今回は、股関節屈曲可動域制限の評価・治療法について紹介します。股関節屈曲可動域は、股関節疾患だけでなく腰椎疾患や膝関節疾患、さらにはスポーツ動作のパフォーマンス向上など様々な事に影響を及ぼします。この記事では、
①股関節の正しい曲げ方
③臨床で多く遭遇する制限因子
③制限因子の評価方法
の順に解説していきます。「股関節の正しい曲げ方って、頸部軸に曲げるって事でしょ 知っているよ」という方は、①は飛ばしていただいて、②から読んでいただければと思います。最後まで読んでいただくことで、股関節屈曲制限に対して自信をもって介入できるようになると思います。それでは参りましょう!
①正しい股関節の曲げ方
まず初めに正しい股関節の屈曲方法について説明しておきます。股関節屈曲は、まっすぐ曲げるのではなく大腿骨頸部を軸とし、外転・外旋方向に曲げていくのが正しい方法です。
これは何故かというと、股関節をまっすぐ屈曲していくと屈曲約90°で大腿骨頸部と関節唇がインピンジメントするからです。
対して、股関節外転位で屈曲した場合110°以上屈曲することが出来ます。
引用元
股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。外転位の最大屈曲角度は115.4±9.2度(中略)関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった
吉尾雅春ら 「新鮮凍結遺体による股関節屈曲角度」 理学療法学Supplement 2003(0), A0922-A0922, 2004
よって、股関節屈曲は外転・外旋方向に曲げるのが正しい方法となります。
②臨床で良く遭遇する制限因子
続いて僕が普段臨床で、制限因子になっている事が多いなと感じる組織について紹介します。僕が新人の頃は、股関節屈曲の制限因子と言えば”大殿筋”しか思い浮かびませんでしたが、大殿筋が制限因子になる事は、ほとんどありません。では何が多いかと言うと、
①大腿方形筋
②大内転筋
③中殿筋
の3つが多いと感じています。
①大腿方形筋
大腿方形筋は深層外旋六筋の一つであり、一見屈曲制限と関係なさそうですが、下の図のように股関節を屈曲・外転すると伸長されます。
また、股関節屈曲、屈曲・外転、屈曲・外転・外旋で大腿方形筋が伸長される様子を観察した研究もあります。
一方、屈曲に伴い梨状筋及び大腿方形筋が伸張され、外転に伴い梨状筋、上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが、大腿方形筋、外閉鎖筋は伸張された.
複合的な運動では、屈曲位からの外転では梨状筋や上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが、大腿方形筋は伸張され、
さらに外旋が加わると大腿方形筋は最大限に伸張され、筋線維が切れる程であった.
吉田 啓晃, 木下 一雄, 平野 和宏, 中山 恭秀,他 「股関節屈曲・外転・外旋肢位の制限因子の検討」
理学療法学Supplement/Vol.36 Suppl. No.2 太字はスライド作成者が編集
私も普段臨床場面において大腿方形筋にアプローチをしたら屈曲可動域が向上するというケースは非常に多いと感じています。屈曲可動域制限がある方は、まず確認してみてください。大腿方形筋の触診は以下の画像を参考にしてみて下さい。
②大内転筋
次は大内転筋です。こちらも「内転筋なのになぜ?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、大内転筋は恥骨大腿部と坐骨顆部に分けることができ、坐骨顆部は坐骨結節から起始し内転筋結節に付着する事から、走行がハムストリングスと似ています。更に、坐骨顆部は脛骨神経支配である為、これもハムストリングスと同じです。
このことから、大内転筋をmini hamstring(ミニハムストリング)と紹介する論文もあります。
大内転筋の坐骨顆部は、筋の走行上、股関節屈曲によって伸長されます。また、ハムストリングであれば、膝関節屈曲によって弛緩しますが大内転筋は膝関節は跨がない為、膝関節を屈曲した股関節屈曲でも強く伸張されます。よって大内転筋は股関節屈曲制限因子になるという事です。大内転筋の触診は以下の画像で確認してください。
③中殿筋
3つ目は中殿筋です。こちらも代表的な作用としては股関節外転になるので、「なぜ屈曲制限に?」と思う方も多いと思います。しかし下の写真の様に股関節を屈曲すると中殿筋が伸長される様子が観察されます。
なぜ中殿筋が屈曲によって伸長されるかというと、上述した様に股関節を屈曲する際には外旋を伴うからです。中殿筋の前部線維は股関節が屈曲位になると股関節内旋作用となり、外旋によって伸長されます。屈曲外旋方向に屈曲していくと中殿筋が伸長されるという訳です。中殿筋による制限は、特に前側方アプローチで人工股関節全置換術を行った患者さんや転子部骨折でγ-nailを使用した固定術を行った患者さんに多いです。中殿筋前方線維の触診は下記の画像で確認してみてください。
③制限因子の評価方法
最後に、どうやって制限因子を特定していくか?について紹介します。結論から申し上げますと、股関節を最大限に曲げる前と後でどこの組織が緊張するか?を探すことで制限因子を特定できます。この際に大事になってくるのが、なるべく手を使わずに股関節を動かすことです。
下の画像をご覧ください↓
このように患者さんの下肢をセラピストの足の上に載せて、体を使って屈曲させることでセラピストの手は触診に使うことが出来ます。そして、上述した制限因子になることが多い組織を触診しながら股関節を最大限まで屈曲し、触診している組織が、曲げる前と比べて曲げた後に緊張が増加するようなら制限因子になっていると考えます。
もしも、どの組織の緊張も増加しない場合は、関節包由来の制限と考えて、とにかく時間をかけてストレッチしてみてください。このように評価していけば、股関節屈曲の制限因子が分かりやすく評価できると思いますよ。
まとめ
・股関節を屈曲する際には外転外旋方向に屈曲させる
・制限因子としては、
①大腿方形筋
②大内転筋
③中殿筋
が多いので確認してみてください評価する際には、組織を触診しながら股関節を最大屈曲させて、曲げた後で緊張が増加する組織を探す以上参考になれば嬉しいです!最後まで読んでいただきありがとうございました!
THA術後の理学療法3つの課題
前回TKA術後理学療法の講習会は大人気となり、アンケートでも特に要望の多かったTHA術後理学療法についてお話しいただきます。宮嶋先生は、全国的にみても非常に多くのTHAを行っている病院に勤務した経験があり、これまで400例以上のTHA術後患者さんを診てきました。THA術後の理学療法で重要となってくるのが、
(1)脱臼に対する対応
(2)脱臼させずに屈曲可動域を向上させる事
(3)跛行に対する治療
だと思います。今回は、その3つについて徹底的に深く且つわかりやすく解説したいと思います。今回のセミナーに参加して頂くと、
・脱臼についての不安が軽減し、自信を持ってADL指導が出来る
・脱臼におびえずに屈曲可動域を向上させられる
・しっかりとプロトコール通りに退院させることができ、医師や上司に信頼される
・「歩き方が綺麗になった」と患者さんに喜んでもらえる
といったことが出来るとようになります。
*1週間限定のアーカイブ配信あり。
プログラム
(1)THAの脱臼について徹底解説
・THAはそもそも何故脱臼するのか?
・脱臼しやすいTHAの条件(侵入方法、カップの前開き、外開き、骨頭径)
・知らないと危ない骨盤と大腿骨前捻角の影響
・脱臼予防方法について
(2)THA後屈曲可動域の改善方法
・脱臼しない股関節屈曲可動域訓練
・股関節屈曲の3大制限因子
・人工関節特有の曲げ方とは?
(3)THA後に多い跛行への評価・治療
・反り腰歩行への評価・治療
・デュシェンヌ歩行への評価・治療
・疼痛への恐怖が強い人への対応
講師:
Confidence代表
宮嶋 佑(理学療法士)
概要
【日時】 7月30日(日) AM10:00~12:00
【参加費】3,300円
【定員】50名
【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。