大腿骨前捻角の違いを臨床にどう活かすのか?

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皆さんこんにちは。茨城県で理学療法士をしています、宮嶋佑です。

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突然ですが、皆さん「大腿骨前捻角ってご存じですか?」大抵のみなさんは「いや!知ってるよ!」とお答えになると思います。では、

「例えば大腿骨前捻角が強い”過前捻”の人はどんな事を注意したらよいですか?」

と聞いたらどうでしょう?なかなかパッと浮かばない人も多いのではないでしょうか?以前記事で、大腿骨前捻角と人工関節の脱臼について書かせて頂きました。

▶︎https://1post.jp/5111

実は大腿骨前捻角の違いは脱臼だけでなく、股関節を代表とする下肢の関節疾患、スポーツ障害など様々な患者さんに影響を及ぼします。よって今回は、主に股関節疾患のリハビリを行うにあたって、

・大腿骨の前捻角が違うと、どのような影響を及ぼすか?

・実際にどのようなことに気を付ければよいか?

について、書いていきたいと思います。股関節疾患のリハビリを行う際に、大腿骨前捻角の意識は知らないと絶対にマズイ、超重要知識ですのでこの機会にぜひ学んで頂ければと思います。

大腿骨前捻角を理解する

大腿骨前捻角とは、大腿骨頸部と大腿骨内顆と外顆を結んだ線とで測れる、大腿骨頸部と大腿骨体の捻れの角度の事です。平均角度は、15°程でこれよりも前捻角が大きい事を過前捻、少ない事を後捻と言います。

 

具体的に、過前捻だったり、後捻だった場合、何が起きるのでしょうか。下の画像をご覧ください。

膝蓋骨が正面を向いている時、正常の股関節は中間位となっています。しかし、過前捻の方は、正常の前捻角より外旋方向に捻じれているため、膝蓋骨は正面を向いているけど、股関節は外旋位になっています。また、後捻の方は、正常の前捻角よりも内旋方向に捻じれているため、膝蓋骨は正面を見ているけど、股関節は内旋位になっています。

 

この膝蓋骨は正面を向いているけど、股関節は外旋位になっていたり、内旋位になっているというのが前捻角の影響を理解するにあたって一番重要なポイントとなります。

影響1 過前捻の人は股関節前方にストレスがかかり易い

影響その1として、大腿骨前捻角が過前捻になっていると、股関節前方にストレスがかかりやすくなります。これは上述したように、過前捻の人は膝蓋骨が正面を向いている時に股関節は外旋位になっているからです。

股関節が伸展位の時に外旋位になると大腿骨頭は前方を向き股関節の前方が不安定になるため、腸腰筋などの股関節前方にある組織にストレスがかかりやすくなります。ちなみに過前捻の人は、股関節を中間位にするために大腿骨を内旋位にすることが多いです。

パット見た感じは、股関節内旋位になっているため、「アライメント不良だ!」として中間位に修正してしまうと、股関節外旋位となってしまい、それが原因で股関節の前方を痛めてしまう危険があります。

 

よって、特に臼蓋形成不全症や変形性股関節症など股関節に問題がある方で、パット見た感じ大腿骨が内旋位になっている場合であってもむやみに中間位に修正してはいけないという事を覚えておいてください。

影響2 後捻の人は屈曲時に前方インピンジメントしやすい

通常、股関節を屈曲していくと約90°で下前腸骨棘と大腿骨頚部がインピンジメントすると言われています。

参考:股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。(中略)関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。 吉尾雅春ら 「新鮮凍結遺体による股関節屈曲角度」 理学療法学Supplement 2003(0), A0922-A0922, 2004

よって、正常の前捻角の人であっても股関節を内外旋中間位で屈曲していくと、屈曲は90°程度までしか曲がりません。ところが、上述したように大腿骨が後捻している人は、膝蓋骨が正面を向いていても股関節は内旋位になっています。

 

股関節が内旋位になると大腿骨頸部は前方にせり出してくることになるので、より少ない角度でインピンジメントします。なので膝蓋骨が正面を向いた状態で股関節を屈曲させても、股関節は屈曲・内旋位となってしまう為正常の前捻角の人と比較して、浅い屈曲角度で前方インピンジメントを生じます。

このことを知らずに、大腿骨が後捻している人に対して、「曲げるのが固いですねー」と言いながら股関節を外旋せずにまっすぐと屈曲し続けて股関節の前方関節唇を損傷してしまうなんて危険がありますので必ず頭に入れておきましょう!

 

また、正常の前捻角であっても股関節を屈曲する際には、インピンジメントを避けるために軽度外旋位で屈曲する必要がありますが、大腿骨が後捻している人は、正常の前捻角の人と比べて、より股関節を外旋をさせながら屈曲させる必要があります。

股関節の屈曲可動域訓練を行う際には、大腿骨前捻角の事も頭に入れながら、どれくらい外旋させながら行うかを調整してみてください。

影響3 過前捻の人はknee-inし易い

最後に前捻角が膝関節に及ぼす影響について、紹介いたします。股関節の前捻角が過前捻になっている方は、上述したように膝蓋骨が正面を向いている時に股関節は外旋位になっており、股関節を中間位にする為に大腿骨を内旋させて立位を取る場合が多いです。

 

つまり、股関節は中間位でも膝蓋骨は内側を向いているという状態です。

よって必然的にknee-inが原因として生じる障害を起こしやすくなります。特にジャンプからの着地動作でknee-inが生じるとACL損傷のリスクが非常に高くなるので、バスケットボールなどのジャンプが多い競技の選手を見る際には大腿骨の前捻角を必ず確認し、過前捻の選手には特に着地のフォームを指導する必要があると考えられます。

まとめ

・前捻角を理解するには、膝蓋骨が正面に向いている時に股関節がどうなっているかを理解する必要がある

・膝蓋骨が正面を向いている時、過前捻の人は股関節外旋位になっており、後捻の人は内旋位になっている。

過前捻の人は、伸展・外旋位になりやすく立位や歩行で股関節前方にストレスが掛かりやすい

後捻の人は、股関節屈曲時に内旋位になりやすく、前方インピンジメントが生じやすい

過前捻の人はknee-inになりやすい為、knee-inが原因で生じる障害を起こしやすい

以上参考になれば嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

THA術後の理学療法3つの課題

前回TKA術後理学療法の講習会は大人気となり、アンケートでも特に要望の多かったTHA術後理学療法についてお話しいただきます。宮嶋先生は、全国的にみても非常に多くのTHAを行っている病院に勤務した経験があり、これまで400例以上のTHA術後患者さんを診てきました。THA術後の理学療法で重要となってくるのが、

(1)脱臼に対する対応
(2)脱臼させずに屈曲可動域を向上させる事
(3)跛行に対する治療

だと思います。今回は、その3つについて徹底的に深く且つわかりやすく解説したいと思います。今回のセミナーに参加して頂くと、

・脱臼についての不安が軽減し、自信を持ってADL指導が出来る
・脱臼におびえずに屈曲可動域を向上させられる
・しっかりとプロトコール通りに退院させることができ、医師や上司に信頼される
・「歩き方が綺麗になった」と患者さんに喜んでもらえる

といったことが出来るとようになります。

*1週間限定のアーカイブ配信あり。

プログラム

(1)THAの脱臼について徹底解説
・THAはそもそも何故脱臼するのか?
・脱臼しやすいTHAの条件(侵入方法、カップの前開き、外開き、骨頭径)
・知らないと危ない骨盤と大腿骨前捻角の影響
・脱臼予防方法について

(2)THA後屈曲可動域の改善方法
・脱臼しない股関節屈曲可動域訓練
・股関節屈曲の3大制限因子
・人工関節特有の曲げ方とは?

(3)THA後に多い跛行への評価・治療
・反り腰歩行への評価・治療
・デュシェンヌ歩行への評価・治療
・疼痛への恐怖が強い人への対応

講師:
Confidence代表
宮嶋 佑(理学療法士)

概要

【日時】 7月30日(日) AM10:00~12:00
【参加費】3,300円
【定員】50名 
【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。

お申し込み▶︎https://tha-physicaltherapy.peatix.com/

大腿骨前捻角の違いを臨床にどう活かすのか?

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