某クリニックで両膝を5回も手術し、いろいろと機能低下が生じていたサッカー選手と再会しました。以前会ったときはACL再建術後、今回は膝蓋骨軟骨損傷に対する骨軟骨プラグ移植術後という状態でした。
痛みはそれほど著明ではないものの、いろいろと機能障害がありました。具体的には大腿四頭筋セッティング不良、スクワット時の股関節屈曲の制限と可動域制限、しゃがみ込み不可、階段降下困難、可動域は0-150°、正座不可、膝蓋骨低位などです。
①膝蓋上嚢リリース、膝蓋腱・膝蓋下脂肪体リリース
僅かですがセッティング不良と屈曲制限がありました。これは膝蓋下脂肪体拘縮と膝蓋上嚢拘縮が残存していることを示唆します。そこで膝蓋上嚢上縁で、その浅層と深層をリリースしました。また膝蓋腱と膝蓋下脂肪体を包むfasciaとの間をリリースすることにより、セッティングと屈曲制限は同時に解決されました。これにより、端座位での膝伸展筋力も十分に発揮されるようになりました。
②スクワット時の股関節屈曲制限
スクワットをしようとすると、股関節屈曲に抵抗を感じ、上手にしゃがみ込むことができませんでした。背臥位での股関節屈曲可動域は120°(対側140°)でしたが、100°からは抵抗が感じられました。さらに腓腹筋内側の痺れがあったため、坐骨神経と後大腿皮神経の癒着を疑い、これらをリリースしました。また大殿筋の深層の癒着を一通りリリースしました。これにより、フルスクワットが可能になりましたが、膝内側に疼痛が出現しました。
スクワット時の膝内側の痛みは内側上顆の前方から内側広筋にかけて上下に広がり、伏在神経にリリース時痛がありました。膝屈曲時に神経が膝の屈伸軸に向けて滑走するように、伏在神経を後方に向けてリリースしたところこの症状は解消されました。
これでスムーズにスクワットができるようになりましたが、膝屈曲時に外側広筋に強い張りを感じたとのことで、腸脛靭帯の後方への滑走性を確保した上で、外側広筋とその深層の神経との間のリリースを行い、上記の張りが解消されました。
③階段降下時の左膝の震え
階段を降りようとすると、右遊脚期に左膝がブルブルと震え、右足を接地するところまで膝を曲げることができません。これに対して、外側膝蓋支帯の滑走性の獲得、大腿直筋およびその深層の神経のリリース、縫工筋と内側広筋との癒着のリリースなどを実施しました。その結果、まだ震えは多少残っているものの、スムーズに階段を降りることができるようになりました。このあと、小走りも可能になりました。
以上のような痛みや筋機能不全、可動域制限、さらには特定の動作で出現する下肢機能障害は、ACL再建術後などには珍しくないと思います。これらの問題はすべて末梢の問題であり、組織間リリースで解決できる問題でした。これらの原因を中枢神経の問題、協調性の異常などと考えると、全く的外れの治療が行われてしまうことになります。末梢の問題を一つずつ解決すれば、確実に治療が前に進むことを教えてくれる症例でした。
■ 筆者・セミナーご紹介
筆者:蒲田和芳
・広島国際大学総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 教授
・株式会社GLAB(ジーラボ) 代表取締役
・一般社団法人日本健康予防医学会 副理事長
・株式会社リベラシオン 代表取締役
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