換気となり、医師は過呼吸症候群を疑う。ペーパーバッグ法としてビニール袋をかぶせ、2~3分様子を見たが患者の症状は改善せず。

 

 同日、患者の症状は一旦改善したものの胸部の重苦しさが出現し、その後強い腹部痛も訴える。医師が診察、帝王切開による手術痕を確認。

 

その後血圧が70mmHg程度となり、腹痛は悪化。医師は急性腹症を疑い、救急病院への搬送を手配。救急車が到着したが、患者は意識を失い心停止となった。

詳細を読む(参照):http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/dispute/201709/551460.html

 

そもそも急性肺血栓塞栓症とはどのような病態であるかご存知だろうか。下肢や骨盤などの深部静脈に生じた血栓が肺動脈を閉塞し、急性の肺循環障害を生じさせる病態で、「特異的な早期症状がなく突然発症し、死に至る」経過をたどる確率が高いと言われている。一般的に飛行機など一定の姿勢で長時間座っていることで生じる「エコノミークラス症候群」がまさにそれである。

 

現在、深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)では、整形外科領域の手術で言えば人工股関節・人工膝関節置換術など一般的な手術においてもリスクレベルとしては2番目に高い「高リスク」群としている。

そうした場合、手術をしている入院患者のほとんどが高リスク群であるということを我々は自覚しなければならない。

またこの病態の恐ろしいところは、初期症状が胸痛や頻呼吸など一般的なものであることや、発症から死亡までの進行が急速であるために予防や早期診断が困難で、結果的に予期せぬ死亡につながっていると言われている。

 

では、今回の事例はどうだったのだろう。

 

まず初めの症状としては「冷や汗、脈微弱、頻呼吸の症状を呈し、血圧が70~80mmHgまで低下した。」とありその30分後に胸痛や腹痛も出現している。

少なくとも、徐脈になり頻呼吸になり血圧の低下と体循環に何らかの異常をきたし、呼吸性の代償も出ていることを考えれば、この時同時にパルスオキシメーター等で血中酸素飽和度を測ることをお勧めする。

 

今回の早期診断が難しかった原因としては、出現している症状が一般的なもので肺塞栓症に限ったものではないこと、また腹痛など肺塞栓症では起こりづらい症状も併発していたことではないだろうか。

 

我々理学療法士に診断の権限はないが患者の症状を捉えることはできる。肺塞栓症は急激に発症するが、前駆症状が全くないわけではない。臨床上確認できるだけでも下腿の浮腫み(左右差)、易疲労性、チアノーゼ等しっかり観察していればわかることは意外と多いのである。

 

今回のような事例は、我々がリハビリテーションを提供している時にも起こりうる。そのような場面に出くわした時適切な対処ができるかどうかは、肺塞栓症に対する正しい知識を持ち普段から患者のことをよく観察していることが必要だと思う。

整形外科領域で意外と多い急性肺血栓塞栓症

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