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第一回:世界から取り残された日本【埼玉医科大学 教授|理学療法士 赤坂清和先生】

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黄金時代の教育

ー 赤坂先生が理学療法士になったきっかけを教えてください。

 

赤坂先生 金沢市内の高校に通っていたのですが、金沢大学には理学療法士を養成する理学療法学科が医療技術短期大学部(現在の金沢大学医薬保健学域保健学類理学療法学専攻)にあり、地元であり、安い授業料であることなどを考えて進学を決めました。実は、理学療法士には関心はありましたが、強い動機付けがあったというわけではありませんでした。

 

金沢大学は文部科学省管轄として理学療法士養成教育が最初に設置された大学であり、その教授陣も経験豊富な先生が多く、今から振り返るとかなり豪華な布陣でした。理学療法の学問的基礎がしっかりしていて、理学療法の臨床の奥深さを体現されている先生が多く所属しているという印象でした。

 

例えば、その1人が日本理学療法士協会の会長をされていた奈良勲先生です。奈良先生は米国で理学療法を学ばれ、理学療法士として働いていた経験がありました。また、英国およびカナダに留学されていて、カナダのアルバータ大学では呼吸器理学療法や運動器理学療法を専門とされていた荻原新八郎先生やスイスに留学されて小児に対する理学療法を専門とし、現在広島にいらっしゃる河村光俊先生など、海外で理学療法士として働いていた方が多かったんですよ。

 

身体運動の基礎的な知識を踏まえて、理学療法の知識や技術を病院や小児施設などで実践してきた理学療法をリードする講師陣から、いろいろなエピソードを伺いながら受ける授業は非常に面白かったですし、時には刺激的に感じることもありました。

 

また、1年次や2年次の授業や実習では、病院などで実際の患者様に対する評価の方法や理学療法の治療をみせて下さり、理学療法の治療アプローチの前後でどのように患者さんの運動が変化するのかを説明していただきました。そのような貴重な経験をさせていただく中で、だんだん「理学療法って面白いな」と思ってきたんです。

 

海外で理学療法士として働いていた先生から話を伺ううちに、自分も海外へ学びに行きたいと思うようになりました。

 

ー それで実際にアメリカのカンザス州にあるウィチタ州立大学に進学したんですね。

 

赤坂先生 そうです。ちょうどその頃、アメリカの理学療法教育が4年制大学教育から※専門職博士課程(以下、DPT:Doctor of Physical Therapy)に移行しているときでした。当時はまだ制度が完全に整っていたわけではなく、多くの大学ではDPTに進学するためには、大学で何らかの学士号を取得するとともに、現在の基準よりも多く必要単位を取得する必要がありました。私はウィチタ州立大学のDPT進学に必要な全ての必要単位と学士号(Bachelor)を取得したのですが、それまで3年半ぐらいかかってしまいました。

 

大学を卒業したことや金銭的に不安であったこと、アメリカの理学療法教育の事情がわかり、またいつか留学することを胸に抱きながら、一度日本に帰って働こうと考えて、石川県内の総合病院に勤めることにしました。

 

そこで働いている時に、金沢大学から指導に来られていた恩師の染矢先生より、東北大学で理学療法士・作業療法士や看護師に門戸を開いた大学院修士課程が開設されたから、進学しないかと勧められました。まだ4年制の理学療法士養成する大学として、平成4年に広島大学医学部保健学科が開設されたころです。当時の理学療法士は専門学校か短期大学を出て働いている人がほとんどです。学士をもっている人が稀。そもそも修士課程に通える理学療法士はほとんどいなかったと思います。

 

私はアメリカで学士号を取得していたので受験資格を持っていたことと、大学の恩師の染谷先生にも勧められたこともあり、進学を決めました。

 

 

ー 当時と今を比べて、日本の理学療法はどう変わりましたか?

 

赤坂先生 日本の理学療法はほとんど進歩していませんよね。私が理学療法士になってから変わったのは、四年制大学が増えてきたくらいでしょうか。

 

一方で、ここ30年ぐらいで世界の理学療法というものはすごく変わりました。

 

アメリカでは、2015年に理学療法士養成教育はDPTに完全移行しています。今ではほとんどの州でダイレクト・アクセスが可能ですし、開業権を得ています。しかも、日本よりも圧倒的に国土が広く、人種も文化も多様なアメリカがそのように変革できている、という点がポイントです。理学療法士は患者様の外傷や障害が重症化する前に症状を改善し安静化させるとともに、医師の診断や治療が必要な場合には適切な医療機関へ紹介するという役割を果たせています。そして、DPTの内部質保証を高めるために、講師陣やDPT教育内容に関する基準を適切に改変し、DPT養成機関に対する認証活動を積極的に行うとともに公開しています。

 

アメリカ以外でも、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、スイス…と、他の諸外国を見ても、三年制の理学療法士教育課程が残っている国はほとんどありません。それどころか、カナダやオーストラリアなどの理学療法士養成課程は、アメリカを意識してDPTへの移行を進めています。

 

明らかに、日本は取り残されていると言っていいと思います。

 

【目次】

第一回:世界から取り残された日本

第二回:病院内のDirect access

第三回:背中で語るな。目の前で見せよ。

最終回:選ばれよ。さらば与えられん。

 

赤坂清和先生プロフィール

平成2年 金沢大学医療技術短期大学部 卒業

平成5年 米国ウィチタ州立大学(カンザス州) 卒業

平成12年 東北大学大学院医学研究科 博士後期課程修了

平成15年 埼玉医科大学短期大学 講師

平成18年 埼玉医科大学短期大学 教授

平成19年 埼玉医科大学保健医療学部 理学療法学科教授  現職  

平成22年 埼玉医科大学大学院 理学療法学教授 現職

 

日本理学療法士協会運動器専門理学療法士、運動器認定理学療法士

日本運動器理学療法学会および日本スポーツ理学療法士学会 運営幹事

理学療法科学学会理事

日本徒手理学療法学会監事

日本運動器科学学会評議員

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