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町田志樹先生ー解剖学の教育者の道を進む理学療法士(PT)ー

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とにかく解剖の勉強がしたかった

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ー 理学療法士になったきっかけは?

 

町田先生:最初は「高齢者の理学療法のスペシャリストになろう」と思って新潟の療法士養成校に入ったんです。それで、学生の時に東京から来たある非常勤の先生に「これからの理学療法士はちゃんと治せないと生き残れない」って話を聞いて。それが当時の私にはセンセーショナルに聞こえたんですよね。「あっ、東京にはこういう凄い先生達がいるんだ」ってなったんですよ。

 

母親が美容師なので「技術を学ぶのはやっぱり東京だ」と。漠然とそんな認識がありました。それから、墨田区の某病院で働きはじめて。その数年後にお世話になっている先生から「医学部の解剖学の研究室に入らないか」とお話をいただき、「何事も挑戦してみよう」と思い、研究室に入ることになりました。とにかく解剖の勉強がしたかったんです。



その頃から養成校で国家試験対策や、筋触診のデモなどをやらせていただいていたんですが、その中で「実際の構造を学びたい」という思いを強く抱くようになりました。ですが、初めて研究室に伺い、教授にお会いした際に「うちの大学院は博士課程しかないので、修士をとってからまた来なさい」と言われ。

 

ただ、僕は博士という学位がほしいわけでもなく、とにかく解剖の勉強がしたかったので、院生としてではなく、研究生として研究室に入れさせてもらいました。

 

ー 修士課程には進まなかったんですね。

 

町田先生:実はそうなんです。それで研究生として一年目が終わろうとした頃に、教授から「修士免除の試験があるから受けてみないか」とお言葉をいただき、受験をすることにしたんです。まぁ、英語の試験だったんで非常に苦労しましたね。なんとか受かって、博士課程に入ることが決まった際に、お世話になっている先生から「教員になった方がいいのではないか」と提案いただいて。そういった経緯で、今は専門学校の教員をやっています。

 

第四腓骨筋とかもありますからね。

ー 実際に大学院ではどのようなことを研究していたのですか?

 

町田先生:研究していたのは下腿の動脈系についてなのですが、その他にも理学療法士として、非常に多くのことを学ばせていただきました。また、共に学ぶ大学院生も非常にバリュエーションに富んでいて。理学療法士以外にも解剖美術の専門家や解剖学史の研究者がいたので、「学問」として解剖学を学べたのは今の自分にとって非常に大きかったと思います。



研究室に入ってからは驚きの連続でした。研究室に入る前の段階でも理学療法士として、解剖学の知識は最低限にはあるつもりでしたが、実際に学んでみるとイメージと違うことばかりでしたね。だって、動脈は赤くないし、静脈は青くないし、神経は黄色じゃないんですよ(笑)

 

 また、バリエーションも実際にはすごくあるんです。同じ年代の人でもみんな顔が違うんだから、筋や血管・神経だって当然、個体差がかなりある。例えば、解剖学書にのっている図。これは誰だっていう話ですよね。

 

ですが、その解剖学のバリエーションを学ぶ機会がほぼ無い。これはセラピストの教育にとって大きな問題だと思います。ちなみに、一般的な解剖学書に書かれていない筋もありますよ。第四腓骨筋(peroneus quartus muscle)とかもありますからね、ある人もない人もいて。あと胸直筋(rectus thoracis muscle)とかも。

 

ー そんな筋あるんですか!?

 

町田先生:例えば、第三腓骨筋とか足底筋とかもあまり注目されないじゃないですか。でも実際見ると、意外にボリュームがあるんですよ。それに比べて腹部の筋って凄く薄いんです。おそらく、一般的なイメージよりも。ですが逆に、体幹において内臓は大半を占めています。

 

これらについての正確な理解は、内臓にアプローチをする手技だけではなく、歩行を考える上でも重要だと思います。歩行を治療する上で、体幹を筋の塊と思っているのか、臓器が中に詰まっていると理解しているのか、その正しい構造を知っておくことは、とても大事なことだと思うんですよね。

 

解剖学の卒前教育と卒後教育

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ー 今後の展望は?

 

町田先生:現状では3つ考えていて、学生に対する解剖学教育、卒後教育、そして解剖学・教育法の研究をしっかりやっていきたいなと思っています。また、個人的には「理学療法士としての解剖学」は、学生に対する教育と卒後教育で分けていかないといけないなと。

 

私の講習会に参加して下さった受講生の方から「学生さんは良い授業を受けられているんでしょうね」と言われますが、講習会で話す内容は、学校の講義ではあまり話しません。以前に一度、話したことがあるのですが、ある学生から「国家試験に出るんですか?」って聞かれたことがあります。「国家試験」には出ませんが、「臨床」には出るんですけどね(笑



でもそれは学生がわるいのではなく、学生として解剖学に対して求めるニーズが違うから仕方がないのだと思います。なぜ、僕らが解剖学の勉強が楽しいのかっていうのは、学んだことを臨床で活かして患者さんが良くなるからじゃないですか。ニーズが違うんです。だから、解剖学の卒前教育と卒後教育っていうのは分けてやらなきゃいけないと思うんですよね。

 

もちろん、学生のニーズもしっかりと把握をしていくことは重要だと思っています。また、卒後教育として「機能解剖学」の講習会はたくさんありますが、「解剖学」の講習会ってあまりないじゃないですか。コメディカルの卒後教育として、基礎の解剖学を学び直す場があっても良いのではないかと以前から思っていました。そしてそれは、コメディカルで行っていくべきだと。やはりニーズが正しく分かりますからね。

 

そこって腰方形筋じゃなくて外腹斜筋なんですよ

町田先生:解剖学書ではなかなか理解しにくく、誤って理解をされている構造物が多いように個人的には思います。また同時に、それを基に行われているリハビリテーションも多いのではないかと推測しています。では、そういったリハビリテーションを一概に否定するのかというとそうではなくて、解剖学を正しく理解することで、その効果も更に向上すると思うんですよね。

 

そのパイプ役になりたいなと。臨床家でも研究者としてでもなく、「教育者」というところが目標です。よく講習会で「治療の話をしてください」って言われるんですけど、それは私なんかよりも生粋の臨床家の先生方に聞いていただいたほうが良いのだと思います。ただ構造についてはきっちりと講義を行う。それも「専門性」ではないでしょうか。



 私の仕事は、あくまで治療手技の伝達ではなく、「正しい構造を伝え、評価の選択肢を増やす」ことにあると思います。評価の選択肢が増えれば、結果的に治療手技も増えるのですが。評価の選択肢になりうる正しい構造の話を伝え、そして先生方から逆に臨床での経験をフィードバックしていただく。

 

これからはそういった連携でやっていく必要があるのかなと。臨床家が「研究者は臨床が分かっていない」とか、逆に研究者が「臨床家は分かっていない」というのではなく、お互いが協力しあっていけたらいいなと思うんですよね。


以前、ある講習会に参加した際に講師の先生が「こうすると腰方形筋が促通されて歩行がよくなる」と言っていて。ただ、僕から見るとそこって腰方形筋じゃなくて外腹斜筋なんですよ。

 

外腹斜筋ってここから付いているじゃないですか。ただ、私としてはその手技を否定するわけではなくて、きっと外腹斜筋が促通されて歩行が改善したのではないのかなと思うんですよね。さらに腰方形筋にもアプローチをすれば、その手技は更に治療効果を上げるかもしれない。解剖学を正確に理解することによって、臨床能力が更に伸びると思うんです。

 

学生・若手セラピストへのメッセージ

町田先生:信念をもって頑張ることですかね。あと努力を継続すること。僕はすごく運が良かったと思うんですよね、大学院の話もいただいたりして。ただ振り返ってみると、やはり信念をもって努力を継続していたからこそ、まわってきた運だと思うんですよ。

 

頑張っている人はどこかで誰かが見てくれているんですよね。また、私は「個人でも勝負ができる組織人」であり続けることが重要だと思っています。個人として対外的に活躍していても、患者さん(教員でいえば学生)をないがしろにするようではダメですし、その逆であっても魅力的な人材とは言えないのではないでしょうか。私もまだまだ未熟ではありますが、そういう人材でありたいと常日頃から思っています。

 

町田志樹先生ー解剖学の教育者の道を進む理学療法士(PT)ー

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