第一回:PT・OTとの出会い【首都大学東京人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室 教授|樋口 貴広先生】

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心理学が専門

 

― 先生が知覚に興味を持たれた理由は?

 

樋口先生 大学では心理学を専攻しました。感情と運動の関係が知りたくて心理学を志したこともあり,知覚にはそれほど関心がありませんでした。中学,高校と陸上部(短距離)に所属していましたが,練習で絶好調だったのに,試合で全く実力を発揮できないことを何度も経験しました。心理学を勉強してその原因を知りたいと考えました。

 

― 感情と運動に関して、どのようなことを研究されたのですか?

 

樋口先生 失敗に対してペナルティを与える設定によりプレッシャーをかけて,運動に及ぼす影響を検討しました。ディスプレイ上でのボールのバッティングゲームを自作し,的当てをしてもらいました。実験の結果,プレッシャーがかかると動作の一貫性が増すことがわかりました。できるだけ同じ打ち方をして的に当てようとする振る舞いと見てとれます。私たちの領域では、「自由度を拘束する現象」とも言います。

Higuchi T,et al:Freezing degrees of freedom under stress: kinematic evidence of constrained movement strategies. Hum Mov Sci. 2002 Dec;21(5-6):831-46. [PMID:12620722]

 

 

大学入学当初から,感情と運動の関係を知りたいと強く思っていましたので,自分なりに真剣に研究してきました。ただその結果として,プレッシャーをかけることの実験的な難しさがあることもわかり、徐々に知覚の話題に興味がシフトしていきました。

 

母校である東北大学大学院文学研究科心理学研究室は,伝統的に視覚研究が強かったので,そうしたことも影響していると思います。

 

 

― 研究テーマを「知覚」に移し、どのような研究をされてきたのですか?

 

樋口先生 博士課程修了後、最初の勤務先である横浜国立大学では「車椅子を使った人間工学的研究を自由に行ってよい」ということで、車椅子利用時の車両感覚を計測してみることにしました。歩行を対象とした有名な研究の,車椅子版をやりたいと考えました。

 

私たちは狭い隙間を歩いて通り抜ける時、体型にかかわらず,身体幅の1.3倍より狭い隙間を“狭い”と感じ,接触回避行動をとることを報告した論文があります(Warren and Whang, 1987)。私は学生時代,この論文に衝撃を受けました。身体幅の1.3倍の隙間なんて,どのぐらいの幅か厳密にはわかりません。にもかかわらず、日常生活の中で当たり前のように知覚して行動していることに驚きました。

 

そこで私は,普段歩行をしている人が初めて車椅子を使った時,同じルールで接触を回避できるのかを実験してみました。その結果,車椅子での隙間通過を2週間経験しても,車両感覚が完全に正確とはなりませんでした。新奇な移動様式に対しては,歩行で学んだルールが即時的には汎化しないようです。

Higuchi T,et al:Visual estimation of spatial requirements for locomotion in novice wheelchair users. J Exp Psychol Appl. 2004 Mar;10(1):55-66. [PMID:15053702]  

 

「リハ職の方々と一緒に仕事がしたい」

 

ー リハ職の方々と交流を持つようになったきっかけはありますか?

 

樋口先生 きっかけは大きく二つあります。一つ目のきっかけは、東北大学在学時代、心理学の非常勤講師として,国立病院機構仙台医療センター附属リハビリテーション学院(旧国立仙台病院附属リハビリテーション学院)に4年間お世話になったことです。社会人経験のある学生さんが多いこともあって,学生さんのアカデミックな意識がとても高かったんです。彼らが将来,理学療法士,作業療法士になった時,お互い運動のプロ同士として一緒に仕事がしたいと本気で思いました。彼らにもそのように思ってもらえるように,自分は研究の道で一生懸命頑張ろうと思う力をくれました。

 

二つ目のきっかけは、博士研究員として首都大学東京にお世話になったことです。当時,社会人院生であった理学療法士の山本尚司先生(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 代表)の研究をサポートしていたところ,一度理学療法士や作業療法士の前で話をしてみないかということで、講演の機会をいただきました。そこで最初にコラボしたのが、畿央大学の森岡周先生だったんです。そこから数年後に、「身体運動学―知覚・認知からのメッセージ」(三輪書店,2008)という書籍を森岡先生と共著で出版いたしました。

 

この書籍がなければ現在の自分はないというほど,書籍を通して多くのリハ職の方々とつながるきっかけを頂きました。森岡先生が共著を快くOKしてくださったお陰と思っています。

 

【目次】

第一回:PT・OTとの出会い

第二回:人間の行動理解という共通項

第三回:今,大切に思っていること

最終回:研究には限界があるという真実

 

樋口貴広先生のおすすめ書籍

 

佐藤可士和の超整理術 (日経ビジネス人文庫)
Posted with Amakuri at 2018.3.9
佐藤 可士和
日本経済新聞出版社

 

■樋口貴広先生のプロフィール

1996年 東北大学文学部卒業

1998年 東北大学大学院文学研究科 博士前期課程(心理学)修了 

2001年 東北大学大学院文学研究科博士後期課程(心理学)修了

2001年 東北大学文学研究科 講師(研究機関研究員)

2002年 横浜国立大学エコテクノロジー・システム・ラボラトリー  講師(中核的研究機関研究員)

2003年 日本学術振興会特別研究員(東京都立大学理学研究科)

2004年 Dept. Kinesiology, University of Waterloo客員博士研究員

2006年 首都大学東京 人間健康科学研究科 助教

2008年 首都大学東京 人間健康科学研究科 准教授

2015年 首都大学東京 人間健康科学研究科 教授 

 

 

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