現在の腰痛、特に非特異的腰痛に関しては、腰痛というものをさらに細かく分けて、それに適した特異的な介入を行う考え方が世界的なスタンダードである。その腰痛をサブグループに分けることをclassification=分類 という。
腰痛者をサブグループに分類し、理学療法を行った場合は、診療ガイドラインに沿った介入よりも機能や仕事復帰率、医療コストにおいて効果的である、という報告もあり、現在は世界において様々なclassificationが開発、発展している。前回紹介した、STarT Back Screening Toolもclassificationの一つである。しかしながら、急性腰痛限定であり、よりスクリーニング要素が強いという点で一般的なClassificationの概念とは少し異なることに留意してほしい。
非特異的腰痛に対する世界的に使用されている主なClassificationは、
ーマッケンジーによるclassification(Mechanical Diagnosis and Treatment:MDT)
ー動作障害からのclassification(Movement System Impairment Classification::MSI)
ー病理学的点からclassification(Pathoanatomic Based Classification:PBC)
ー痛みが生じる原因を元にしたClaasification(O’Sullivan Classification System :OCS)
と、このように、Classificationという考え方が一般的であるが、世界的に統一されていない、ということが問題点でもある。今後は、これらのClassificationをどのように体系化し、世界中の理学療法士や医師が同じ共通知識にて議論できるようになることが非特異的腰痛治療の次なるステップだと感じる。
たとえば、マッケンジーの概念によるMDTは、日本でもコースが開催されており、最も知られているClassificationかもしれない。MSIはシャーマンにより考案されたMovementをベースにしたClassificationであり、書籍やコースも日本で開催されている。
PBCは、病理解剖学に基づいたものであり、「椎間板性腰痛」や「椎間関節性腰痛」「筋・筋膜性腰痛」というような「原因組織」に基づいた分類法がこれにあたる。
OCSは日本ではまだあまり馴染みがないが、オーストラリアをはじめ世界的にもよく知られたPeter O'Sullivanが開発したものである。筆者が論文を日本語で書いているので、興味がある人は参考にしてほしい。
O'Sullivan Classification System
今回は数あるClassification systemの中から、Peter O'SullivanのClassification Systtem (O'Sullivan Classification System:OCS)について紹介する。
O’Sullivanは腰痛を生物心理社会的モデルに基づいて考えることを推奨している。また、分類を「痛みが生じる原因」を元として考えていることが特徴である。
※この痛みが生じる原因というのは、「痛みが生じる解剖学的組織」ではないことに注意
それらを踏まれ、O’Sullivan Classificationを提唱している。階層的にまとめたものを以下に説明する。
1)腰痛とRed flags
腰痛のなかには、Red Flasとよばれる理学療法対象とはならない深刻な疾患が存在する。腰痛の中に約1%存在する、と言われており、「悪性腫瘍」「脊髄腫瘍」「内部疾患由来の腰痛」などがそれにあたる。それを最初に除外する。日本では医師が診断を行うので、基本的には医師がこの役割を担うか、理学療法士も知っているべきである。
2)特異的腰痛と非特異的腰痛
腰痛は約10-15%が構造的に問題ある「特異的腰痛」であり、残り85-90%が画像所見では問題が見つからない「非特異的腰痛」である。それらを分類する。
3)骨盤帯由来の疼痛と腰部由来の疼痛
患者が腰痛と考えていても「骨盤帯由来」の疼痛の可能性がある。もし骨盤帯由来の疼痛であった場合は、また異なる評価/介入方針が必要となる。
4)中枢性感作の可能性
腰痛/ 骨盤帯痛、特に慢性化しているなかには、中枢性感作と呼ばれる中枢神経系における痛覚過敏によるもので生じる場合もある。その中枢性感作由来の腰痛を分類する。
5)Motor Control障害かMovement障害の分類
O’Sullivanは腰痛がメカニカルストレスである場合、「Motor Control障害」と「Movement障害」に大別できると述べている。
6)疼痛が生じる運動方向、分節
Motor Control障害、Movement障害に分類した場合、「どの方向性」で疼痛が生じるのか、「どの分節レベル」で疼痛が生じるかを評価、分類する。
7)心理社会的要因の影響の程度
生物心理社会的モデルでは、人の心理面や社会的側面を考慮することが必須となる。実際に腰痛と心理社会的要因の関係性は多く報告されている。そのため、心理社会的要因がどの程度あるのかを評価する。
以上の階層的な分類を行っていくことで、「非特異的腰痛」を分類し、介入の方向性を決定することが容易となる。
【6月16日】三木先生による「非特異的腰痛に対する理学療法―Classification(分類)に基づいた考え方と実践―」はこちら
参考/引用文献
・Julie MF et al: Comparison of Classification-Based Physical Therapy With Therapy Based on Clinical Practice Guidelines for Patients with Acute Low Back Pain. SPINE,28(13): 1363–1372, 2003.
・McKenzie R: Part A: The Lumbar Spine Mechanical Diagnosis and Therapy. The Prince Charles Hospital, Brisbane, Qld Australia 2009.
・Sahrmann SA: Diagnosis & Treatment of Movement System Impairment Syndromes: Introduction to Concepts & Application. Methodist Dallas Medical Center Dallas, TX, USA; 2009.
・Petersen T, Laslett M, Thorsen H, Manniche C, Ekdahl C, Jacobsen S: Diagnostic classification of non-specific low back pain. A new system integrating patho-anatomic and clinical categories. Physiother Theory & Practice 2003, 19:213-237.
・O’Sullivan PB: Management of Chronic Low Back Pain Disorders: From a mechanism based bio-psycho-social perspective. Royal Brisbane Hospital, Herston, Qld, Australia Musculoskeletal Physiotherapy Australia; 2009, 38
・三木貴弘: O’Sullivan Classification System を用いた非特異的腰痛の分類とその介入. 徒手理学療法,17(2):51-56,2017.
・O’Sullivan P. Diagnosis and classification of chronic low back pain disorders: Maladaptive movement and motor control impairments as underlying mechanism. Man Ther. 2005年;10(4):242–55.
・Dankaerts W, O’Sullivan PB, Straker LM, Burnett AF, Skouen JS. The inter-examiner reliability of a classification method for non-specific chronic low back pain patients with motor control impairment. Man Ther. 2006年;