第一回:作業療法の “作業 “とは?【文京学院大学 准教授|作業療法士 西方 浩一先生】

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作業とはなんぞや

ー 病院では「作業療法士」と「理学療法士」が同じようなことをやっている現状があると思います。先生が関わっている日本作業科学研究会では、”作業”にフォーカスを当てて活動を行なっていると伺いました。"作業"とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

 

西方先生 日本作業療法士協会は「作業」という用語は一般的に、労働使役や生産のイメージを持たれる危険があるとの理由で、「作業活動」を用いており「作業」を定義していません。国内外の論文で定義されているものも様々ですが、「作業」の持つ意味は「人 が生活の中で行う様々な活動」から「その人にとっての目的や価値も含まれる包括的な概念である」と言えると思います。

 

作業科学は、南カリフォルニア大学で誕生した学問で、人が日々行なっている様々な活動を深く研究していく学問です。例えば食事であったり,こどもの遊びであったり、人とお話しすることなどを作業と捉えます。人はどのように作業を行い,経験し,健康や個人の存在に影響を及ぼしているのかを研究する学問です。

 

作業の知識があることで、作業療法を実践する人々を支援し,その独自性を表すことができると思います。作業に関する知識を理解し広げなきゃいけない、ということで研究会に参加し活動をはじめました。心理学を分かっていないと、カウンセリングができないのと一緒で、作業のことを分かっていないと、作業療法はできないと思います。

 

ー 今年5月には、日本作業療法士協会の「作業療法」の定義が改定されましたね。

 

西方先生 作業療法の定義は、1965年の法律施行時では、作業を手工芸等その他の作業と定め、対象も障害のある人を中心に捉えていました。日本作業療法士協会の定義もこれまでは、作業という言葉を用いずに、作業活動を用いて諸機能の回復、維持及び開発を促すことと示されていました。

 

一方で、世界作業療法士連盟における作業療法の定義では、作業療法士が作業を通して健康と安寧を促進することに関心をもつ、クライエント中心の健康関連専門職であることを明確に示し、対象も障害者などと限定せず人々が日常生活の活動に参加できるようになることを目標に掲げています。

 

今回の改定により、日本の定義も大幅に変更されました・人々の健康と幸福を促進するために作業に焦点を当てた治療、指導、援助が作業療法であり、作業は日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動であることを指し示しています。

 

改定は、日本の作業療法にとっても大きな発展となり、本当の作業療法の目的である対象者にとって価値のある目的のある作業を可能にする職種であることが理解されやすくなったと思います。今後もより一層、作業・作業療法の理解が促進し、国民の健康に寄与できることを願います。

 

C6の不全麻痺をおって

ー 先生が作業療法士になろうと思ったきっかけを教えてください。

 

西方先生 実は作業療法士になる前から、私障害があるんですよね。16歳の時に体を動かすことが好きで後方宙返りに失敗して首の骨を折り頸髄損傷でC6の不全麻痺になりました。

 

その時に入院した病院で理学療法士・作業療法士と出会ったので、それまではそういう仕事があること自体知りませんでした。高校一年の時だったので半年ぐらい入院して、留年してまた一年生からやり直し。

 

最初は四肢麻痺で本当に全然動けませんでした。その後リハビリして歩けるようにはなったので、制服着て普通の高校生活に戻れるようになりました。卒業が近くなり友人のほとんどが大学に行く中で、私自身は何の目的もなく通うのはどうなのか、と思い手に職つけようと考えました。

 

そこでパッと浮かんだものが理学療法士と作業療法士だったんですね。そこで、シンプルに理学療法士は体力的にちょっと厳しいだろうと思い、作業療法はすごく面白かったし、自分と同じような人の立場になって支えになれるといいかなって思ったんですね。

 

そこで専門学校ガイドを買って探したんですよね。就職は、最初、緑成会病院というところで働いて、2年間勤めた後に併設されている整育園という小児の施設に異動しました。

 

一年目だから何もわからず先輩たちに教わったり、勉強会に行く中で「作業療法とはなんだろうな」と、悩んでいたんですよ。リハ課課長の理学療法士で溝呂木先生という先生がいて「作業療法士は何のためにやっているのか」と、問われることが多かったんですよ。

 

例えば、脳卒中の人のカラダを整える時に、上肢のROMエクササイズを行うとしたら「PTもやっているんだからOTもやる必要ないんじゃない?」とか。何のためにやるのって突き詰められて、1年目の頃は何が何だか分からない状態が続いていましたね。先輩たちも経験が3年目とかで、まだそんなそんなにきちんとした答えを持っている、という状態ではありませんでしたし。

 

整育園では1人の子供に対して1人のセラピスト、つまり作業療法士か理学療法士のどちらかしか担当しないので、作業療法士も両方診られないといけない。そうすると、作業療法士も理学療法士の知識を知らなきゃいけない。脳性麻痺の子を担当するとなると、呼吸のことを知らなきゃいけない。車椅子や装具のことも知らなきゃいけない。

 

そうやって勉強していくしかない時代だったんですね。ただそれで、理学療法士と同じようなことを続けていると「いったい作業療法士って何なんだ」と悩むことがありました。

 

その答えを探すために、色んな講習会に参加しました。でもようやく何となく分かってきたのは本当最近の話で、整育園を辞めるきっかけになったのも「もう一回作業療法のこと勉強したい」という想いで学校教員になりました。

 

ー 教員の話はどこからきたんですか?

 

西方先生 自分がもともと卒業した学校の先生に悩みを相談している時、紹介していただきました。ただその時は、まだ7年ぐらいしか働いていなかったので、まだ教員なんてできないと思ったのですが、「自分で勉強してそれを伝えるっていうことが学生の役に立つんだよ」と教えていただき、やってみようかと思いました。それで平成11年から城西医療技術専門学校で教員を始めました。

 

【目次】

第一回:作業療法の “作業 “とは?

第二回:「作業療法は上肢」ではない

最終回:南カリフォルニア大学で作業療法を学ぶ

 

西方 浩一先生オススメの書籍

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幼児教育の経済学
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西方 浩一先生プロフィール

文京学院大学 保険医療技術学院大学 准教授

日本作業科学研究会理事
日本作業療法士協会 教育部養成教育委員会委員

【最終学歴】

筑波大学大学院教育研究科
カウンセリング専攻リハビリテーションコース修士課程修了
聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科博士後期課程修了

第一回:作業療法の “作業 “とは?【文京学院大学 准教授|作業療法士 西方 浩一先生】

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