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左右の腕を2人が独立して操作するバーチャルアバターの身体性~他者が操作する腕の動きの意図を知ることがその腕の自己身体感を高める~

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<概要>

バーチャルリアリティを用いて、2人のユーザーが1つのアバターの左右の半身を操作する結合身体アバターを開発しました。しかし、他者が操作する身体部位をどのようにしたら自己身体と感じられるのでしょうか? 実験により、他者が操作する腕に対する自己身体性は、自分が制御する腕に比べて低いものの、他者の意図を予測する視覚情報があれば、他者が操作する腕に対する自己身体感を高めることができることを明らかにしました。将来的には、自律駆動する義肢に感じる違和感を減らす設計にも貢献することが期待できます。

<詳細>

人は1つの身体を持ちます。しかし、バーチャルリアリティでは、2人の異なる人が1つのアバターを共有身体化することができます。これは、離れた場所にいる人が共同作業を行う新しい方法を提供します。これまでに、2人の動きを平均化することで動きを制御する共有身体アバターが開発されています(Hagiwara et al, iScience 2020)。共有身体アバターの動きは、個々の人の動きよりも直線的で滑らかであるため、精密な作業に向いています。

しかし、アバターの体の一部を別の人が完全に操作する方法については、これまで研究されていませんでした。

そこで、豊橋技術科学大学の博士後期課程学生 Harin Hapuarachchi と北﨑充晃教授は、左右の半身を別々の人が操作する結合身体アバターを開発し、パートナーである他者が操作する腕の身体性に影響を与える要因を研究しました。

研究グループは、結合身体アバターの別々の人が操作する2本の腕に対する行為主体感と身体所有感を測定し、アバターの腕にナイフが刺さるときの皮膚コンダクタンス反応を測定しました。また、実験では、参加者はペアになり、ランダムな位置に出現する目標物体に両手を使って到達するよう求められました。その結果、行為主体感、身体所有感、皮膚コンダクタンス反応は、他者が操作する腕と比較して、自分が操作する腕に対して有意に高くなりました。さらに、2人が別々に操作する両手で1つの目標物に到達するという共通の意図がある場合や、他者の目標物を見ることができる場合には、他者の目標物が見えない場合に比べ、他者が操作する腕に対する行為主体感や身体所有感は有意に高くなりました。

これらの結果は、他者に制御された腕に対する自己身体性は、自分が制御する腕に比べて低いものの、他者の意図を予測することを可能とする視覚情報が、他者に制御された腕に対する自己身体感を向上させることを示しています。

筆頭著者の Harin Hapuarachchi は、「結合身体アバターは、2人以上の能力を組み合わせることで、マルチタスクの効率化や障害者支援に活用できる可能性があります。さらに、将来的には自律駆動型義肢の研究プラットフォームにもなり得ます。たとえば、義肢がユーザーの意思に関係なく自動的に動くと人は違和感を覚えます。しかし、今回の研究結果は、義肢の目標や意図がユーザーに共有・視認されれば、ユーザーはより違和感を感じなくなることを示唆しています」と述べています。

北﨑充晃教授は、自分が制御していない腕に対する所有感や行為主体感は他者の意図が伝わる場合でも、自分が操作する場合に比べるとかなり弱いことを指摘しています。生理反応にも、意図や目標の共有条件による有意な差は見られず、今回の成果は未だ限定的であり、研究は現在も進行中であるとのことです。

結合身体アバターは、2人以上の人が、それぞれの得意な身体部位や技能を組み合わせるという新しいタイプの共同作業方法を提供します。また、将来的には、より自然に感じられる自律駆動型義肢の設計にも貢献することが期待されます。

本研究は、2022 年 7 月 26 日付の Scientific Reports に掲載されました。

図1:結合身体アバターの概念図

 

図2:実験の条件:(左上)共通の目標に到達する条件、(右上)別々の目標に到達するが、他者の目標も見ている条件、(下)別々の目標に到達し、他者の目標が見えない条件

動画1:研究の概要

https://youtu.be/NNLQiSGNWxs

<論文情報>

Hapuarachchi H., and Kitazaki, M. (2022). Knowing the intention behind limb movements of a partner increases embodiment towards the limb of joint avatar, Scientific Reports, https://doi.org/10.1038/s41598-022-15932-x

参考

Takayoshi Hagiwara, Gowrishankar Ganesh, Maki Sugimoto, Masahiko Inami, and Michiteru Kitazaki (2020). Individuals prioritize the reach straightness and hand jerk of a shared avatar over their own. iScience, https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.101732

 

本成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「稲見自在化身体プロジェクト」(課題番号:JPMJER1701)および、JSPS科研費(課題番号:JP20H04489)によって得られたものです。

 

詳細▶︎https://www.tut.ac.jp/docs/PR220727.pdf

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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