今年6月会長候補者選挙で選出された斉藤秀之氏が、第9代会長として理事会で承認された。今年の介護報酬改定後も、22年の診療報酬改定、23年のWPT総会東京開催、24年の診療・介護・障害福祉サービス等報酬同時改定など気の抜けない日々が続く。
お世辞にも追い風とは言えない現在の理学療法士業界において、なぜ協会長として立候補したのか?その決断までの、心情を取材した。前編では、13万人弱の会員を有する組織のトップとなる新会長が考えるリーダー論を伺った。
後編では、インタビューアーである私(今井)が一会員としてもつ疑問「我々会員は協会に何を期待すればいいのか?」について伺った。回答を吟味しながら「今と昔では変わった」と会員の期待が時代によって変化していると語った後編、理学療法士協会の新リーダーが考える未来を共有したいと思う。
注)緊急事態宣言中のため取材はZOOMにて実施。
ー 斉藤先生が会長に就任をされることを決意されたタイミングはいつ頃でしょうか?また、前・半田会長の次にご自身が会長になられるという空気は感じていらっしゃいましたか?
斉藤新会長(以下、斉藤):最終的に決断したのは、会長候補者選挙の告示が出た頃でしょうか。それ以前からも、私が次期会長に就任する雰囲気は感じていませんでした。当時の情勢を考慮すると、先代(半田会長)がもう一期続けられることは選択肢としてあると思っていましたし、継続するご意志を表明されれば今後もお支えし続けるつもりでいました。私としては何か求められれば断るつもりはありませんでした。組織人としては半田前会長をサポートする気持ちが強かったということです。
ーご自身が選出されるまでの期間で、どなたかに相談されたり葛藤を感じられたりしたことはございませんでしたか?
斉藤:本音で相談した人は何人もいますが、やはり状況を俯瞰で見られているような役員の方に相談しました。その他にも、後輩で特に頑張っている若手の中で「斉藤さん、それは違う」とはっきり言えそうな人に電話をして、最終的には妻に相談しました。
ーその時のご心境は、「不安」からくる相談なのか「決断の後押し」なのかどちらでしたか?
斉藤:このお話が出てきた当初に「なぜ協会のために働き続けてきたのか」を振り返ってみると、会長というポジションに挑戦してみたいという気持ちに気付かされました。まだその時点では決断しきれませんでしたが、「(私に)会長をやってほしい」という意見が圧倒的に多かったので、最終的には自分の中の迷いを完全払拭するために相談しました。その中で「まだ止めておけ」とおっしゃる方もいらっしゃいましたが、私の率直な気持ちをお伝えすると「覚悟は伝わったからやってみては」というお言葉をいただき決断できました。私自身の覚悟が周囲に伝わるかどうかが一番ポイントなのかもしれません。
ー 業界がお世辞にも追い風とは言えないこのタイミングで、斉藤会長が会長就任のご決断をされたので、当然色々な葛藤をお持ちだと思いますがいかがでしょうか?
斉藤:まず、会長に就任する前からここ数年の協会と政治活動の関係が非常に気になっていました。うちの業界がこの点において成熟していないなと痛感しました。その時に、私が会長のポジションをいただけるのであれば、きちんとした姿勢を示したいという思いがありました。会員の方に今までのような嫌な思いはして欲しくないという気持ちが強かったです。
これからは、私が公益社団法人のリーダーとして、政治団体との「正しい峻別」を会員の皆様にしっかりと説明し、一致団結し(業界に)追い風を吹かせなくてはいけないと思っています。それを実現させるためにも、私にそのエネルギーのあるうちに会長を努めたいというのが大きい動機かもしれません。また、これから少しずつ役割分担をして、「皆で“三本の矢、四本の矢”になってやっていく体制の基盤を作る」と思えたのが、決断の要因になったのも事実です。
こんなこと言うと怒られてしまうかもしれませんが、個人的にはあまり長く今のポジションにいるつもりはありません。私が何十年も腰を据えてしまったら、この業界は間違いなく遅れてしまうと思うからです。それを防ぐためにも、会長職に就きたいと思う人がたくさん出てくるようにしなくてはいけないと感じています。協会トップの職に対して夢を持って頂けたら嬉しいです。
ー 斉藤会長の決断力は私の想像を超えたもののように感じています。決断の際の流儀などありますか?
斉藤:誰もやっていなければやった方がいいということですね。前例がないということは、文句は言われにくいですから。そして、もしかしたらそれがきっかけで違う自分が見いだせる可能性があると思います。誰もやってないことをやれと言われたら、チャンスと思った方がいいでしょう。悩んでいたり行き詰まっていたりする時は、人からの評価に便乗するのも一つの手段だと思います。
ー 誤解を恐れずに言いますと「組織はトップの器以上にならない」と言われます。組織のトップ、リーダーとしての資質は、ご自身の中で感じられていますか?
斉藤:あまり感じてはいません。色々な人を見ているとリーダーになる人、真のリーダーは人の言うことは聞かずに自分の考えをビシッと通して無駄なことしない人だと思います。しかし、実は皆さんとても面倒見のいい方ばかりです。つまり、意志が強く頑固で人には厳しいけれど、自分にも厳しく人にも自分にも優しい人こそリーダーになるべき人でしょう。
私は「利他で利己を得る」「間違っていなければ多少挫折があっても必ず最後は勝つ」という信念を持っています。意志の強さや強情さがありつつもチャーミングな人こそが、リーダーになっているのではないでしょうか。
ー 今のお話をうかがっていると半田前会長がそのような人だったのかと推測できますが、いかがでしたか?斉藤先生からご覧になった半田先生のリーダーシップと、斉藤先生が目指すリーダーシップとの違いを教えていただけますか?
斉藤:確かに先代はそういうところがあります。先代はご自身でなんでもできるスーパーマン管理者でした。私は同じようには絶対にできないでしょう。
私は人の真似をするのが得意だとよく言われるので「ずるいリーダー」だと思います。「模倣と創造」と昔から言っているのですが、良いものは真似して自分たちに合った形に変えていくのが一番効率的だと思っています。(リーダー論の)原理原則さえ分かっていれば、あとはどのシチュエーションでどう使うかというだけなのです。もしかしたら、私は理屈っぽいリーダーかもしれません。逆に半田先生は感覚的・職人的リーダーでした。そして、半田先生も私も「人が好き」だと思います
ー 斉藤会長が就任されて、私たち会員の意見を取り上げていただきやすい環境になったと考えてよろしいでしょうか?
斉藤:組織が若返った一番のメリットはその点だと思っています。若い人たちの気付きは私たち世代の気付きとは違うはずなので、今現場で働いている人の意見を上げてもらえるとピンポイントでコミットしやすくなるでしょう。
あとがき…
“学ぶ”は“まねぶ”と同源で“まねる”とも同じ語源と言われる。その意味において、ずるいリーダーと呼称する斉藤氏は、様々な意見を取り入れ、組織活動に活かす。これを達成するためには、会員とより近い位置での情報共有が鍵を握るだろう。若返りを図る協会組織に対して、我々は何を期待すべきなのか?後編に続く。
【目次】
前編:組織はトップの器以上にならない