令和3年度介護報酬改定の主な事項について1月18日、第199回社会保障審議会介護給付費分科会にて発表された。
シリーズ第8回目の記事となる今回は通所介護の最後の記事としていきたい。
大枠は以下の通り。
【本日の目次】
・各加算・サービス実態と改定による変化を把握する
① 口腔衛生管理や栄養ケアマネジメントの強化
② ADL維持等加算の拡充
・改定ポイントを再度整理する
各加算・サービス実態と改定による変化を把握する
① 口腔衛生管理や栄養ケア・マネジメントの強化
口腔衛生管理や栄養ケアに関する課題等をまとめたい。
・口腔機能向上加算算定率12.2%
必要な利用者の把握が難しい、同意を得ることが難しい、算定を支援してもらえる歯科医療機関がないなど、十分な情報と必要性について把握・整理できていない実態が明らかとなっている。・加えて要介護高齢者の調査において、歯科医療や口腔健康管理が必要な高齢者は64.3%であったことに対して歯科受療を実際に受けた割合は2.4%にとどまる結果となっている。
・栄養状態については、通所サービス利用者のうち、BMI18.5未満が24.0%、MNA®-SFによる低栄養・低栄養リスクありが38.7%
改定の概要は下記の通り。
・ 通所・居住系等のサービスについて、利用者の口腔機能低下を早期に確認し、適切な管理等を行うことにより、口腔機能低下の重症化等の予防、維持、回復等につなげる観点から、介護職員等が実施可能な口腔スクリーニングを評価する加算を創設する。その際、栄養スクリーニング加算による取組・評価と一体的に行う。【告示改正】
・口腔機能向上加算について、CHASEへのデータ提出とフィードバックの活用による更なるPDCAサイクルの推進・ケアの向上を図ることを評価する新たな区分を設ける。【告示改正】
・ 通所系サービス等について、栄養改善が必要な者を的確に把握し、適切なサービスにつなげていく観点から、見直しを行う。【告示改正、通知改正】
口腔・栄養スクリーニング加算
【単位数】
<現行>
栄養スクリーニング加算5単位/回
<改定後>
口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)20単位/回(新設)
口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)5単位/回(新設)(※6月に1回を限度)
【算定要件等】
<口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)>
○ 介護サービス事業所の従業者が、利用開始時及び利用中6月ごとに利用者の口腔の健康状態及び栄養状態について確認を行い、当該情報を利用者を担当する介護支援専門員に提供していること(※栄養アセスメント加算、栄養改善加算及び口腔機能向上加算との併算定不可)
<口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)>
○栄養改善加算や口腔機能向上加算を算定している場合に、口腔の健康状態と栄養状態のいずれかの確認を行い、当該情報を利用者を担当する介護支援専門員に提供していること(※栄養アセスメント加算、栄養改善加算又は口腔機能向上加算を算定しており加算(Ⅰ)を算定できない場合にのみ算定可能)
口腔機能向上加算
【単位数】
<現行>
口腔機能向上加算150単位/回
<改定後>
口腔機能向上加算(Ⅰ) 150単位/回(現行の口腔機能向上加算と同様)
口腔機能向上加算(Ⅱ) 160単位/回(新設)(※原則3月以内、月2回を限度)
(※(Ⅰ)と(Ⅱ)は併算定不可)
【算定要件等】
<口腔機能向上加算(Ⅱ)>
○ 口腔機能向上加算(Ⅰ)の取組に加え、口腔機能改善管理指導計画等の情報を厚生労働省に提出し、口腔機能向上サービスの実施にあたって当該情報その他口腔衛生の管理の適切かつ有効な実施のために必要な情報を活用していること
栄養アセスメント加算・改善加算
【単位数】
<現行>
栄養改善加算150単位/回
<改定後>
栄養アセスメント加算50単位/月(新設)
栄養改善加算200単位/回(※原則3月以内、月2回を限度)
【算定要件等】
<栄養アセスメント加算> ※口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)及び栄養改善加算との併算定は不可
○ 当該事業所の従業者として又は外部(※)との連携により管理栄養士を1名以上配置していること
○ 利用者ごとに、管理栄養士、看護職員、介護職員、生活相談員その他の職種の者が共同して栄養アセスメントを実施し、当該利用者又はその家族に対してその結果を説明し、相談等に必要に応じ対応すること
○ 利用者ごとの栄養状態等の情報を厚生労働省に提出し、栄養管理の実施に当たって、当該情報その他栄養管理の適切かつ有効な実施のために必要な情報を活用していること。
※他の介護事業所、医療機関、介護保険施設、日本栄養士会や都道府県栄養士会が設置・運営する「栄養ケア・ステーション」。ただし、介護保険施設については、常勤で1以上又は栄養マネジメント強化加算の算定要件の数を超えて管理栄養士を配置している施設に限る。
<栄養改善加算>
○ 栄養改善サービスの提供に当たって、必要に応じ居宅を訪問することを新たに求める。
② ADL維持等加算の拡充
課題部分は以下の通り。
・H30年時点での調査において、加算の申請事業所36.8%に対し実際に算定しているのは3.6%にとどまっている。(通所介護の平成30 年度介護報酬改定等の検証に関する調査研究事業)
・算定にかかる労力と単位が比例しない
・データ提出と実施結果どちらに重きをおいた加算か把握しづらい
・算定に係る利用者要件が高いハードルとなっている
○見直しの概要については、図式化したほうが理解しやすいため、以下の通りにまとめる。
※ ADL利得の提出率を9割以上としていた要件について、評価可能な者について原則全員のADL利得を提出を求めつつ、調整済ADL利得の上位及び下位それぞれ1割の者をその平均の計算から除外する。また、リハビリテーションサービスを併用している者については、加算取得事業者がリハビリテーションサービスの提供事業者と連携して機能訓練を実施している場合に限り、調整済ADL利得の計算の対象にする。
・より自立支援等に効果的な取組を行い、利用者のADLを良好に維持・改善する事業者を高く評価する新たな区分を設ける改定となった。
【単位数】
<現行>
ADL維持等加算(Ⅰ) 3単位/月
ADL維持等加算(Ⅱ) 6単位/月
<改定後>
ADL維持等加算(Ⅰ) 30単位/月(新設)
ADL維持等加算(Ⅱ) 60単位/月(新設)
※(Ⅰ)・(Ⅱ)は併算定不可。現行算定している事業所等に対する経過措置を設定。
【算定要件】
< ADL維持等加算(Ⅰ) >
○ 以下の要件を満たすこと
【イ】
利用者等(当該施設等の評価対象利用期間が6月を超える者)の総数が10人以上であること。
【ロ】
利用者等全員について、利用開始月と、当該月の翌月から起算して6月目(6月目にサービスの利用がない場合はサービスの利用があった最終月)において、Barthel Indexを適切に評価できる者がADL値を測定し、測定した日が属する月ごとに厚生労働省に提出していること。
【ハ】
利用開始月の翌月から起算して6月目の月に測定したADL値から利用開始月に測定したADL値を控除し、初月のADL値や要介護認定の状況等に応じた値を加えて得た値(調整済ADL利得)について、利用者等から調整済ADL利得の上位及び下位それぞれ1割の者を除いた者を評価対象利用者等とし、評価対象利用者等の調整済ADL利得を平均して得た値が1以上であること。※調整式の詳細は未確定
< ADL維持等加算(Ⅱ) >
○ ADL維持等加算(Ⅰ)のイとロの要件を満たすこと。
○ 評価対象利用者等の調整済ADL利得を平均して得た値が2以上であること。
以上が通所介護の残りの加算の改定内容である。
口腔・栄養に関連した加算については、課題があるにも関わらず算定率が伸びていない実態を加味し強化がなされた。
外部との連携を強化して口腔・栄養のアセスメントを強化し、肺炎等のリスクも低減できうるような介入が求められていくといえる。
算定の期間等に開きがあるものもあるが、次回改定を見据えて対応方法をよく相談しておく必要がありそうだ。
ADL維持等加算については、大幅な要件の緩和がなされており、単位数も10倍となっている。
実際に計算をするとさほど大きなインパクトはないものの、データ提出を行う部分に重きが置かれた改定となっている。
実質的には、
【評価・データ提出量の増大→データを分析→ADL評価要件等の詳細化】
の序章と言える。
地域密着型等小規模事業所の算定率が低い事業所は、今のうちに差別化を推し進めておくべきであろう。
通所介護については、現在まで計5記事に分けて記載を行ってきた。
【自立に資する】
【連携の環境を築いている】
この2点を明確に評価する改定となった。
事業所として、加算に向き合っていく選択する事業所もあれば、やむを得ず一部の対応等に折り合いを付ける事を考えねばならない事業所もあろう。次回2024年診療報酬との同時改定に向け、今までも着目されてきた課題に対して差別化をさらに図るべく推し進めるのか?
あまり着目されていなかった家族との連携や地域との共生などに着目して行くのか等、大きな方向転換を迫られる改定になったと言えよう。
【目次】
第八回:令和3年度介護報酬改定案(通所介護5)