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座っている時間が長いほど死亡率が増加する その効果は、余暇時間の運動活動量を増やしても、完全に抑制されない

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京都府立医科大学大学院医学研究科 地域保健医療疫学 小山講師らの研究グループは、J-MICCSTUDY(日本多施設共同コーホート研究)の一環として座っている時間と死亡率の関係について研究を行い、6 万人を超える日本人を 7.7 年間追跡したデータを用いて、座っている時間が長いほど死亡率が増加することを確認し、この研究成果が 2021 年 6 月 14 日にアメリカ心臓協会(American Heart Association)が発刊する「Journal of the American Heart Association」に掲載されましたので、お知らせします。

 

研究の概要

座っている時間(座位時間)が長いことで、血行不良と代謝の低下を引き起こすことにより、死亡率増加や循環器疾患発症と関わることがいくつかの国から報告されています。一方、他国と比較して、日本国内での座位時間に着目した研究は限られていました。これまでに日本人の解析対象者が 1 万人を超えるような大規模調査としては、①仕事中に座っている時間と死亡率の関係、②テレビ視聴時間と循環器疾患死亡の関係が報告されています。そこで今回は、6 万人を超える日本人を平均 7.7 年間追跡したデータを用い、日中の座位時間と全死亡(全ての死因を含む)の関係を、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の有無と、余暇時間の運動量に分け、検討しました。解析の結果、下記が明らかとなりました。

 

①日本人の大規模研究として、初めて仕事中の時間および余暇時間を含む全ての日中の座位時間が長いほど死亡と関係することが明らかとなりました。

②高血圧、脂質異常症、糖尿病の有無に関わらず、日中の座位時間の長さに伴い死亡率が高くなります。また、高血圧、脂質異常症、糖尿病の保有数が増えるほど、死亡率が高くなることが認められました。

③余暇の身体活動量を増やしても、日中の座位時間の長さと死亡の関連を、完全に抑制するには至らないことが明らかとなりました。

 

参加者全体では、日中の座位時間が 2 時間増えるごとに、死亡率は 15%増加することが認められました。生活習慣病の有病者ごとに検討すると、脂質異常症では 18%、高血圧では 20%、糖尿病では 27%の死亡率増加が認められました。余暇時間の身体活動(METs:身体活動の強度基準)量に応じて、4 群に分けて解析してみると、余暇時間の身体活動が増えても、座位時間による死亡率の減少効果はわずかでした。本研究者らは、2020 年に、今回の解析と同じデータセットを用い、日中の座位時間と生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の関係を報告しています。これらの研究成果から、中年期以降の日中の座る時間は、生活習慣病の発症および死亡にまで関係することが示唆されます。

 

研究方法

日本多施設共同コーホート研究(J-MICC study)の調査に参加した、64,456 名(男性 29,022名、女性 35,434 名)を解析対象者と、平均 7.7 年間追跡調査したデータを用いました。睡眠時間を除く日中の行動時間は、国際標準化身体活動質問票をベースとした質問票を用い、日中の座位時間の長さと、全死亡(全ての死因を含む)の関係を、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の有無に分け、検討しました。日中の座位時間は、質問票をもとに以下の 4 群に分けて解析を行いました。

 

①5 時間未満 ②5 時間から 7 時間未満 ③7 時間 9 時間未満 ④9 時間以上

調整因子は、年齢、性別、居住地域、飲酒の有無、喫煙の有無、脳卒中既往歴、虚血性心疾患既往歴、高血圧・脂質異常症・糖尿病に対する服薬状況、余暇時間の活動量(METs)としました。

 

研究結果

参加者全体では、日中の座位時間が 2 時間増えるごとに、死亡率は 15%増加することが認められました。生活習慣病の有病者では、脂質異常症では 18%、高血圧では 20%、糖尿病では 27%の死亡率増加が認められました(図 1 参照)。

 

生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の保有数に応じて、座位時間と死亡の関係は大きくなり、生活習慣病を保有していない人では、日中の座位時間が 2 時間増えるごとに、死亡率は13%増加となりますが、3 つ全て保有している人では、42%も死亡率が高くなることが示されました(図 2 参照)。

 

 

次に、身体活動量が増えると座位時間が長いことによる死亡のリスクを下げることができるか検討するために、余暇時間中の身体活動(METs:身体活動の強度基準)の量に応じて、4 群に分けて解析してみました。余暇時間中の身体活動が増えても、座位時間による死亡率の減少効果はわずかでした(図 3 参照)。

 

研究者のコメント

座位時間が与える健康への悪影響についてはたくさんの報告があり、他国ではガイドラインを作成するなど、座位時間を少なくするよう提言しています。国際標準化身体活動質問票が作られた 2011 年のデータ(日本人 5,000 人)によると、日本人の座位時間は、世界で一番長いという結果が出ています(右下図参照)。一方、日本人を対象とした座位時間に関する大規模研究は限られた条件下のみであり、私は座位時間が及ぼす健康影響に関する研究に取り組み、日中の座位時間と生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の関係内臓脂肪との関係を報告してきました。

 

いずれの研究も余暇の身体活動量を増やしても、座位時間が及ぼす健康影響の減少効果はわずかであることから、成人の座っている時間を短縮することを実践することが求められます。

 

コロナ禍のテレワーク普及により、今後も在宅業務による家庭内デスクワークの増加が予測されます。在宅業務は、通勤時間が削減されるため、身体活動の低下に加え、座位時間の延長に繋がる可能性があります。

 

連続する座位時間を中断することの重要性も報告されているため、こまめに動くことで連続した座位時間をなくす心がけを持つことが大事だと考えています。

 

 

発表論文

雑誌名: Journal of the American Heart Association 誌

論文名: Effect of Underlying Cardiometabolic Diseases on the Association BetweenSedentary Time and All‐Cause Mortality in a Large Japanese Population: A Cohort Analysis Based on the J‐MICC Study

掲載日:2021 年 6 月 14 日

オンライン閲覧:https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.120.018293

 

研究者と研究施設

本研究は、J-MICC STUDY(日本多施設共同コーホート研究)の一環として実施されました。J-MICC STUDY とは、2005 年から全国 13 の研究グループが共同して、10 万人以上の人々の健康状況を 20 年にわたって追跡し、どのような人がどのような環境の下でどのような病気になりやすいかを調べるものです。

 

【著者】

Teruhide Koyama1, Etsuko Ozaki1, Nagato Kuriyama1, Satomi Tomida1,2, Tamami Yoshida1,Ritei Uehara1, Keitaro Tanaka3, Megumi Hara3, Asahi Hishida4, Rieko Okada4, Yoko Kubo4,Isao Oze5,Yuriko N Koyanagi6, Haruo Mikami7, Yohko Nakamura7, Ippei Shimoshikiryo8,Toshiro Takezaki8, Sadao Suzuki9, Takahiro Otani9, Kiyonori Kuriki10, NaoyukiTakashima11,12, Aya Kadota12, Kokichi Arisawa13, Sakurako Katsuura-Kamano13, HiroakiIkezaki14, Masayuki Murata14, Kenji Takeuchi4, and Kenji Wakai4for the Japan Multiinstitutional Collaborative Cohort (J-MICC) Study Group

【所属】

1京都府立医科大学大学院 医学研究科 地域保健医療疫学

2京都府立医科大学大学院 医学研究科 内分泌・乳腺外科

3佐賀大学医学部 社会医学講座 予防医学分野

4名古屋大学大学院 医学系研究科 予防医学

5愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野

6愛知県がんセンター研究所 がん情報・対策研究分野

7千葉県がんセンター研究所 がん予防センター

8 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 国際離島医療学

9 名古屋市立大学大学院 医学研究科 公衆衛生学分野

10 静岡県立大学 食品栄養科学部

11 近畿大学 医学部 公衆衛生学教室

12 滋賀医科大学 社会医学講座 公衆衛生学部門

13 徳島大学大学院 医歯薬学研究部 予防医学分野

14 九州大学病院総合診療科

詳細▶︎https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2021/20210625.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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