キャリアコンサルタントが徹底サポート

子どもの歯ぎしりが発生する眠りのしくみを解明 睡眠の周期的変化が歯ぎしりの発生に重要

3781 posts

研究成果のポイント

  • ・世界で初めて、眠っている子どもの歯ぎしりの発生メカニズムを解明
  • ・睡眠が正常でも、歯ぎしりが睡眠周期の特定の時期に集中して発生する
  • ・様々なタイプの歯ぎしりの診断や異常な歯ぎしりのメカニズム解明へ期待

 

概要

睡眠時ブラキシズムは、夜間睡眠中に歯ぎしりをする睡眠関連疾患です。大阪大学大学院歯学研究科の大学院生白石優季さん(研究当時、現歯学部附属病院医員)、加藤隆史教授らと、同連合小児発達学研究科・谷池雅子教授らの研究グループは、睡眠時ブラキシズムの子どもでは、歯ぎしりが睡眠周期に合わせて繰り返し増減することを世界で初めて明らかにしました。

子どもの睡眠時ブラキシズムは睡眠や発達の障害などが原因であると考えられ、様々なタイプが存在するとされていますが、歯ぎしりが睡眠中にどのようにして発生するのか不明でした。

今回、研究グループは、明らかな睡眠の病気がなく、発達にも問題のない6歳から15歳の子どもに睡眠検査を実施し、一晩の睡眠の深さや自律神経系活動の変化を数値化したところ、歯ぎしりをする子どもでは、レム睡眠に向けてノンレム睡眠が浅くなり交感神経系活動が高まる間に歯ぎしりが集中して発生し、睡眠周期ごとの歯ぎしりの増減があることがわかりました。また、歯ぎしりに伴って寝返りや一時的な脳波の変化が起こることも明らかになりました。これにより、子どもの歯ぎしりの発生には、睡眠周期にともなう脳機能の変化が伴っていることが明らかとなり、診断方法や治療法に向けた新たな研究への発展が期待できます。

本研究成果は、米国科学誌「Sleep」に、6月30日(水)に公開されました。

 

図 歯ぎしりや脳波、自律神経系活動の一晩の変動

 

研究の背景

子どもの睡眠時ブラキシズムは、約20%の子どもで発生します。眠っている子どもが嫌な歯ぎしりの音を発するので、養育者が不安を感じて歯科医師に相談することが少なくありません。ひどい歯ぎしりによって、乳歯が大きく擦り減ったり、顎に痛みが生じたりすることがあります。しかし、そのメカニズムは不明で、異常な歯ぎしりの診断方法や治療法がなく、対処療法や経過観察しかできないのが現状です。歯ぎしりのメカニズム解明には、睡眠や発達に問題がない子どもで、睡眠中の脳や心臓、呼吸、顎の筋肉の活動を記録する必要があります。しかし、子どもの協力を得て睡眠を記録しないといけないこと、生体信号データを分析する専門技術が必要なことから、世界的に研究が進んでいません。

今回、研究グループでは、専用の睡眠検査室を歯学研究科に整備し、睡眠検査のゴールドスタンダードであるポリソムノグラフィー検査を6歳から15歳の子どもに実施し、44人中15人(27.3%)の子どもに歯ぎしりを認めました。また、歯ぎしりをする子どもと、歯ぎしりをしない子どもについて、脳波のパワースペクトルや心拍の変動、体動を詳細に解析しました。すると、睡眠の質には差がないものの、睡眠周期ごとの歯ぎしりの発生を調べると、各睡眠周期の後半でレム睡眠へと移行する浅いノンレム睡眠で、最も頻繁に歯ぎしりが発生することがわかりました。このとき、睡眠の深さを示すδ波が減少し、交感神経系活動が増加しましたが、歯ぎしりをする子どもとそうでない子どもで差はありませんでした。しかし、体動の数や脳の覚醒の指標であるβ波の活動は、歯ぎしりをする子どもの方が高い値を示し、約90%の歯ぎしりが短い覚醒や体動とともに発生することが明らかとなりました。以上より、健康な子どもでは、歯ぎしりは、睡眠周期に伴う脳内活動の変化に対して、歯ぎしりをする顎の神経機構が過剰に反応することで生じる可能性が明らかとなりました。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究によって明らかにされた子どもの睡眠時ブラキシズムの病態メカニズムをもとに、疾患を持つ子どもの異常な歯ぎしりのメカニズムの解明や、睡眠時ブラキシズムの分類や診断方法の開発などに寄与することが期待できます。

 

特記事項

本研究成果は、2021年6月30日(水)に米国科学誌「Sleep」に公開されました。

タイトル:“Relationships between cortical, cardiac, and arousal-motor activities in the genesis of rhythmic masticatory muscle activity across sleep cycles in primary sleep bruxism children”

著者名:Yuki Shiraishi1,2, Masaya Tachibana3,4,5, Ai Shirota2, Ikuko Mohri3,4,5, Masako Taniike3,4,5, Takashi Yamashiro1 and Takafumi Kato2,3,5* (*責任著者)

  1. 1,大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室
  2. 2,大阪大学大学院歯学研究科口腔生理学教室
  3. 3,大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター
  4. 4,大阪大学大学院医学研究科小児科学教室
  5. 5,大阪大学医学部附属病院睡眠医療センター

なお、本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」による大阪大学COI拠点(乳幼児からの健やかな脳の育成による積極的自立社会創成拠点)としての研究開発および日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金研究の一環として行われました。

 

この研究についてひとこと

子どもの睡眠は成長発達に極めて重要です。幅広い年齢のお子さんの睡眠を記録し解析することで、「健康な睡眠」の指標や、子どもの睡眠異常のしくみを解明することにつながります。

加藤隆史 歯学研究科 教授

 

睡眠時ブラキシズム

睡眠中の歯ぎしり。リズミカルに上下の歯を擦り合わせたり、噛みしめたりする運動が発生する睡眠関連疾患。

 

睡眠周期

通常、寝始めは浅いノンレム睡眠から始まり、深いノンレム睡眠へ移行する。その後一度睡眠が浅くなり、レム睡眠が出現する。このノンレム睡眠とレム睡眠の移り変わりの1セットを睡眠周期と呼び、一晩に4~5回繰り返す。

 

レム睡眠

睡眠中に眼球が素早く動き、脳波が起きている状態と似た状態となる睡眠をレム睡眠、そうでない睡眠をノンレム睡眠と呼ぶ。レム睡眠中は、交感神経系活動が活発になり、血圧や呼吸数、呼吸リズム、心拍数などが不安定となる。また、ノンレム睡眠は浅い睡眠から深い睡眠まで3段階に分かれる。深いノンレム睡眠では、δ波が出現し副交感神経系活動が優位となるが、浅いノンレム睡眠ではδ波はなくなり呼吸数や心拍数が高くなる。

 

ポリソムノグラフィー検査

身体に電極やセンサーを装着し、睡眠中の脳や心臓、呼吸、顎の筋肉の活動を記録する検査。睡眠検査のゴールドスタンダードとされる。

 

詳細▶︎https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210705_1

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

子どもの歯ぎしりが発生する眠りのしくみを解明 睡眠の周期的変化が歯ぎしりの発生に重要

最近読まれている記事

企業おすすめ特集

編集部オススメ記事