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バーチャルリアリティにおいて「第 3・4 の腕」の身体化に成功

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発表者

荒井 謙 (東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻 博士後期課程)

齊藤 寛人 (東京大学先端科学技術研究センター 特任助教)

福岡 正彬 (慶應義塾大学大学院理工学研究科 研究員)

上田 祥代 (豊橋技術科学大学大学院工学研究科情報・知能工学系 助教)

杉本 麻樹 (慶應義塾大学理工学部情報工学科 教授)

北﨑 充晃 (豊橋技術科学大学大学院工学研究科情報・知能工学系 教授)

稲見 昌彦 (東京大学先端科学技術研究センター 教授)科学技術振興機構

発表のポイント

・バーチャルリアリティ(VR)環境で、足先と連動する余剰肢ロボットアームを開発しました。

・装用後、まるで自身の身体のように知覚することが可能になりました。

・自分の腕が増えたような感覚と余剰肢ロボットアームの周囲に対する知覚を理解することで、余剰肢ロボティクス設計における課題解決への貢献が期待されます。

発表概要

ロボットアームなどにより身体機能を拡張するためには、自らの身体の一部として取り込み、容易に操作できることが重要となります。杖のような道具の身体化では代替(例:脚の代わり)や延伸(例:脚を伸ばす)として説明されてきた一方で、第 3・4 の腕としてのロボットアームのような「付加」的な身体化の報告は多くありませんでした。

東京大学大学院工学系研究科の荒井謙大学院生、先端科学技術研究センターの齊藤寛人特任助教、稲見昌彦教授らは、慶應義塾大学の福岡正彬研究員、杉本麻樹教授および豊橋技術科学大学の上田祥代助教、北﨑充晃教授と共同で、VR 空間において、足先の動きと連動する余剰肢ロボットアームを開発し、身体化する実験に成功しました。本研究は、余剰肢ロボットアームを装着した際のシステム周囲に対する知覚(近位空間:注 1)や、自分の腕が増えたという感覚(余剰肢感覚:注 2)を捉えることに成功し、余剰肢ロボットシステムに対する身体化を説明する世界で初めての試みとなります。

本研究成果は、2022 年 6 月 27 日(英国夏時間)に Scientific Reports 誌に掲載されます。

発表内容

私たちは自身の身体を巧みに操り、日々の生活において大抵のことをこなしています。一方、身体だけでは難しい動作や作業は、道具を使用することで解決しています。例えば、ハサミを用いて紙を綺麗に任意の形に切ることができます。それでは、もし四肢やその先にある指を増やすことができたらどうなるでしょうか。この問いに対する研究の一つに余剰肢ロボティクスがあります。この研究は、人工的に設計された余剰肢を付加することで身体機能の拡張を目指すものであり、人とシステムが協調して動くことを前提としています。つまり、生まれ持った腕や脚などと同様に、余剰肢ロボットシステムが意図したとおりに動くことが期待されています。

新たな身体の一部としてはたらく余剰肢ロボットシステムを構築する際には、システムを自分の身体のように捉え、無意識に抵抗なく扱えるようにすることが重要です。この点を考慮して余剰肢ロボットシステムを設計できれば、操作者にとってシステムはシームレスに動作し、ロボットが身体の一部のように扱える状態になると考えています。しかし、従来の余剰肢ロボティクスの研究では、その設計や制御の検討が多く実施されており、ロボットシステムを身体の一部として扱えるかどうかについて十分に調べられていませんでした。

生まれ持った身体ではない対象を自分の身体として捉えられるようになる感覚は「身体化」と呼ばれ、認知科学や神経科学の観点からもよく議論されてきました。また、この議論では杖やハサミなどにあるような「代替」や「延伸」といった身体機能の拡張に伴う知覚変化の検討が着目されてきましたが、余剰肢ロボティクスのような「付加」的な身体機能の拡張に伴う知覚変化を検討した先行例は多くありませんでした。

本研究グループが開発したVR 環境下で動作する余剰肢ロボットシステム(図 1)は、一人称視点の視覚情報を提示するヘッドマウントディスプレイと、装用者の動きを検知するトラッカー、そして、VR 空間において余剰肢ロボットアームでボールを触った際に足先に反応が返される触覚提示デバイスにより構成されます。頭部・腰・右手・左手・右足・左足の6 箇所に取り付けられたセンサーにより装用者の動きを捉え、VR 環境上のアバターの全身運動とロボットアームの関節角度に変換されます。余剰肢ロボットシステムの一部は無線化されており、視覚・触覚フィードバック(注 3)における遅れがなく装用時にスムーズに動作するように設計されています。実験には健常者 16 名が参加し、余剰肢ロボットシステムの装用を学習するため装用者が余剰肢ロボットアームでボールを触るという課題(ボールタッチ課題)に取り組み(図 2)、余剰肢であるロボットアームを自分の身体の一部として捉えられるようになるのか、また、ロボットアーム周辺の近位空間に関する知覚変化が起こるのかについて調べました。実験後、主観的な感覚の変化を捉えるため、実験参加者に身体感覚に関する7段階評価のアンケートを依頼し、これを主観評価スコアとして解析に使用しました。その結果、余剰肢ロボットシステムの装用学習後、余剰肢ロボットアームを身体化で

きた際に重要な指標となる身体所有感(注 4)、行為主体感(注 5)および自己位置感覚(注 6)を覚えたという結果が主観評価スコアから得られました。また、視覚・触覚フィードバックに対する応答時間を計測したところ、応答時間が余剰肢ロボットアームの装用前後に大きく変化したことから、ロボットアーム周辺に生じた視覚と触覚の情報統合において、知覚変化を捉えた可能性が示されました。加えて、この知覚変化(近位空間)と自分の腕が増えたと感じる主観評価(余剰肢感覚)との間に正の相関があることが明らかになりました。

本研究では、余剰身体部位の付加により身体機能を拡張した結果、装用者は生来の身体部位とは異なる新たな身体部位を得たという感覚が芽生えることを示しました。この感覚の出現は、余剰肢ロボットシステムの設計上、抵抗のない操作を検討するための重要な指標になり得ます。また、認知科学の分野においても身体化について精緻な議論が進むことが期待されます。

本研究は、JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト(JPMJER1701)の支援を受けて実施されました。

発表雑誌

雑誌名:「Scientific Reports」

論文タイトル: Embodiment of supernumerary robotic limbs in virtual reality

著者:Ken Arai*, Hiroto Saito, Masaaki Fukuoka, Sachiyo Ueda, Maki Sugimoto, Michiteru Kitazaki, Masahiko Inami

DOI 番号:10.1038/s41598-022-13981-w

用語解説

(注 1)近位空間

自身の身体の周辺を取り巻く空間を指し、外界からの刺激を直接的に感じることのできる範囲を指す。自己近傍空間やペリパーソナルスペースともいう。

(注 2)余剰肢感覚

生まれつき持った身体に加えて付加的に身体部位を持つ時に覚える感覚を指す。

(注 3)視覚・触覚フィードバック

あるイベントや現象における情報をヒトが持つ視覚および触覚を通じて伝達すること。

(注 4)身体所有感

ある対象に対して自身の身体の一部、またはすべてであるかのように感じること。

(注 5)行為主体感

ある行為に対して自身の企図に応じて実施されたものであると感じること。

(注 6)自己位置感覚

ある対象が存在する位置に自身の位置が重なって存在するように感じること。VR 空間でのアバターにおける議論で取り上げられることが多い。

添付資料

図 1 本研究にて使用した余剰肢ロボットシステム

システム概要図。点線は無線接続を表し、実線は有線接続を表す。

 

図 2 システム装用を練習するためのボールタッチ課題

装用者は第一人称視点でロボットアームを視認している。

詳細▶︎https://www.tut.ac.jp/docs/PR220627.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

バーチャルリアリティにおいて「第 3・4 の腕」の身体化に成功

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