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要介護高齢者の活動性QOLおよび摂食嚥下機能の関連 ―摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な患者に対する新たなアプローチ―

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ポイント

  •  ・要介護高齢者を対象に、離床・外出等の活動性および QOL と摂食嚥下機能との関連を調べました。
  •  ・介護状態に関わらず、離床・外出をして QOL が高い者は摂食嚥下機能が良い傾向でした。
  •  ・活動性や QOL 向上は要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションに有効である可能性があります。
  •  ・機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者に対するアプローチの選択肢の多様化に繋がります。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、中川量晴助教、石井美紀(大学院生)の研究グループは、65 歳以上の要介護高齢者に対する摂食嚥下リハビリテーションとして、離床・外出を促し、QOL(Quality of Life)を高めるような心理的アプローチが有効である可能性を示しました。この研究成果は、国際科学誌 Gerontology に、2021 年 9 月 28 日にオンライン版で発表されました。

 

研究の背景

摂食嚥下リハビリテーション※1 は、摂食嚥下関連筋を鍛える訓練により機能向上を目指します。しかし、日常生活動作(Activity Daily of Living, ADL)が自立していない要介護高齢者は、そもそも訓練の実施が困難である場合が多いため、そのような者に対するアプローチを考えることが臨床的に大変重要です。近年、QOL を考慮した医療の研究が進んでいます。QOL と摂食嚥下機能の関係に着目すると、ADL が自立した高齢者のうち摂食嚥下機能が低下している者は QOL が低いという報告があります。つまり思ったように食事を摂れなくなるとQOL が低下するということです。一方で、訪問診療や訪問介護サービスを利用する ADL が自立していない要介護高齢者を対象とした研究は少なく、QOL が摂食嚥下機能に関連するかは十分に検討されていませんでした。また、離床※2 して活動したり、外出したりする人は生活の質が高い傾向にあります。離床や外出は身体機能と関連するだけでなく、日常生活における楽しみとなり QOL の向上につながるなどの心理的な面も持ち合わせています。しかし、離床や外出と摂食嚥下機能との関連に着目した研究はありませんでした。そこで本研究では、ADL が低く、摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者を対象に、離床や外出等の活動性および QOL と摂食嚥下機能との関連を明らかにすることを目的としました。

 

研究成果の概要

本研究は、質問紙調査形式で行われました。対象者は、首都圏在住で本学摂食嚥下リハビリテーション科から訪問診療を行った ADL が自立していない要介護高齢者です。年齢、性別、BMI (Body Mass Index)、生活場所(自宅または施設)、ADL、意識レベル(Glasgow Coma Scale, GCS) ※3、開眼機能、誤嚥性肺炎の既往および併存疾患(Charlson Comorbidity Index, CCI) ※4、服薬種類数、外出の有無、離床時間を調査しました。ADLは要介護認定の基準を参考に、Group1:介助がなければ歩行や立ち上がりができない人(要介護 3 相当)、Group2:介助があっても歩行や立ち上がりが困難な人(要介護 4 相当)、Group3:ほとんど寝たきりの人(要介護5 相当)に分類しました。離床時間は、先行研究を参考に離床時間が 0 時間、0-4 時間、4-6 時間、6 時間より長い、の 4 段階としました。QOL の評価には Quality of Life Questionnaire for Dementia (short QOL-D) ※5 を用いました。摂食嚥下機能は Functional Oral Intake Scale(FOIS)※6 を用いて評価し、FOIS Lv.1-3(経管栄養のみ、または併用)、4、5、6 および 7 の 5 段階に分類しました。

 

データの解析は、摂食嚥下機能(FOIS)と他の項目との関係を Spearman の順位相関係数を用いて検討しました。さらに、交絡要因調整のため、目的変数を摂食嚥下機能(FOIS)、説明変数を年齢、性別、ADL、誤嚥性肺炎の既往の有無、CCI、外出の有無、離床時間および short QOL-D として順序ロジスティック回帰分析を行い、摂食嚥下機能に関連する要因を調べました。

 

解析の結果、ADL や併存疾患によらず、①離床時間が長い、②外出をする、③QOL が高い場合には FOISのスコアが有意に高く、摂食嚥下機能が良い傾向であることが分かりました。離床は体幹機能の維持や、意識レベルの向上、食欲減退防止に関連することが報告されています。長時間の離床は摂食嚥下に有利な安定した姿勢保持につながることに加え、摂食嚥下関連筋群の筋力維持や食べる意欲にも関連していると考えられます。また、加齢による活動障害由来のストレスで QOL が低下し、扁桃体※7や海馬※8に影響したり、認知機能低下が生じたりする可能性が知られています。よって、QOL が高く、慢性的なストレスから解放されたことで脳機能が健全に保たれたことが摂食嚥下機能と関連したと推測されます。外出については、好きな場所へ行く、自発的に社会と繋がることで精神的な健康の改善や認知機能低下防止が期待できます。さらに外出を契機に長時間楽しく離床できるという効果もあります。このように外出により QOL 向上と離床を促すことが摂食嚥下機能と関連したと考えられます。

 

研究成果の意義

これまでに報告されている QOL と摂食嚥下機能についての研究は、ADL が自立した者を対象としたものが多数であり、いずれも、思ったように食事を摂れなくなると QOL が低下すると論じていました。ADL が自立していない要介護高齢者を対象とした研究は少なく、離床や外出等の活動性と摂食嚥下機能の関連を調査したのは本研究が初めてです。訓練の実施が困難な要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションに関して、これまでは科学的根拠をもって摂食嚥下機能にアプローチする手段がありませんでした。本研究で、活動性や QOL を高めるという周囲からの働きかけによる心理的アプローチが摂食嚥下機能に関連する可能性が示唆されました。この知見は、摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者に対し、訓練指導だけでなく日常の過ごし方を考慮したアプローチを行うなど、摂食嚥下リハビリテーションの選択肢の多様化に繋がります。今後は、摂食嚥下機能の維持につながる具体的な離床時間の検討や、活動性や QOL と摂食嚥下機能の因果関係を検証する予定です。

 

用語解説

※1 摂食嚥下リハビリテーション・・・・・・・・食事を噛んだり飲み込んだりするために必要な筋肉を鍛えたり、食事の姿勢の調整や、食べ方の指導を行うこと。

※2 離床・・・・・・・・ベッドから離れて過ごすこと。

※3Glasgow Coma Scale, GCS・・・・・・・・意識レベルを評価するスケールで、開眼機能、運動機能、言語機能から成る。今回、意識があっても ADL が低く動いたり喋ったりできない人が多いため、開眼機能のみを記録した。

※4 Charlson Comorbidity Index, CCI・・・・・・・・複数の重病をもつ患者の推定死亡率をスコア化する評価方法。

※5 Quality of Life Questionnaire for Dementia, short QOL-D・・・・・・・・アンケート形式の認知症患者の QOL 評価方法。対象者の家族または介助者に回答してもらう。今回、対象者の ADL が低いために自ら回答できないため、他者による QOL 評価で信頼性、妥当性が証明されている方法を採用した。

※6Functional Oral Intake Scale, FOIS・・・・・・・・Level.1「経口摂取なし」から Level.7「正常(制限なく通常の食事ができる状態)」の 7 段階での評価方法。

※7扁桃体・・・・・・・・五感から刺激を受け取る脳の領域。五感からの刺激は摂食嚥下に重要である。

※8海馬・・・・・・・・記憶を司る脳の領域。記憶との照合により食べ物を認知することは摂食嚥下に重要である。

 

論文情報

掲載誌:Gerontology

論文タイトル:Higher Activity and Quality of Life Correlates with Swallowing Function in Older Adults with Low Activities of Daily Living 

 

詳細▶︎https://www.tmd.ac.jp/press-release/20211102-1/

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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