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第一回:言語の発達と時空間【東北文化学園大学 教授 | 言語聴覚士 藤原加奈江先生】

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言語障害に関わる職業のイメージがない時代

― 先生が言語聴覚士になろうと思ったきっかけを教えていただけますか?

 

藤原先生 大学では言語学、言語心理学(言語発達)を学んでおりまして、アメリカの大学院で勉強を続けようと思って渡米しました。夏休みの語学研修中に言語聴覚士と知り合い、スピーチパソロジー&オーディオロジー(言語聴覚学)コースの話を聞いて、机上の研究よりも実際の場面で役に立つことに興味があったので「自分にはぴったり」と思い、その専攻に入りました。

 

― アメリカの大学院に留学しようと思ったきっかけは何かありましたか?

 

藤原先生 当時、日本の大学院では言語心理学の分野が少なく、他に興味のある分野がなかったことが一つと、私の通っていた大学では学生の3分の1が留学をする大学で、自分も何となく留学したというのが正直なところです。当時は研究を志す学生の多くは留学する、という時代背景も関わっていたと思います。

 

― 先生の時代というのは、卒業したらそのまま言語聴覚士になるのが当たり前の時代ではなかったのでしょうか?

 

藤原先生 養成校が少なく、その情報が私のところまで届いていなかったという状況でした。新宿に国立の養成所が1つだけあったようです。現在のようには、言語障害に関わる職業をイメージすることができない時代でした。言語発達学や言語心理学、応用言語学という分野はありましたが、実際に臨床経験を積む場も限られていたと思います。今考えると、当時自力で臨床経験を積まれていた方々が、言語聴覚士の草分け的存在になっていったのだと思います。

 

私も、応用言語学の一コマで、その話を聞いていたはずなのですが、それが失語症の話だったこともあり、おそらく当時の私には「ピンッ」と来なかったのだと思います。その頃の私の興味は言語発達でしたから。

 

「人間の認知は、目が前についているため前から先に習得していく」

 

― 話が前後しますが、言語発達、コミュニケーションに興味をもたれたきっかけはなんだったのでしょうか?

 

藤原先生 当時の私の大学の言語学はチョムスキーの「生成文法」が盛んで、日本語の生成規則に関する机上の研究が主でした。言語心理学でも「子供は言語獲得装置(生成文法)を持って生まれてくる」というチョムスキーの理論を実際の言語獲得の中で証明しようとするのが主流でした。私は言語心理学で卒論を書きました。「前と後ろ、先と後」といった空間・時間に関する言葉をどのような順序で子供が獲得していくのかというものです。4年生の時に、100人ぐらいの幼稚園生を対象に実験しました。

 

当時、クラークが「空間的な言葉は、目が前についているので前から先に習得していく」という研究報告をしていました。その文献を読んで「本当だったら面白い!」と思い日本の子供たちでもそうなのか調べることにしました。そんな中、実験のためにある幼稚園に行った時のことです。先生が子供たちに「椅子を後ろに持っていきなさい」といったところ、子供達は椅子を持って前に行ったのです。

 

それはどういうことかというと、クラークによると「前や後ろと聞いて漠然と場所と理解する段階」、次に「前や後ろと聞いて、前と理解する段階」、最後に「前や後ろと聞いて、それぞれ正しく区別して理解する段階」があるというのですが、その中間段階が実際に存在したということです。そのような時期にあるお子さんたちを目の当たりにして、とても感動しました。今考えると当然のことですが、認知と言語の発達には密接な関係があることを実感しました。言語学を中心に学んできた私にはとても新鮮でした。アメリカの大学院ではミューマという認知を言語発達の基盤と考える先生の授業を受けました。二年間勉強したのちに日本へ戻りました。

 

当時の日本では、言語領域の研究やっている3つの機関がありまして、一つ目は東京大学医学部音声言語医学研究所(以下、音声研)、二つ目は所沢の国立障害者リハビリテーションセンター(以下国リハ)、三つ目が、東京都の老人総合研究所(以下老研)です。この三つに同じ文面の手紙を送り、所沢から返事をいただきました。後に、この三つの機関はそれぞれで繋がっていて、同じ文面を送っていることがバレてました。笑

 

日本語での評価法や訓練法を知らなかったので、国リハではインターンをさせてもらいたかったのですが、施設長の柴田先生から「君はどの分野をみたいのか」と聞かれた時に、とっさに「失語症です」と答えました。アメリカでは殆どやって来なかった分野でしたが、まずは定型発達後の言語障害を知ってから言語発達障害を学ぼうと考えたからでした。

 

藤田先生と言う著名な先生がいらして、失語症の評価と訓練をマンツーマンで教えて頂くという貴重な経験をしました。藤田先生からは知識やスキルだけでなく、言語聴覚士としての在り方も学びました。インターンを5月にはじめて、12月くらいまでした頃、老研から、「研究助手を探している」と連絡をいただき、それから3カ月間はそちらに行きました。

 

その後、4月から音声研の研究生になり、院生になる道もありましたが、7月に東京都の神経科学総合研究所からお誘いいただき就職し、そこで研究しながら週1回音声研にも通って博士論文を書くことになりました。音声研は医学(主に耳鼻科領域)、工学部、言語学の研究者が集っており、幅広く「音声言語」について学べました。神経研では高次脳機能障害を専門とする研究者から神経心理学を学べるという、今思うと恵まれた環境でした。

 

【目次】

第一回:言語の発達と時空間

第二回:自閉症を本来あるべき姿へ

第三回:デジタルの世界

最終回:自治体に言語聴覚士を

 

藤原先生オススメの書籍

失語症言語治療の基礎―診断法から治療理論まで
Posted with Amakuri at 2018.4.13
紺野 加奈江
診断と治療社

藤原 加奈江先生プロフィール

<職種・資格>
言語聴覚士、臨床心理士

<学歴・学位>
国際基督教大学教養学部語学科言語学専攻 卒業
南イリノイ大学大学院学言語病理学・聴覚学専攻(修士) 卒業
東京大学医学部音声言語研究施設(医学博士)

<職歴>
東京都神経科学総合研究所
福岡教育大学障害児教育非常勤講師
北里大学衛生学部リハビリテーション科非常勤講師
宮城県中央地域子どもセンター非常勤心理判定員など

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