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立位姿勢における体幹の柔軟性(分節性)を客観的に評価する解析手法を開発

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ポイント

・加速度信号を用いて立位姿勢における体幹を評価する手法によって、体幹の分節性が適応的に制御されていることを世界で初めて明らかにした。

・体幹の構造的な冗長性を制御するためには、胸郭領域の加速度の調整による「コヒーレント」化が重要である可能性を示した。

・立位姿勢の詳細な評価やリハビリテーションの効果判定などへの活用が期待できる。

国立大学法人東京農工大学大学院工学府応用化学専攻の田中和哉社会人博士(帝京科学大学)、跡見順子客員教授らは、体幹に生じる加速度信号の同期度や類似度から、静的にみえる立位姿勢においても、体幹の剛性と分節性が適応的かつ繊細に制御されていることを、世界で初めて明らかにしました。

 

本研究成果は、ScientificReports(8月1日付)に掲載されました。

論文タイトル:Control  of structural redundancy  from  the head to  trunk in the human upright standing revealed using a data-driven approach

URL:https://doi.org/10.1038/s41598-022-17322-9

研究の背景

跡見順子客員教授の研究グループは、地球上で生物が重力に抗して適切に形態を維持するためには、動的な不安定性につながる柔らかさという物性を環境適応的に制御することが必要だと考え、ミクロとマクロの視点から研究を行っています。ミクロレベルではストレスタンパク質・αB-クリスタリンに注目し、その働きが、細胞における形態や力の適応的な制御に重要であることを示しました(Shimizuet al.,2016, Hayasakiet al.,2020, Ohto-Fujitaet al.,2020)。一方でマクロレベルでは、人間が重力環境下における活動において、身体の構造的な柔らかさをどのように制御しているかを評価する方法がありませんでした。

人間は四足歩行から進化する過程で直立二足による姿勢や動作を獲得しましたが、その際、身体の各部位を狭い2つの足底の上に縦に長く配列させる必要が生じた結果、立位姿勢が不安定となりました。この不安定な立位姿勢の制御に、体幹は非常に重要な役割を担っていることが知られています。頭部や体幹は身体全体に対して50%以上の質量比を占める大きく重い構造体です。中でも体幹は、多くの骨や関節を筋や靭帯、皮膚など多くの軟部組織で連続的に支える構造的な冗長性と高い柔軟性を有しています。近年では多くの研究が、加齢や不良姿勢などによって体幹の柔軟性の制御機能が支障をきたすと、腰痛や椎間板ヘルニアなどの疾患やバランス能力の低下につながる可能性を示しています。本研究では、このような立位姿勢における体幹の柔軟性を詳細に評価する方法の開発を行いました。

研究体制

本研究は、東京農工大学大学院工学府材料健康科学寄附講座跡見・清水研究室の身心一体科学研究チームメンバーのうち、田中和哉社会人博士(帝京科学大学医療科学部准教授)、跡見順子客員教授(東京大学名誉教授)、清水美穂客員准教授、また共同研究者として、杏林大学保健学部跡見友章教授、獨協医科大学医学部藤木聡一朗講師、大阪大学数理・データ科学教育研究センター高野渉特任教授、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所長谷川克也研究開発員、立命館大学スポーツ健康科学部長野明紀教授による研究チームで行いました。

研究成果

本研究では、2点の加速度信号の類似度や同期度が物体の分節性を表すことに着目し、時間分解能の高い加速度センサを多点で用いることで、体幹の分節性とその適応的変化について検証しました。研究方法としては、頭部から骨盤部にかけて22個の小型加速度センサを貼付し、開眼時と閉眼時の2つの条件で、静止立位時の頭部-体幹に生じる加速度を計測しました。その後、条件の違いによる立位での頭部-体幹の動揺制御をデータ駆動型アプローチにて解析し、体幹の分節性の程度と変化について評価しました。加速度信号の類似度と同期度の解析から、加速度信号がコヒーレント(注1)を示し、それは条件の相違によって変化することをヒートマップで表わすことに成功しました。また開閉眼によって、体幹の部位に応じて分節性が異なる分布を示すことも明らかになり、特に胸郭領域において特徴的であることがわかりました。従って、人間が立位姿勢において体幹を適応的に制御するためには、胸郭領域の分節性を制御することが一つの重要な因子であると考えられました。本研究の結果から、人間は立位姿勢を適切に制御する上で、体幹が有する構造的な冗長性を分節性と剛性の調整により制御しており、加えて適応的に変化させていることが示唆されました。

今後の展開

本研究により、体幹の適応的な変化を詳細に可視化することに成功しました。今後は、立位姿勢において体幹の分節性がどう調整されているか評価し、腰痛症や椎間板ヘルニアなどの疾患との関連性を検討することで、非侵襲的かつ早期に病態につながる因子を発見できることが期待されます。また、体幹制御の重要性はリハビリテーションの分野や日本・アジアの身体技法などでも注目されており、本手法は客観的な評価方法としても有用となり得ます。社会貢献活動においては、超高齢社会に生きる人々を支える健康戦略の一環として、人間が重力環境下で形態を適切に維持するために構造の動的不安定性を制御していることの重要性について、ミクロとマクロの視点から科学教育として社会に広く普及させるように取り組んでいきます。

用語解説

 注1)コヒーレント複数の波形の位相や振幅に一定の関係性があること

図1.加速度センサデータ間の同期度ヒートマップに見られる立位時の体幹における構造的冗長性の制御

左側の縦軸と横軸がセンサ番号、右縦軸が同期度である。

静的に見える立位でも体幹全体が分節的に制御されていることがわかる(前後方向データ)。

 

図2.視覚フィードバックの有無により体幹の分節性が適応的に変化することを同期度で解析したヒートマップ

開閉眼することによって体幹の分節的制御のパターンが変化することがわかる(前後方向データ)。

詳細▶︎https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2022/20220826_01.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

立位姿勢における体幹の柔軟性(分節性)を客観的に評価する解析手法を開発

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