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我が国における子供の数と学歴・収入の関係 全国調査から明らかになる少子化の実態

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発表者

ピーター 上田(東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健政策学分野客員研究員)

坂元 晴香(東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健政策学分野特任研究員)

野村 周平(東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健政策学分野特任助教)

 

発表のポイント

・子供の数と学歴・収入の関係を明らかにするため、出生動向基本調査のデータ分析を行った。

・子供を持たない人の数は、男女とも過去30年の間に3倍近くに増えていた。

・男性では高学歴・高収入であるほど子供を持つ割合が多いことが明らかになった。

 

発表概要

日本における少子化が課題となっている。しかしながら、その背景要因については不明瞭な部分が多く、特に経済的状況や学歴がどのように関係しているかについては明らかになっていない。東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室は、1943 年から 1975 年の間に生まれた人を対象に、夫婦が持つ子供の数がどのように変化しているか、また子供の数は収入や学歴によってどのように変わるのかを調べるために、国立社会保障・人口問題研究所が実施する出生動向基本調査を用いて分析を行なった。その結果、1943 年-1948 年の間と、1971-1975 年の間に生まれた人を比較すると、子供を持たない人の割合は、男性では 14.3%から 39.9%、女性では 11.6%から 27.6%にまで増えていることが明らかになった。男性を大卒以上とそれ以下で比較した場合、大卒以上で、また収入が高い人ほど子供を持っている割合が大きいことがわかった。また、1943 年-1948 年生まれと 1971-1974 年生まれの男性を比較すると、収入が高い男性よりも収入が低い男性の方が、子供を持たない割合の増加度合いは大きかった。女性では、1956 年から 1970 年の間に生まれた人では大卒以上の方が子供を持つ割合が少なかったが、1971-1975 年の間に生まれた人では大卒以上とそれ以下では子供を持つ割合に有意差はなかった。分析結果は 2022 年 4 月 27 日に専門誌「Plos One」に掲載された。

 

発表内容

2020 年に出生した子供の数はおよそ 84 万人と 1899 年の統計開始以降最低の数を記録した。少子化の進行が著しい日本においては、政府を中心に様々な対策が取られているが、合計特殊出生率は近年では 1.3 前後を推移しており、抜本的な解決には至っていない。少子化の原因には様々な可能性が指摘されている。例えば、先行研究からは、男性の収入や雇用形態が男性の未婚化に繋がることや(そして、未婚化は結果的に少子化につながる)、日本の過酷な労働条件では女性が出産後にも仕事を継続することが難しく、高学歴な女性ほど子供を諦めている可能性があることも示唆されている。しかしながら、このような収入や学歴と子供の数についてはこれまでのところ十分な研究がなされていない。本研究では、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査を用い、日本人の子供の数がどのように変化しているのか、所得、教育、年齢を中心に分析した。これらの分析は、40 代の時点での子供の数を用いて行った。

 

男女が持つ子供の数の変化:1943-1947 年生まれと 1971-1975 年生まれの比較(40-49 歳時点)(図1)

・男性では、1943-1947 年生まれと 1971-1975 年生まれを比較した場合、子供を持たない人の割合は 14.3%から 39.9%に増加していた。

・女性では、1943-1947 年生まれと 1971-1975 年生まれを比較した場合、子供を持たない人の割合は 11.6%から 27.6%に増加していた。

・子供を持っている人の場合、子供を1人だけ持っている人の割合は増え、一方で子供を2人以上持っている人の割合は減少していた。

・合計出生率は、男性では 1943-1948 年生まれは 1.92(95%信頼区間(95% CI): 1.86 –1.98)だったのが、1971-1975 年生まれでは 1.17(95% CI: 1.13-1.22)に減少していた。女性ではこの数字は 1.96 (95%CI: 1.91-2.01)から 1.42(95%CI: 1.37 – 1.46)へ減少していた。

図1.世代別・男女別の子供を持っている割合(1943-1975 年生まれ)

左は 40 代時点での子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、右は出生年代別の 40 代時点での合計出生率の推移を示す。

 

学歴・収入と子供の数の関係(図2-1、2-2、3)

・男性では、1943-1975 のどの年代に生まれた人でも、収入が高いほど子供を持たない人の割合は少なかった。また合計出生率についても高所得と低所得を比較した場合には高所得の方が高かった。例えば、1943-1947 年生まれと 1971-1975 年生まれの間で子供を持たない人の割合を比べた場合、最も所得が低い層(年収 300 万以下)ではこの数字は25.7%から 62.8%に増えていて、合計出生率も 1.74 から 0.73 に減っていた。一方で、最も所得が高い層(年収 600 万以上)では子供を持たない人の割合は 6.9%から 20.0%に増えていて、合計出生率は 2.10 から 1.60 に減っていた。

・男性では、1943-1947 年の間に生まれた人を除き、大卒以上の学歴の人ほど子供を持っている傾向にあった。

・女性では、1956-1970 年の間に生まれた人では、大卒の人ではそれ以外の人と比べて子供を持っている人の割合が少なく、合計出生率(Total Fertility)も低かった。しかしながら、1971 年以降に生まれた場合は、大卒とそれ以外の人とでの差異は見られなかった。

図2-1.収入と子供の数(男性)

左は年収別に見た 40 代時点での子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、右は年収別に見た出生年代別の 40 代時点での合計出生率の推移を示す。 

 

図2-2.学歴と子供の数(男性)

左は 40 代時点での学歴別に見た子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、右は学歴別に見た出生年代別の 40 代時点での合計出生率の推移を示す。

 

図3.学歴と子供の数(女性)

左は 40 代時点での学歴別に見た子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、右は学歴別に見た出生年代別の 40 代時点での合計出生率の推移を示す。

 

子供の数と社会経済的要因の関係(1971-1975 年生まれ)

・男性では子供の有無、及び3人以上子供がいるかどうかは、収入と関係しており高収入の人ほど子供を持っている割合が多く、また3人以上の子供がいる割合も多かった。また、非正規雇用・パートタイムの人では、子供を持っている人の割合及び3人以上の子供がいる割合ともに正規雇用の人と比べて少なかった。

・女性では、正規雇用の人ではそれ以外の人と比べて子供を持っている割合及び3人以上子供がいる割合がともに少なかった。

・男女ともに、人口 100 万人以上の自治体に暮らす人は、人口非過密地域に暮らす人と比較して子供を持っている割合及び3人以上子供がいる割合がともに少なかった。

 

議論

・日本では深刻な少子化が言われているが、その原因は子供を持たない人の割合の増加、及び子供を複数持つ人の割合が減っていることの双方があることが明らかになった。また男性では高収入・高学歴であるほど、子供を持っている人の割合及び3人以上子供がいる人の割合が多かった。さらに、1971-1975 年生まれでは学歴・収入に加えて雇用形態も子供の有無及び子供の数に関係していることが明らかになった。

・先行研究から、男性の低学歴・低収入・非正規雇用/無職が、性交渉未経験、未婚、異性との交際経験が乏しいことに関係していることがわかっている。日本では 95%以上の子供が婚姻関係にある夫婦から生まれることからも、その前段階である異性との交際、性交渉、婚姻に続いて子供を持つことに対して男性の社会経済的環境の果たす役割の大きさが改めて認識された形である。近年の特に若年層での雇用の不安定化が(そして結果として生じる低収入が)異性との交際、婚姻、そして子供の有無に影響を及ぼしていると考えられる。

・加えて、子供を育てるのにかかる費用が、特に世帯年収の低い夫婦に子供を持つことを躊躇わせている可能性は先行研究でも指摘されている。実際に我々の研究でも収入が多いほど、子供を三人以上持つ人の割合が増えている。

・女性の学歴と子供の関係に関しては、これまでは高学歴の女性ほど子供を持たない割合が高いとされていた。実際、欧米の先行研究でも同様の指摘があるが、こうしたギャップは近年では縮小傾向にある(高学歴女性とそれ以外の女性での子供の数の差)。近年、スカンジナビア諸国を対象とした調査では、むしろ学歴が最も低い階層に属する女性の方が40歳時点では子供を持たない割合が高いことがわかっている。北欧諸国のように、女性が出産後も就労を継続できる環境にある場合には、女性が経済的に自立している方が家族形成にとって有利とする考え方があり、結果として学歴が高い女性の方が(そして結果として高収入となる女性の方が)より子供を持つ可能性が指摘されている。今回の我々の調査研究からも、女性の学歴と子供の数の間に見られたギャップは 1971-1975年生まれでは消失していることが明らかになった。この傾向がさらに若い世代でも続くのか、さらに諸外国でも見られている逆転現象が見られるのかは(高学歴女性の方が子供を持つ割合が高くなるのか)、さらなる研究が必要である。

・本研究では大都市に住んでいる女性ほど子供を持つ割合及び三人以上子供がいる割合が少なかったが、この傾向は他国からの報告とも一致する。これは、子供がいない方が地方への移住が簡単であることや、大都市の住環境等が関係している可能性が考えられる。

 

発表雑誌

雑誌名:Plos One(2022 年 4 月 27 日掲載)

記事タイトル:Salaries, degrees, and babies: trends in fertility by income and education among Japanese men and women born 1943-1975 – analysis of national surveys

著者:Cyrus Ghaznavi, Haruka Sakamoto, Lisa Yamasaki, Shuhei Nomura, Daisuke Yoneoka, Kenji Shibuya, Peter Ueda

DOI 番号/記事 URL:

https://journals.plos.org/plosone/article/authors?id=10.1371/journal.pone.0266835

DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0266835 

 

詳細▶︎https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400187301.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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