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コロナ禍で高齢者の移動動作能力が通常の1年の3倍以上低下

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COVID-19 流⾏下において、⾼齢者は、外出⾃粛による⾝体活動量の減少、下肢機能の低下、フレイル(虚弱)の進⾏など、健康に⼤きな影響を受けたことが報告されています。しかし、それらはアンケート調査による⾼齢者の主観に基づく評価であったため、具体的な機能低下の実態は、⼗分に分かっていませんでした。そこで本研究では、COVID-19 流⾏前から毎年実施している体⼒測定のデータ(茨城県笠間市在住の男性 107 ⼈、⼥性 133 ⼈、平均年齢 73.2 歳)を⽤いて、2016 年から COVID19 流⾏下の 2020 年にかけて、⾼齢者の各種体⼒の推移を調べました。

その結果、複合的な移動動作能⼒を評価する「Timed Up & Go」という体⼒テストの成績が、通常の 1 年間では平均して男性で 0.05%、⼥性で 0.12%遅くなる(=機能が低下する)ことに対して、COVID-19 流⾏下の 2019 年から 2020 年の 1 年間では、男性で 0.7%(+0.42 秒)、⼥性で 0.36%(+0.22 秒)遅くなることが分かりました。すなわち、COVID-19 流⾏下では、通常の 1 年間の加齢変化よりも、移動動作能⼒が 3 倍以上低下したこととなります。他にも同様の顕著な体⼒低下は、男⼥ともに 5 m 通常歩⾏時間(歩⾏能⼒)や⻑座体前屈(柔軟性)でも⾒られ、さらに、⼥性においてのみ、握⼒(上肢筋⼒)や 48 本ペグ移動(⼿指巧緻性)でも確認されました。

本研究により、今後のウィズコロナ時代に向けて、体⼒の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に⾏うことの必要性が⽰唆されました。

研究代表者

筑波⼤学 体育系

⼤藏 倫博 教授

研究の背景

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の流⾏を「パンデミック」と宣⾔してから丸 2 年が経過し、これからのウィズコロナ時代における⽇常⽣活の在り⽅について、さまざまな議論が交わされています。COVID-19 流⾏下において⾼齢者は、外出⾃粛による⾝体活動量の減少、下肢機能の低下、フレイル(虚弱)の進⾏など、健康や暮らしに⼤きな影響を受けたことが報告されています。しかし、それらの多くは、アンケート調査による⾼齢者の主観に基づく評価であったため、具体的な機能低下の内容や程度については、⼗分に分かっていませんでした。そこで本研究では、体⼒テストによる客観的な評価と、COVID-19 流⾏前からの追跡を⾏うことで、流⾏下では通常の加齢変化よりも機能低下がどの程度⽣じているのか、また、機能低下の内容に男⼥で違いがあるのかを調べました。

研究内容と成果

本研究は、茨城県笠間市で実施している「かさま⻑寿健診」(2009 年に開始された、⾼齢者の健康、体⼒、⾝体活動に着⽬した中規模集団の追跡調査)に参加した地域在住⾼齢者(男性 107 ⼈、⼥性 133 ⼈、平均年齢 73.2 歳)を対象とし、2016〜2020 年の 4 年間のデータを解析しました。これにより、COVID19 流⾏下では、通常の1年間で⽣じる加齢変化と⽐較して、体⼒(⾝体機能)が顕著に低下していることが確認されました。男⼥ともに顕著に悪化が確認された体⼒テストは、Timed Up & Go 注1)(複合的移動動作能⼒)、5 m 通常歩⾏時間(歩⾏能⼒)、⻑座体前屈(柔軟性)でした(図1)。Timed Up & Go では、体⼒テストの記録が通常の加齢変化の 1 年間で、平均して男性で+0.03 秒、⼥性で+0.07 秒遅くなる(=機能が低下する)のに対して、COVID-19 流⾏下の 2019 年から 2020 年の 1 年間では、男性で+0.42秒、⼥性で+0.22 秒遅くなっていました。5 m 通常歩⾏時間は、通常の 1 年間では、男性で−0.04 秒、⼥性で−0.01 秒と男⼥ともに通常の加齢変化では機能が維持されていましたが、流⾏下の 1 年間では、男性で+0.19 秒、⼥性で+0.15 秒遅くなりました。⻑座体前屈でも、通常では、男性で+0.33cm、⼥性で+0.84cm と維持されていましたが、流⾏下では、男性で−2.89cm、⼥性で−4.37cm と柔軟性の低下が⾒られました。すなわち、COVID-19 流⾏下では、通常の 1 年間の加齢変化よりも、移動動作能⼒が 3 倍以上、柔軟性は 5 倍以上低下したことになります。さらに、⼥性においてのみ、握⼒(上肢筋⼒)は 3 倍、48 本ペグ移動注2)(⼿指巧緻性)では 4 倍、通常の 1 年と⽐べて流⾏下では顕著な悪化が確認されました(図2)。以上の結果から、男⼥ともに移動動作能⼒や柔軟性が低下していることに加えて、⼥性でのみ上肢筋⼒や⼿指巧緻動作が低下していることが明らかになりました。

これらのことは、COVID-19 流⾏下のような⽇常活動が制約される環境においては、男⼥ともに複合的移動動作能⼒、柔軟性の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に⾏うことの必要性を⽰唆しています。さらに、⼥性に関しては、上肢筋⼒や⼿指巧緻動作への働きかけも必要と考えられます。

今後の展開

本研究では、地域在住⾼齢者の⾝体機能を体⼒テストにより客観的かつ縦断的に評価し、COVID-19 流⾏下での影響を明らかにしました。ただし、集団の平均的な体⼒の推移を観察したに留まり、個⼈ごとの影響の受けやすさなどは検証していません。今後は、対象者の質問紙調査データを照らし合わせて、⾝体機能低下が顕著であった⼈の特徴や背景要因を把握し、⾼齢者の体⼒向上への具体的なアプローチ法の⽴案を⽬指します。

参考図

図1 男⼥共に顕著な低下が確認された体⼒テストの結果(⻘線:男性、⾚線:⼥性、グレー線:2016年から 2020 年にかけての加齢変化の推移、⿊線:COVID-19 流⾏下の体⼒変化)

図2 ⼥性のみで顕著な低下が確認された体⼒テストの結果

⽤語解説

注1) Timed Up & Go

歩⾏能⼒や動的バランス、敏捷性(びんしょうせい)など、複合的な移動動作能⼒の総合的評価指標。椅⼦に腰かけた状態から合図とともに⽴ち上がり、3 m 前⽅のコーンを回って再び椅⼦に腰かけるまでの動作を最⼤速度で⾏う。この評価は、⾼齢者の⽇常⽣活機能(下肢の筋⼒、バランス、歩⾏能⼒、易転倒性)との関連性が⾼いことが⽰されており、医療現場だけでなく、介護現場での評価としても利⽤されている。

注2) 48 本ペグ移動

上肢機能の総合的評価指標。ペグを左右それぞれの⼿に⼀本ずつ持ち、⼿前の盤の⽳に最⼤努⼒で素早く移すように指⽰し、48 本のペグを全て移し終わるまでに要した時間を記録する。⼿腕作業検査とも呼ばれ、リハビリテーション分野で⽤いられている。

掲載論⽂

【題 名】 新型コロナウイルス感染症流⾏下の⾼齢者の体⼒の変化〜パフォーマンステストを⽤いた検討〜

【著者名】 寺岡かおり 1)2), 辻⼤⼠ 3), 神藤隆志 3), 徳永智史 1)4), ⼤藏倫博 3)5)6)

1) 筑波⼤学⼤学院 ⼈間総合科学学術院 ⼈間総合科学研究群 パブリックヘルス学位プログラム

2) 東京保健⽣活協同組合

3) 筑波⼤学 体育系

4) 医療法⼈⻯仁会 ⽜尾病院

5) 筑波⼤学テーラーメイド QOL プログラム開発研究センター

6) 筑波⼤学国際統合睡眠医科学研究機構

【掲載誌】 ⽇本⽼年医学会雑誌

【掲載⽇】 2022 年 10 ⽉ 25 ⽇

【DOI】 10.3143/geriatrics.59.491

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20221025140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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